束の間の変貌
「すいません。長々と」
涙を拭きながら、あずささんが言ってきた。
「そんなことがあったんですね」
「正直、誰にも言いたくなかったんです。 自殺はやっぱりだめですよね」
そんなにつらい事があって、それでも必死で生きようとしたあずささんはすごいと思った。
むしろあずささんを助けなかった人たち、そしてあずささんを置き去りにして逃げた両親に強い恨みを覚えた。
「あずささんは何も悪くないですよね?」
「う~ん、まあ言われると」
いや、本当にあずささんは悪くないと思う。
「でもそれじゃあ、あずささんの未練って?」
「たぶん、温もりですかね」
温もり? なるほど、分からない。
「まあ、そんなに深く考えないでください。 今は久弥さんや亜美ちゃんに合えて、すごく楽しいですから」
僕にも亜美にも合えて、か。
うん?そういえば亜美は。
「亜美」
「………」
やはり返事がない。
もしかしてなんかやばい?
だって昨日から全然動いてる様子ないけど。
「亜美ちゃん、昨日からずっとあのままですけど」
やっぱり?
「おーい、亜美ー」
目の前で呼ぶ、無表情でただただ前を向いているだけ、なにも反応がない。
だがしばらくして、無表情のまま僕と目を合わせる。
「亜美? どうした?」
僕が聞く。すると、
「んふふふふふふ!」
不気味に笑い出した。
えっ?
いつもあまり表情を変えない亜美のこんな顔は初めて見た。
「あ、亜美ちゃん?」
あずささんも恐る恐る聞く。
すると亜美は僕を見て。
「ねえ」
「なに?」
まるでキャラが変わっている亜美に困惑しながらも、返事を返す。
すると、亜美は
「死んで」
「…………えっ?」
その時、
ドゴーーーーーン!!!!
突然、体が浮きあがった感じがして、気が付くと僕の体は壁にぶち当たっていた。
体中に激痛が走る。
「なにしてるの?!! 亜美ちゃん!!!!」
あずささんが声をかけるが亜美はそれを聞かず。
「死んで!!! 死んで!!!!」
叫びながら僕に向かってくる。
片手には、木の椅子。
それを僕に向け、投げようとしている。
僕はなぜか体が動かなかった。
この感覚には覚えがあった。
この屋敷に初めて来たとき。
亜美は僕と友達になりたくて僕をいまの部屋まで連れてきたのだ。
だが今は友達になりたくてじゃない、
殺すためだ。
「やめなさい!!!!!」
あずささんが亜美を抑えた。
そして僕に向けて。
「久弥さん! とにかく今は屋敷の外へ!!」
亜美の変貌ぶりに全く理解が付かないが、とにかく僕は屋敷の中を全力で走った。
屋敷をでて
「なにがどうなってる?!」
「分かりません」
何とか亜美から逃げてきた僕と、あずささん。
亜美がどうしてああなったのか、さっぱり分からなかった。
正直、じっとしているのは何かを見ている感じだったのだが、違ったようだ。
昨日までトランプタワーを立てて遊んでいた亜美とはまるで別人………別幽霊だった。
僕が愕然としていると、
「ただ、一つ心あたりがあります。」
あずささんが、言ってきた。
心当たり?
「なんですか?」
そして、このことが納得いく理由を口にする。
「おそらく、亜美ちゃんの記憶が戻りました」
今日のラストです。
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