クールで危ないやつ
蝉の鳴く声が、じりじりと響いている。
僕は自分の部屋に引き籠っていた。
「久弥さん! なんで来てくれないんですか!?」
ぐてっと寝ていたところ、突然部屋にあずささんが入ってきた。
「ん~、だって暑いじゃないですか。夏休みぐらい部屋にいてもいいでしょう」
そう、夏休みになった。
あれ以来、どうも調子が良くない。最近よくつまずくし、たまにめまいがして倒れそうになる。
この4か月、僕の中の様々な常識が、覆された。そしてとても疲れた。もうゆっくりしたい。
「亜美ちゃんも暇を持て余してるんです。もちろん私も」
「そんなこと言われても、外暑いんですもん」
それに、行ったら行ったでまた面倒ごとになる予感しかしない。
「そんなこと言わずに、いきましょうよ~」
あずささんが、駄々をこねる。
だが僕の意志は揺るがない。
「嫌です」
「どうしても、ですか?」
悲し気な表情で下から見てくるあずささん。
可愛い。
だがしかし。
「その手には食いませんよ、そんなことで僕は―――」
「だめ?」
………………。
「そ、そんな手には―――」
涙目になる。
「行きましょう!! どこへでも!!!」
「あ、案外涼しいな」
思ったより亜美の部屋は涼しかった。
たぶん幽霊補正というやつだ。
「久弥」
「うわっ!!!」
急に亜美が横に出てきた。
見えるのに一瞬まじで分からなかった。
ていうか、
「亜美」
「なに?」
「お前ってもともと影薄い?」
「ひどいね、久弥って」
言ったとたんすねた。
なんで?! 嫌なの?
「おいそこまで落ち込む?」
「ただでさえ幽霊なのに、そこから影が薄いって」
「あっ! なんかごめん」
それは確かに嫌だよな。
これは僕が悪いか。
「亜美ちゃんは何をしてたの?」
あずささんが亜美に聞いた。
すると亜美が、
「そうだ、久弥に頼みたいことがある」
「頼み? なに?」
亜美は部屋の真ん中を指さし。
「あれ作るのに、足りない」
…………。
「なあ、お前あれどうやって作ったんだ?」
なんでそんなに器用なの?
部屋の真ん中には、前に亜美が作っていたトランプタワーよりもさらにでかいピラミッドができていた。
めっちゃ本物そっくりなんだけど。
「トランプ足りない」
「あー分かってる」
てっぺんがかけている。
4つくらいか。
てことは、
「トランプ買って来いと?」
「そう」
「なめんな!!」
「まあまあいいじゃないですか、トランプくらい。それにしても亜美ちゃんすごいわ! ほら! 久弥さん、トランプを買いに行きましょう!」
なんで僕が金出さなきゃなんだ。
いやね、そりゃあすごいよ。こんなでかいの、僕には作れない。ただここまで来たらもういいと思うんだけど。
てっぺんがちょっとかけてるくらいどうって事―――。
「……………暑い」
「そうですか?」
たぶん幽霊は暑さを感じないのだろう。
ぶっちゃけ40度くらいあるんじゃないかと思う。
「なんでトランプ数枚のために外に出なきゃなんですか?」
「まあいいじゃないですか、きっと亜美ちゃんも楽しいんですよ」
確かに、あの日以来、亜美はすごく生き生きとしている。
まあ死んでるんだけど。
と、その時。
「迷子かい? さあお兄さんと一緒に行こう」
公園の前を通ったとき、ふと怪しい光景を見た。
「大丈夫、お兄さんは優しいから、なんなら一緒に遊んであげようか?」
「えっと、おじさん誰?」
遊具で遊ぶ女の子に、メガネをかけた一見クールな成人男性が話しかけている。
明らかに他人のようだ。
「すいません。何してるんですか?」
さすがに危ないと思って、声をかけた。
「おっと、すまんね邪魔が入った、さあお行き」
そう彼がいうと、女の子は逃げるように走っていった。
そして僕の方を向き。
「どちら様かな、せっかくレディーと話していたのに」
姿勢を正し僕を見てきた。背も高い、普通にイケメンだ。
でも、さっきの子がレディー?
「いや、知らない男が女の子に話しかけていたら不審ですよそりゃあ」
僕が言うと、きりっと表情を変え、
「違うよ少年。僕は不審者じゃない。ただナンパをしていただけだ」
いや、ただナンパってよく堂々と……………。
ナンパ?
えっ、もしかして。
「先程の美しい彼女にね」
きりっと宣言する男。
うわ~面倒くさいやつだ。
そんで危ないやつ。
「あれほどのレディーを逃すとは、惜しいことをした」
……………。
うん、こいつロリコンだわ。
明日も投稿できるので、たくさん出します!!
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