『エピソード・ゼロ』 (ユーイチの転移の謎)
本編で語られることの無かったユーイチの転移の謎。
一体誰がどのようにして何のために異世界に導いたのか?
今、その謎が語られる――
――みたいな壮大な展開にしたかったのですが、作者のMPやSPがどうやら足りないようです。
短めの設定集と考えて下さい。
どうしても転移の謎が気になる人向けです。さらに謎がこんがらがるかもしれませんが、読者の想像力で補って頂ければ幸いです。
天の川・銀河=太陽系=第三惑星=地球。
この我々の存在する宇宙である。
それとは別次元の異世界。
悠久の過去、あるいは隔絶した未来。
後に人々から『惑星アーシア』と呼ばれる予定の星の虚数境界面で、神々が会合を開いていた。
「では、『エヌス』の言い分を聞こう」
知識と雷と調停を司る神、『ヤーグ』が重々しく言う。細長い頭に白く長い顎髭を蓄えた老人の姿をしている。
「や、だからよ、『ワダニ』って酷ぇ犬耳族にいじめられてた農夫の子が『どっか別の場所に行きてーけど、神様そこんとこ夜露四苦!』って言うもんだからさあ」
小柄な少年の姿の神がひらひらとポージングしながら言う。お尻から黒いスペード型のしっぽがくねくねと動いている。運命と死を絆を司る神だが、どうもキャラが違う。
「証言は正確にせんか! そんな白い特攻服を着たような農夫の子がどこにおると言うんじゃ!」
技巧と炎と親父を司る神、『オース』。見たまんまドワーフの神が怒鳴った。
「ま、まあまあ、『どこか別の場所に行かせて下さい』という農夫の子の願いの本来のニュアンスは皆さんにも伝わっていると思いますので」
慈愛と癒やしと豊穣を司る女神、ミルスが場を取り持とうとする。この中では一番若い神であり、立場が弱い。
「そうじゃな。気になるようならそこはワシのデータベースを参照すれば良かろう。問題は、わざわざ『地球』の『日本』という国の少年と魂と精神を入れ替え、トラックにも轢かれておらぬのに異世界に連れてきたことじゃ。その理由を聞こうぞ」
ヤーグが長い顎髭を撫でながら言う。
「理由? そんなモノはねーよ。何となくやった――ああ、むしゃくしゃしてやった、ってとこだな。そーゆーコトにしといてくれ」
エヌスが耳をかっぽじりながら言う。凄くいい加減である。
「オヌシは! 事の重要性が分かっておらん! 慣習を無闇に外せば、観測者からクレームや問い合わせが来ることは分かっておろう!」
オースが顔を真っ赤にしてドンと床を叩く。同時にスレイダーンの東で雷が落ちた。
「ま、まあまあ、あまり禁則事項のお話は…」
ヒヤヒヤしながらミルスがなだめに掛かる。
「雷を落とすのはそれくらいで良かろう。少し整理しておくかの」
ヤーグが言い、中央にホログラムを展開した。
『アレフガルド大陸』、通称『東大陸』中西部、スレイダーン王国のとある田舎で黒髪の少年が産まれた。
少年は『アズ』と名付けられた。アズはそこそこ利発だったが、病弱な子であった。両親も黒髪の家系であり、日本人がすり替わっても外見的な問題は生じない。
『アズ』が十六歳を迎えたとき、不作が続き、税が払えなくなってその黒髪の少年は奴隷として売りに出された。
『ワダニ』が買い付けるが、ろくに休みを与えられずムチ打たれるので『アズ』は神に祈った。
「どこか別のところに行かせて下さい、神様」
運命と死を絆を司る神『エヌス』はそれを聞き届け、『アズ』の精神と魂を異世界の『日本』へ飛ばした――。
「そこじゃ! そこがまずおかしい」
オースが指差してヤーグの叙述を止めた。
「うむ、エヌスよ。なぜ『アズ』の肉体をそのままにして、精神と魂だけを飛ばしたのか。そこを聞こうぞ」
ヤーグが問う。
「や、大した理由はねえよ。外見が急に変わるとエラーが大きくなるだろ? そこに配慮してやったんだが、よく考えたら、『ユーイチ』と『アズ』は外見がソックリなんだよな。肉体ごと入れ替えとけば良かったぜ。や、失敗失敗、アハハ」
それを聞いてオースが拳をプルプルさせたが、雷は落とさなかった。
「やれやれ、エラーがどうのこうのと言っておるが、その様子じゃと、魂が入れ替わる相手の事は意識しておらんかったようじゃの。次から注意するように」
ヤーグが言う。
「うぃーす。次からね」
ホログラムの叙述が再開された。
――魂と精神の真空となった『アズ』の肉体に大いなる自然の力が働いて、『地球』の『日本』と呼ばれる場所から、『柊悠一』という少年の魂が吸い寄せられ、スレイダーン王国に転移した。
アレフガルド大陸中でその黒髪の少年の名前を知る者の記憶が『アズ』から『ユーイチ』に書き換わった。
日本では逆に『悠一』が『明日太』に書き換わった。
二人の肉体は身長も体重も同じで、双子のようにソックリなので、本人すら入れ替わったことに気づいていない。
ただし、十六歳までの記憶は保持している。転移時は混乱により一時的に記憶を失ったが、現在は完全に回復。
形式上は『憑依』となり、『ユーイチ』視点では『異世界転移』と分類される――。
「ぬう、苦しい、『アズ』が『明日太』じゃと? もう少し違和感を減らせんのか」
オースが木槌を取りだしてその名前をいじろうとしたが、彼にも他の良い名は思いつかぬようである。
「気にすんなって。『ユーイチ』だって大した問題にならなかっただろ。それに俺がこの間、『明日太』をまた別の異世界に飛ばしてやったから、もう関係ねえよ」
エヌスが頭の後ろで手を組みつつ、くるくると空中を回りながら言い放った。
「「なんじゃと!」」「ええ…?」
三人の神はさらに問題が拡大していることを認識し、呆然とした。
――お、おしまい――




