副社長と秘書
「あのどちら様ですか?」
意味が分からないが、改めて尋ねてみた。
「これは失礼しました。私、〇〇社で副社長の秘書を務めております。月村美千留と申します」
慣れた感じで礼儀よく自己紹介をしてくる美千留といった女性。
言われなくても、たぶん浩司さんと同じ会社の人だよな。ていうか副社長の秘書ってもしかして―――
「実は私が秘書を務める副社長が、仕事中に急に抜け出し、探し回っていたところここの家に入っていくスーツ姿の男を見たと聞きましてお伺いしました」
「その人の名前を聞いても?」
「蔵寺浩司という男です。お心当たりが?」
やっぱりか!
ていうかあの人、副社長だったの?!
驚いたが、僕はすぐに気を取り直し、美千留さんの目を見て、
「すぐに連れてきます!」
そういって玄関で待っているように言った。
一瞬、美千留さんが僕のことを見て驚いたようだったが、すぐに表情を戻し、
「お願いします!」
きりっと言ってきた。
うん、この人とはなんか気が合うかもしれない。
会ったばかりなのに謎の信頼感が受け取れた。
「浩司さん」
二階に上がり、部屋にいた浩司さんに声をかける。
僕の声を聞くや否や、ビクッと肩を跳ねさせた。
「な、なんだ久弥くん」
震えながら眼鏡をクイッと上げて僕の方に振り向いた。
「どうしたんですか? 久弥さん」
亜美と遊んでいたあずささんが僕に聞いてきた。亜美も不思議そうに僕を見ている。
「浩司さんにお迎えが来ています」
そんな三人に僕は笑顔で告げた。
「まあー! それは残念ですね! それではごきげんよう!」
あずささんが笑顔で浩司さんに話しかける。
浩司さんはがっかりそうな顔を見せたが、すぐにあきらめたようにため息をつき、
「仕方ないな、では亜美さん、しばしのお別れです。呼んでいただければいつでも駆けつけます!」
そういって部屋から出た。
亜美はそれをガン無視して遊んでいた。
「お待たせしました」
玄関で待ってくれていた美千留さんに声をかける。
「ありがとうございます。えっと、すいません。まだ名前をお伺いしてませんでしたね。お名前を聞いてもよろしいですか?」
美千留さんが恥ずかしそうに聞いてきた。
意外とお茶目なのかもしれない。
「水谷久弥です。よろしくお願いします」
笑顔で返した。
そして美千留さんは僕の隣にいる浩司さんの方を向き、
「副社長」
笑顔のまま浩司さんを見るが目が笑ってない。
「は、はい」
恐る恐る浩司さんが返事を返す。
「どうするんですか?」
「な、なにがでしょうか」
「午後の会議」
そこから3分ほど説教が始まり、僕は美千留さんも気の毒だと思った。
浩司さんはどうやら、仕事は優秀なのに気持ちを突き通す感じがあるらしく、何かきっかけがあればすぐに会社を抜け出すのだという。今日の場合は言わなくとも亜美だな。
そして説教が終わり、僕はあることに気付く。
「ところで、どうして副社長は久弥さんの家にいたのですか? 初対面ですよね? それに会議を蹴ってでも抜け出す理由って」
その瞬間、僕と浩司さんは凍り付いた。
美千留さんはだいぶ重要人物なので覚えておいてください。
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