屋敷に戻って
「何を理由に久弥さんのお宅に?」
僕たちに迫る美千留さんはまるで事件を捜査している警部のようだ。下手な返答をすれば更に疑われるだろう。……どうしよう。僕は浩司さんの耳に顔を近づけ囁く。
「(浩司さん、これどう説明するんですか。下手に言うと危ないかもですよ)」
「(そんなことは分かっている。だが、幽霊に会いにきただの言うとさすがにまずいな)」
この人、普通に仕事してればよかったのに。まあでもそれは呼んだ僕にも責任があるか。仕方ないうまくごまかそう。
「じ、実は……」
何かごまかそうとしたとき、
「ちょっと失礼」
美千留さんの携帯が鳴った。何か真剣な表情で電話の相手に頷き、電話を切ると、
「理由はともあれ副社長、急いでください。会議がもう始まっています」
「わかった戻ろう。では久弥君、亜美さんによろしく言っておいてくれ」
何とかごまかし、切り抜けられそうなところで浩司さんが地雷を踏んだ。
まるでキュピーンといったような目つきで美千留さんが見てきた。やばい。
「亜美さん?」
「あ、いや、何でもない。何でもないし何も言ってない」
あんたが何言ってんだと僕は心の中でツッコんだ。
「ほう、女に会ってたんですか。しかし副社長、あなたロリコンでしたよね?」
「さあ! 会議が終わってしまう。急ごうか月村君!」
「まさか久弥さんの妹に?!」
「ち、違います! 僕は一人っ子で妹はいません!」
「じゃあ、誰ですか? 亜美さんというお方は」
おい待て! 僕まで地雷を踏んでどうする、とりあえず早く出てってもらおう。
「ほら、急がないと会議遅れちゃいますよ。今度は美千留さんも一緒に来てくださいね。それではさようなら」
そういって玄関から外へと追い出した。
「あー、久弥さんまだ話は―――」
「ほら、行くぞ月村君」
まだ僕の話を聞きたがる美千留さんと、それを引いていく浩司さん。迎えに来た人がまだといい、戻りたくないと言っていた人が早く行こうという謎の光景を、僕は無視して家に入った。
そして入るなり一言、
「親がいなくてよかった」
数日後
大分騒動が収まったので僕と亜美たちはいつもの屋敷に来ていた。
「あー、やっぱりここは落ち着きますねー」
あずささんが亜美の部屋のベッドに横になりしみじみに言う。
「ここがいいなら、もうあんなことはしないでくださいよ」
「分かりました」
笑顔であずささんが返してきた。亜美もコクコクと頷く。
「それでは久弥さん、私とイチャイチャしましょ!」
ガタンッ!!
あずささんが言葉を発した瞬間、僕は右足の小指をベッドの足にぶつけた。
「だめ! 久弥とイチャイチャするのは私!」
ガタンッ!!
亜美がそういったとき、僕は反対の足の小指を亜美の部屋の机の角にぶつけた。
「何してるんですか久弥さん」
両足を抑えながら僕はしゃがみこんだ。
そして涙をこらえながら、
「イチャイチャとか、そういうことは僕は望みません!! 普通に遊べばいいじゃないですか! なんで僕が―――」
言葉を途中で遮るように部屋のドアが勢いよく開いた。
「おはよう! 今日も暑いが、相変わらずここは涼しいな!」
クソっ。まためんどくさい人が来たよ、僕帰ろうかな。
「なんだ、浩司ね。悪いけど今日は気分がいいの。久弥さんとイチャイチャするから帰ってくれる?」
相変わらず浩司さんにドSなあずささん。ていうかイチャイチャはしませんよ?
「ならぬ! 私にはやることがあるのだ! それでは早速」
そういって浩司さんは亜美の前に行き、
「好きです! 付き合ってください!」
「死ね」
いつものごとく、亜美に玉砕されて崩れ落ちた浩司さん。いい加減あきらめればいいのに。
そう思ったとき、
「な、なにしてるんですか?」
突然、ドアの方から声が聞こえた。
慌てて視線を向けるとそこには、スーツ姿で髪を肩にかけたきれいな女性が―――
「「「「えっ?」」」」
美千留さんを見て、四人の声が見事にハモったのであった。
ずいぶん久々な気がします。投稿遅れてごめんなさい。
次も頑張って早く投稿したいと思います。
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