恋人を生き返らせるために自作小説でブクマ100↑を目指す底辺脱出物語
俺の彼女が死んだ。
そんな報せを受け、急いでここに駆け付けた。
建物に入り受付で用件を告げると、早速案内される。
……心疾患による突然死らしい。
結衣はまだ22だぞ? そんな若さでなるものなのか??
信じられないし信じたくもないが、俺の目に映った光景がそれを否定した。
「ご愁傷様です」
警察官の声。
ここは、警察署内の遺体安置所。
その中に横たわっている生気のないモノ…………結衣。
「うっ、ああっ、ああああ!!!!」
思考がぐちゃぐちゃになる。
何だこれは。こんなことが? え? なんでそんな、真っ白……?
あれ、嘘だ、先月婚約を結んで、あれえ?
だって、結婚するんじゃないか、どうしてそこにいるんだ??!
一緒に生きようって、なあ? 二人で笑い合ったじゃないか!!
おかしいな、こんなのは、こんなのって、無いだろう。
「ぐす、ぐす……」
俺の狼狽を見てか、結衣の横にいた人たち――結衣の家族が泣き出した。
その目元はすでに真っ赤になっている……。
俺がくる前にも悲しんでいたことが分かった。
「ケンジくん、結衣が死んじゃったよ……」
「お義母さん……」
泣きじゃくる結衣の母。
その背を撫でる隣の男の人は、俺に云った。
「健司君、すまない」
「なんで……お義父さんが謝るんです」
「娘を君に託すといった。それがもう叶わないからだ」
「…………」
義父の顔は形容できない表情をしていた。
なんと答えれば良いのだろう。
俺は結衣を見る。
寝ているようでいて、その実そうでない。
触らずとも硬直していることが感じ取れる。
血が巡っておらず、その肌は前に見た時より白かった。
そうか……結衣は、死んだのだ。
「……葬儀」
「え?」
「葬儀、俺も手伝います。手伝わせてください」
俺は実の父の葬式の手配をしたことがある。
葬式というのは忙しい――悲しむ暇もないほどに。
俺自身、まだ整理はつかない。
しかし今は、無性に働きたい気分だった。
…………余計な考えをしないで済むから。
* * * * * * * * * *
あっという間の三日間だった。
忙しすぎて、ぐったりするほど疲れている。
アパートに戻り、ひとりソファに腰を下ろす。
「ふぅ……」
ようやく人心地ついた。
「みんな、泣いてたな……」
通夜に訪れた結衣の友人たち。
結衣って、すごい好かれてたんだな。
そりゃあそうだよな。
あんなに可愛くて、
性格も良いんだもんな……
「……うっ、ううう」
塞き止めていた感情が、遂に決壊した。
「う、うううう!! 結衣、ゆいぃ、ぐす、俺一人になっちゃったよ。なんでっそんな残酷なことすんだよ? うう、これから、どうすればいいんだよ……!!」
心の底から愛していた。
結衣、結衣……!!!
心疾患? なんでよりにもよって結衣が?
この世界には腐るほど人間がいるんだ、他の奴でいいじゃないか!!
もし、神というものがいるのなら。
結衣をこんな運命に追いやった神を殺してやりたかった。
「おいおい、八つ当たりか?」
!!!?????
な、何だ!? 部屋に男がっ、強盗か!?
「だ、誰だ!!!!」
ふざけているのか、強盗は芝居がかったように手を広げ、
「佐藤健司君、君にチャンスを上げよう」
「な、なにを言って!」
「そう怖がるな。別に危害を加えるつもりはない」
その余裕たっぷりの様子が、俺を更に慄かせた。
「で、でてけええ!!! 今すぐだ! 今なら警察を呼ばないでやる!!」
「そういう奴に限って、去った途端に迅速に呼ぶよねぇ。恐怖した人間はそれだけの行為に手こずるものなのにさ。って、そうじゃないそうじゃない」
男は否定する手振りをすると、
「いいかい、ボクは君を助けに来たんだよ」
訳の分からないことを言いだした。
「……は?」
ゆ、油断でも誘っているのか?
「誘ってないから。用心深いねぇ」
「なぁ!??」
手で口を抑える。恐怖のあまり声に出ていたようだ。
「違う違う、心を読んでるんだよ」
「え……」
マジか?
「マジマジ。神っぽいでしょ? はい、神です。グフラミルディンって名前だけど、知らない? 超マイナーだから、知らないと思うけど」
神? グフラ……はぁ???
なに馬鹿なこと言ってるんだ。
「君、めんどくさいな。もう信じても信じなくてもどっちでもいいや。一回しか言わないからちゃーんと聞きなよ?」
そう言われて、自分でも愚かだと分かっているが、強盗に耳を傾けてしまう。
「君の彼女、生き返らせてあげるよ」
「……え」
「勿論タダじゃない。何もしないで都合の良いことが降ってくるなんて、ボクには許せないことだからね。条件を達成できたら、叶えてあげる」
「じょ、条件って?」
聞いてしまった。
こんな戯言に耳を貸して、どうした俺!?
「『小説家になってみよう』というサイト、知ってるよね」
ああ、たまに見ている。
『みよう』と呼ばれているWEB小説投稿サイト。
神だから、俺が見ているのもお見通しなのか?
いや、今やほとんどの人が覗いているサイトだ、知っていてもおかしくない。
「そこで、小説を書いてよ。内容は何でもいい。何本書き上げてもいい。それで一作品のブックマーク数を100以上にするんだ。不正行為をせずに。それだけでいい。たったそれだけで……」
「はあ?」
ブックマーク数を100?
結衣と何の関係があるっていうんだ??
「さあね。でも、君はやるしかない。最愛の恋人を取り戻すために」
!?? き、消えた……。
別れも告げず、一瞬で俺の前から。
奴は、本当に神なのか?
人を生き返らせることが出来るものなのか?
一瞬で消えるなんて、少なくとも人にはできない。
じゃあ生き返らせるのも……――そんな甘い考えが俺を支配した。
『小説家になってみよう』。
わけがわからなかった。
どうしてここで『みよう』が出てくるんだ。
俺は謎に思ったまま、そのサイトを開こうとパソコンを立ち上げる。
デスクトップ画面が映るとすぐさまブラウザを開き、URLの下に並んでいるお気に入り一覧から、『小説』というフォルダにカーソルを当てた。
ずらっと並ぶタイトル群。
これは全て『みよう』に投稿されている作品だ。
いつでも見れるようブラウザにお気に入りしている。
この『お気に入り』は、奴が言ったブックマークとは異なる。
奴がいったのはアカウントによるブックマーク。
アカウントとは『みよう』の参加者が持つ<身分証明>みたいなものだ。
利用者はアカウントを通して自作小説を投稿したり、人の作品を評価している。
これこれこういう者が書いてますよ、評価していますよと表すためにある、それがアカウント。
このアカウントを持っている人たちから、「この作品が気になる、いつでも読めるようにしよう」とブックマークされることが、奴の言うブックマークとなる。
俺は『みよう』のアカウントをもっていなかった。
ただ見るだけなら不要だからだ。
小説を投稿したりしないし、ブックマークもいれないし、評価もいれない。
放っておいても閲覧作品の話数は勝手に増えていく、何の問題も無かったから。
俺はふと、ブラウザブックマークからひとつの作品ページを開いた。
その作品は暇つぶしのためだけに読んでおり、内容は大したことのない、素人丸出し、文章力皆無、ただ勢いだけの小説だった。
小説といえるかすら怪しい作品。
そのタイトルページ上部にある『小説情報』をクリック。
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感想:2017件
レビュー:4件
ブックマーク登録:28534件
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………………28534。
アカウントを持つ人たちが、このクソみたいな作品に入れたブックマーク数。
俺はやってみようと思った。
『みよう』で小説を投稿して、ブックマーク数100を目指そうと。
もし先ほど起こった事が、俺が現実逃避の末に生み出した夢で、神などというものが存在しなかったとしても、何もこちらに損は無い。
あるとすれば執筆に使った時間だけだ。
その時間だって短くて済むだろう。
こんな作品ですら100を遥かに超えているのだから。
書こう。
早速とばかりに何を書こうかと思案すると、妙案が浮かんだ。
そういえば、高校生の頃に考えた設定があったんだった。
壮大なスペースオペラ。
タイトルはたしか……『スター・ウォーク』だったか。
作中の世界観など、練りに練りつくしたけれど、結局書かずじまいだった。
文章に起こすのが難しかったからだ。
これ、今なら書けるんじゃないか?
あの頃より俺も少しは大人になっただろう。
これならブックマーク100はおろか、あのクソ作品の何倍もの数がとれるんじゃないか?
……よし、決めた。
「結衣、少しの間、待っていてくれ」
そう呟くと、俺は執筆作業に入った……――
* * * * * * * * * *
「な、なぜ……!??」
動揺、困惑、混乱。
あれから二週間たって、既に十話投稿した。文字数にして約三万。
俺はまず有給をとって時間をつくり、作品の設定を完璧に把握した。
その後、仕事帰りに一日一話のペースを保ちつつ
壮大なプロローグから主人公が銀河同盟と手を組むところまで書き上げた。
完璧な内容だった。
それがどうだ。
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感想:0件
レビュー:0件
ブックマーク登録:0件
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「………はは」
乾いた笑いしか出なかった。
こんなはずでは、という思いが胸中を去来していた。
このページの『アクセス解析』という文字に目が行く。
マウスを動かして、押した。
あのクソ作品を遥かに下回るPV。
ユニークの方もどうだ、PVとあまり変わらない。
これが何を示すか……ああ、知っている。
タイトルページに飛ぶだけ飛んで、一話も読まずに帰っていく奴らがいる。
しかもだ――アクセス解析ページの『話別』を見てみる。
するとそこには、
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第1部分:12人
第2部分:1人
第8部分:1人
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仮に一話を読んでもほぼ全員が次話に進んでいない。
最新話を読んでいる者はたったの一名。
最新話を読んでくれる方には賛辞を述べたい。
しかしそれどころではないのだ。
その一人以外、誰も俺の作品を読んでいない。
最新話を追いかけている人すらブックマークをつけていない。
面白いはずなのに、どうして……。
俺の作品『スター・ウォーク』のあらすじを確認してみよう。
『時は未来、はるかかなたの銀河系で....
銀河帝国には暗雲が立ちこめていた。
B49星系への通商路に宇宙海賊と呼ばれる者たちが――』
更に下の方まで見ていき……
ああ、どこに問題があるというんだ。
『銀河帝国』――ピン!(心が反応する音)
『B49星系』――ビビビ!(心に来る音)
『宇宙海賊』――ガシィ(心が掴まれる音)
『銀河同盟スパークル』――ドグァン!(心が爆発する音)
興味を惹かれる単語ばかり並んでいる。
これに目を通して去っていくなど頭でも沸いているのか?
第一話冒頭はこうだ。
『ここは惑星エンドミア。B24星系に属する辺境の星である。ミニーテルという人工知能端末を稼働させる"レッドリキッド"の世界有数の産出星として世に知られている。』
エンドミア、B24星系(B49じゃない!)、ミニーテル、人工知能端末、レッドリキッド!?
ビンビンくる。完璧な出だしだ。
なのに、何故……?
俺はインターネットでその原因を調べようとした。
そこで見つけたのは……掲示板サイト。
スレッド名が「【小説家になってみよう】底辺作家が集うスレ」。
俺はここを眺めて、大体のルールを理解した。
ここではブックマークが100未満の作家を"底辺"と呼んでいる。
その底辺が傷を舐め合ったり作品向上を図ったりと意見を交わし合っている。
そして『晒し』と呼ばれる行為がある。
この『晒し』は、ようは自作品をスレの住民に見てもらって、批評してもらうというものだった。
晒す側は改善点が分かり、批評する側は底辺のどういうところが駄目かを客観的に理解できる。
ふと、思いつく。
ここの人たちに俺の『スター・ウォーク』を見てもらうのはどうだろう?
もしかしたら指摘だけではなく、
『すごく面白い! なんで埋もれちゃってるの?』
『ブクマ入れときました』
などなど、言われてしまうかもしれない。少しワクワクした。
晒し要項を確認してみる。なになに、
『作品投稿から二週間以上の作品、文字数は三万以上』か。
丁度、満たしていた。
これは神の啓示だろうか。
「晒せ」と俺に告げている気がした。
皆、褒めちゃってもいいんだぜ?
そんな気持ちで晒した。
________________
327 自分:
あまりにも見てもらえないので晒します。
【URL】yoeee.net/mcode/M9104DP/
【辛さ】辛口
【指摘観点】設定が頭に入るか
【その他】底辺脱出を目指しています
328:名無し
>>327
タイトルあらすじでブラバ余裕でした
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ぶ、ブラバ?
ページを切り替えて言葉の意味を調べる。
ブラバ――ブラウザバックの略。
それ以上読めないから「戻る」を押す、ということ。
この人は一話も見ずにこの作品を葬り去った。
アクセス解析で見たデータ通りの現象だった。
そ、想定内だ。続きを見よう。
________________
329:名無し
設定ね、うん、頭に入らない
330:名無し
>>327
晒しだから見るけどこれきっついなぁ
あらすじは絶対に改善したほうがいい
もう少し読み進めてみるけどこれは…
331:名無し
>>327
SFで底辺脱出?面白ければ出来るかもだけど
みように合わないことは自覚してるよね?
それにしても文章が読みづらい
冒頭をみようナイズしてみた
『ここは辺境の星エンドミア。そして俺の名は――
「ちょっとズーク! まだミニーテルの補給が済んでないじゃないの!」
しまった。「母さん、今行く!」俺はそう返すと、ベッドから身を起こす。』
________________
う。
俺のより読みやすい……。
みようナイズ。みように合った文章。
も、もしかして、本当に駄目だったのか。
実力通りのブックマーク0だったのか。
俺は途轍もないショックを受けた。
半ば死に体となっていた。
________________
332:名無し
>>327
造語が多すぎる。文中50パーくらい造語
というか人に見せる気ないよね?
俺の設定を見てくれという押し付けが激しすぎる
333:名無し
ちくわ大明神
334:名無し
底辺脱出だけを目的とするなら他のジャンルでやれ
チートハーレムとか悪役令嬢とかあるだろ
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お、押し付けが激しい……。
その正論が俺にダメージを与えた。
チートハーレム。チートハーレムか。
主義に反するというか、書ける神経を持っていなかった。
しかし、結衣のためなら……。
途中のちくわ大明神は何だ。
________________
337:名無し
本当に評価されたいなら銀河まで飛んじゃダメ
近くの奴隷屋さんにいって
奴隷ちゃんを買って、イチャエロしなくちゃ
338:名無し
>>337
別の作品になってるじゃねーかww
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だ、駄目だ。
俺の作品は駄目だったのだ。
内容についての指摘が無かったのは、
読める段階までいっていなかったということか。
ブックマーク100どころか最後まで読んでくれるものすらいない。
俺はあのクソ作品を思い出した。
俺はあれを最新話まで追えていた。
何故? クソ読みやすかったからだ。
そして感情移入が出来た。
現代人がチートを貰って異世界で活躍する。奴隷を買ってほめたたえられて、たまに剣を振るって――終始それだけで困難などあったものではないが、それでも最後まで読めた。
俺は一つの真理に到達した。
クソみやすい文章で、銀河に飛ばさず
いや、むしろ作品を別のものにして
奴隷ちゃんとえろいことをする。
これだ。銀河に旅立つより大事なことはたくさんあった。
俺は掲示板の住民に感謝の言葉を投げかけまくり、その場を去った。
さて、書こう。
タイトルは……そうだな、『奴隷ちゃんとえろいことする』にしよう。
* * * * * * * * * *
アラームが鳴る。
今日も会社に……いや、今日は土曜日、休みだった。
あれから一週間。
俺は読者がどういうキャラとイベントで喜ぶ反応を示すか調べて、それを参考にして書いてみた――『奴隷ちゃんとえろいことする』を。
あっ!
昨日寝る前に『みよう』に投稿しておいたんだった。
『奴隷ちゃんとえろいことする』三話分、一万字。
ブクマはどうなっているだろう。
1くらいついているといいな。
ワクワクしながら確認を――うん?
一旦中断して、俺はスマホを見た。
RINEにメッセージが……
『結衣:起きたら連絡ください』
!!!!!!!!
!? !!!???
………………あ
ああああああああ!!!
「あ、ああっ、ううう!!!」
震える手で『みよう』を開き、作品ページを確認した。
________________
感想:2件
レビュー:0件
ブックマーク登録:106件
________________
「うおおおおおおお!!!」
吠えた。
ここがアパートであることなど忘れ、吠えた。
ドン!ドン!ドン!
壁ドンされて正気に戻る。
「…………そうだ、結衣!!」
で、電話を……っ!! 上手く押せない!?
ゆ、ゆびが、興奮しすぎて震えて……くっ、うっ。
よよよ良し! 出てくれ出てくれ出てくれ!!
『健司さん……』
その声は確かに結衣のものだった!!!
「結衣、結衣いい!! 生きてるのか? 夢じゃないよな!?」
『………………』
「結衣? いやそれにしても嬉しいよ!! 結衣が死んじゃって俺も自殺したいくらいだったんだからな? 今すぐ会おう! 家にいるのか?」
『来ないで』
「うん?」
どうしてだ?
『私、一度死んでわかったの。生きているってそれだけで素晴らしいことなんだなって』
「ああ、その通りだ! 俺も今噛みしめてるよ」
『だからね、ちゃんと生きようと思ったの』
「ああ、ああ!」
『別れましょう』
「…………」
ん??
良く理解出来なかった。
『あなた今年で50じゃない。あまりに年が離れすぎてるわ』
「それでも良いっていってくれたのは結衣じゃないか!」
『……お金よ。あなたがお金をいっぱい持ってるから。楽に生きようと思ったの。あなたが何もしないでいいって言ったから、働かずに友達と遊びたかった。でも、そんな生活は間違ってるってようやく気づいたの』
「そ、そそそれなら別に俺の元でだっていいじゃないか!? 一緒に働こう!」
『ごめんなさい。あなたは私にとって金づるなだけだったの。別に好きでも嫌いでも無かった。でも……』
「いや、なんだよどうしたよ! 直接会って話し合おう、な?」
『……小説』
「え?」
『私を生き返らせてくれた人が読めって。私を想ってあなたが書いた小説だって』
「あ、え?」
頭が真っ白になった。
『何よ、あれ。私のために書いた小説? 私を奴隷だと思っていたの? 金で買われて、束縛されて、思ってもいないのに褒めなくちゃならないなんて……そんな生活耐えられない。あんな気持ち悪い小説書く人となんか一緒にいられない』
「あっ、あれはしょしょうせつの中だけの話で君には何も――」
『ツー…ツー…ツー…』
電話はきれていた。
「はは、何だこれ」
「オイコルァ! 朝から騒ぐんじゃねーぞ!!!」
隣人がドアを叩いていた。
隣人はヤーサン風な人である。
だから今までは、例え相手が年下でもへこへこ対応していた。
が、今は違う。
この何ともいえない思いを奴にぶつけたい。
なぐってやる。
俺はドアを開けて殴りかか――
「ぶっ!!!???」
俺は宙を飛んでいた。
何が起きたのか。
「があっ!?」
床にたたきつけられた。
あれ、鼻血が……あ、鼻折れてね?
「こんくらいで許したる! 次やったらドス持ってくるでぇ。冴えないオッサンは誰にも迷惑かけんと黙って縮こまってりゃいいんじゃ!」
隣人は去っていった。
「ははは……うう、うううう」
俺は泣いた。
ここまでみじめな人間がこの世にいるだろうか。
俺に残されたものはもう何も無かった……。
――いや、1つあった。
鼻血を垂らし、泣きべそかきながら
『みよう』のユーザーページを開く。
『奴隷ちゃんとえろいことする』……あった。
下の方……『小説を削除する』を押した。
すまない、ブックマークをいれてくれた人たち。
俺は決めたんだ。
俺は銀河に旅立つ。
俺はこれから、星を渡り歩くんだ。
きっと孤独な旅になる。
けれど、それもいいさ。
俺の名は健司?
違うね、ズークさ!
機械エンジニアとしての腕一本で、銀河を救いにいってくる!
――俺は『スター・ウォーク』の執筆を始めた。
みようナイズした文章で……。