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ドライなシーフ、リサ

今回は天空の城を作る前の頃のお話です。


 リサとユーイチ達は、とあるダンジョンに潜っていた。

 そこでの戦いの後、リサはお風呂でミネアと気になる点について話をするが――。

 右手にダガー、左手にボウガンを持ち、レモン色のツーサイドアップの髪型。小柄なシーフが洞窟の先頭を歩く。


 彼女は周囲に目を走らせ、敵の接近や罠の存在が無いか、注意深く観察しつつ進む。

 シーフとしてのスキルも揃い、【敵の気配察知 Lv 124】【罠発見 Lv 145】【バックアタック率低下 55%】【物音感知 Lv 103】【夜目 Lv 116】【抜き足 Lv 166】【盗賊の勘 Lv 182】など、有用なスキルも多い。


 だが、それでも防げぬ罠は存在する。


「くっ?!」


 やられた。右の死角になっていた壁から矢が飛んできたようだ。とっさに右腕で急所の喉はカバーしたが、右肩の下の辺りに傷を負ってしまった。


「リサ!」

「大丈夫?」


 パーティーのみんなが心配する。


「平気よ、これくらい」


「駄目だ。ほら、すぐ薬草を」


 ユーイチは真剣な顔で駆け寄ってくるとすぐさま薬草を渡してくる。


「大したこと無いんだけど」


 そう言いつつも、ここで要らないと言うと小うるさいので、リサは素直に受け取って腕の傷にアロエ草を貼っておく。


「怪我をしたら遠慮せずにいつでも言ってくれ。みんなもだぞ」


 ユーイチはそんなことを言うが、彼が自分でパーティーのステータスを常時監視しているので、みんなが自己申告したことは一度も無い。


「分かったニャ。あ、お腹が空いたから、猫の実をくれニャ」


 リムはよく物を食べる。猫耳族はそんなに食べる種族だったかしらと、リサは首をひねるが、とにかくよく食う。


「ええ? まあいけど、ほれ」


 ユーイチがローブの懐から猫の実を出すが、こちらもどこにそんなにしまい込んでいるのか不思議になる。今、八つ目だ。 

 

「じゃ、ここで少し休憩にするわよ」


 リムが食べるのに夢中で注意散漫になってしまうので、リサは休憩を取ることにした。


「ええ、そうね」


 リーダーのティーナもすぐに頷き、反対しないリーダーというのもやりやすい。以前、組んだパーティーの中には仕切られるのが嫌なのか意固地になって反対してきたり、無視するリーダーもいた。

 パーティーの臨時募集に応じる渡り鳥(・・・)だと、互いの気心が知れないからそういうのも仕方ない。

 ティーナのパーティーは長いし、居心地も良いし、そろそろ私もここで身を落ち着けようかしらと、リサは思った。


「ふう、どっと疲れた」


 ユーイチはそう言って深いため息をつくと、手頃な岩に腰掛ける。


「気を張りすぎよ。私とミネアが敵の接近を見張ってるから、アンタはもうちょっと気楽にしてなさい」


 リサは言う。放っておくと、探知の呪文を使ったりとやたらと臆病だ。


「何を言う。ダンジョンを甘く見るなッ!」


 握り拳を作って見開いた目で言うユーイチ。このモードのユーイチには何を言っても無駄である。ウザい男である。


「あっそ」


 リサも相手にせず、周囲の警戒を続ける。


「ユーイチさん、私が肩でも揉んであげましょうか?」


 クレアがそんな提案をするが。


「お、おお、フヒッ。じゃ、じゃあ、頼んじゃおうかな」


 男の方が女の肩を揉むならともかく、女の方が男の肩を揉むのに、興奮する要素があるのか、リサには理解不能だ。


「む。そう言うのは禁止で。ここは油断できないダンジョンですものね」


 たいていのことには鷹揚なティーナも、クレアとユーイチの仲の進展には非寛容である。

 どうしてこんな男がいいのか、これもリサにはよく分からないのだが、ティーナはユーイチを気に入ってしまい、割と本気で結婚の約束を履行するつもりであるらしい。

 

「くっ! 張り詰めたダンジョンだからこそ、ひとときの休憩には心のオアシスがあって良いと思うんだ」


「ニャー、ユーイチはいつもああ言えばこう言うで、感心するニャ」


「ホントね」


 リサも同意する。スケベ心が丸見えで逆にちょっと面白かったりする。


「それくらい良いだろ」


「じゃアンタ、私が肩を揉むのでも嬉しいわけ?」


 ちょっと言ってみる。


「もちろん」


 キリッとした即答。


「へえ?」


 女なら誰でも良いらしい。自分も女性の対象に入っているというのがリサにはちょっと意外だった。子供に見られたりはよくするのだけれど。


「むぅ」


 ティーナが不機嫌になってしまった。


「じゃ、そろそろ再開しましょう」


 リサはボウガンの状態を確認して、歩き出す。


「ええ、そうね」


 洞窟を進むと、動物の低いうなり声が聞こえた。それが複数。

 リサは足を止める。


「何かいるわ。注意して。ユーイチ、ライトを前に」


「分かった」


 光の(ボール)が即座に前方の壁に打ち込まれ、そこにいたモンスターの姿が明らかになる。


「キラー・コヨーテ、4!」


 リサは素早く敵の数をカウントし、ボウガンで先制攻撃を仕掛けて牽制しつつ、後ろにいったん下がる。


「任せろ!」

「任せて!」

「ニャ!」


 レーネとティーナ、それにリムの前衛チームが素早く前に出る。


「ガウッ!」


 身を屈めて力を溜めたキラー・コヨーテは、一気に地面を蹴り上げ、跳躍して飛びかかってくる。


「くっ! 素早い!」

「ニャ! 躱された!」


 回避率が高いのでこれは長引きそうだ。


「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」


 後ろからエリカの電撃が飛ぶが、これは上手く命中し、二匹にダメージを与えた。うち、一匹が追加効果で痺れたらしく、硬直して動きが止まる。


「そこだ!」


 レーネがそれを見逃さず、大剣を勢いよく振り下ろした。強烈な一撃にキラー・コヨーテも耐えきれず、黒い煙を上げて魔石に変わる。


「残り3!」


 後方にいた一匹が首を上に伸ばして、遠吠えのポーズを取ったが、声は出なかった。

 ミオの沈黙(サイレンス)の呪文だ。最初に戦った時に仲間を呼ばれて苦戦したので、対策はすでに取ってある。


「リム、右、お願い!」


「ニャ、しまったニャ!」


 攻撃しようとしてきた左の一匹に注意を取られ、一匹が前衛の間をすり抜けてきた。


「チッ!」


 リサはボウガンを撃ったが、命中こそしたものの、クリーンヒットしていない。


「あかん!」


 ミネアもショートソードで攻撃しようとしたが、上手く敵に躱されてしまった。


 キラー・コヨーテはそのまま動きを止めずに、クロに襲いかかった。


「クロ!」


「ひゃっ!」


 クロが騎乗しているマリアンヌが俊敏に動いて、キラー・コヨーテの牙を躱し切る。


「せいっ! こっちは仕留めたわ」


 ティーナが前方の一匹を仕留め、リサがカウントを宣言する。


「残り2!」


「ふおっ!?」


 クロを襲ったキラー・コヨーテは今度はユーイチに襲いかかった。


「こっちはいいわ。先に向こうを仕留めて」


 ユーイチなら素早いし、少々噛まれても大丈夫だ。リサは冷静に判断して優先順位を告げる。


「ちょっ! 後衛を襲う敵がいたら、最優先で倒すのがセオリーだろ!」


「アンタはセオリー外だからいいのよ」


 リサは言い放つ。


「いやいやいや、くそっ、ひっ! あひぃ!」


 大袈裟な悲鳴を上げているが、やはりくねくねと躱しまくっているユーイチ。全然大丈夫であった。


「ニャ! 当たったニャ!」


 リムが前方の一匹を仕留めた。


「残り1!」


 ユーイチが束縛(バインド)の呪文を使い、動きを止めたところに、ミネアの投げナイフが刺さる。

 ティーナもきびすを返してきてレイピアで突く。

 最後のキラー・コヨーテも煙を吐いて魔石と化した。


「クリア!」

 

 リサが宣言し、戦闘が終了した。


「やったわね」

「楽勝ニャ」


「ゴゴゴゴゴゴ……後でパーティー会議を要求する」


 さすがにユーイチも怒ったようで、仕方ないわねとリサも思った。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「今日のユーイチはやけにあっさり引き下がった感じやね?」


 ミネアが湯船に浸かったまま肩をすくめる。ティーナの屋敷のお風呂にリサが誘い、二人で入っていた。

 ただ、そこまで仲が良いわけでない。斥候チームとして情報のすりあわせをしておくためだ。


「ま、アイツも愚痴愚痴言ってるけど、本気でパーティーを抜けるつもりはなさそうだし」


 リサも湯船に浸かったまま言う。


「ふふ、まあ、可愛い子が仰山おるし、それに、前に森でサバイバルをやったときにソロは懲りたって言うてたな」


「そ。今のアイツなら、一人でもやって行けそうだけど」


「怖い怖い。それ、追い出したいっちゅうことなん?」


「まさか。純粋にパーティーの戦力として考えて、アイツが一番でしょ。魔法も使えて回復も底なしにできるし、色々、面白い物も作ってるし」


「そやね。このお風呂を味わったら、なかなかこのパーティーは抜けられへんな」


「ええ」


「あとは……ごめん、キラー・コヨーテが四匹の時、カバーリングが遅れたし、足止めできんかった」


 ミネアが謝る。


「それは別に良いわ。私も止められてないんだし」


「うん、なかなか素早い敵やったな」


「ええ。それより、クレアの事だけど、何か掴んだ?」


「ううん、ちょくちょく話はしとるけど、なんや、笑ってばかりで肝心なことは話してくれへん感じやなぁ」


 クレアにはどうにも不審な点がある。ユーイチに構い過ぎだ。


「絶対に裏があるわ。ユーイチは悪い奴ではないけど、モテまくるタイプじゃないし、あの女、一目惚れなんてするはずないし」


「うーん、母性本能をくすぐられるとか、放っておけんとか、そういうのもあるんちゃう?」


「それなら、いちいちティーナを怒らせてまで、ユーイチの気を引くことを言う必要も無いでしょ」


「そやねえ。からかうんが好きなんかな」


 ユーイチも戸惑ってはいる様子だが……。


「目は離さないように。今日はそれだけよ」


 リサが言う。


「分かった。じゃ、うちは先にあがらせてもらうな」


「ええ」


 リサは湯船に浸かったまま考える。


 ユーイチと結婚したとしてクレアに何か得があるだろうか?

 

 優れた錬金術師だと思うが、司祭のクレアが錬金術の知識を欲しがるとも思えない。

 簡単に尻に敷けそうだし、スケベで臆病なところを除けば性格的に問題があるわけでもない。

 善良で、根に持ったりしないところも好感が持てる。

 ただ、浮気で色々とトラブルが起きそうだ。 


 ユーイチも、もう少し態度をはっきりさせれば良いのに、ティーナの事は本気では無いのだろうか?


「って! なんで私、アイツのことを真剣に考えてやってるのかしらね……アホらし」


 ざぱっと勢いよく湯船から出て、風呂から上がるリサであった。

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