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魔剣リーファ

ユーイチがヴァルディス領をもらった後、邪神を倒す前の頃のお話です。一話読み切りの短編です。続きはありません。


残虐な描写があります。


あらすじ

 魔剣リーファは一人外のお散歩を楽しんでいた。そこに運悪く現れた盗賊達。

『疾風のグリーズ』も出てきて熱い戦闘が繰り広げられていく。

 最中、リーファが恐れたモノとは……?


2016/10/8 若干修正。

「ふむ、自分で好きなところへ行けるというのは、なかなか乙なモノじゃの」


 金髪のロリっ娘がそうつぶやきながら道を歩く。白の薄手のワンピースに、その腰には業物の剣をぶら下げている。剣の鞘は光沢のある黒地に金縁があり、柄にはいくつも宝石があしらわれ、彼女が持つには分不相応な宝剣に見えた。


 その剣の名はリーファと言う。

 もっとも、これは現在の持ち主、ヴァルディス男爵が名付けたもので、本当の名は魔剣デスブリンガーである。

 『漆黒剣』『暗黒魔剣』『時に呪われし剣』『お喋りなガキ』『主殺し(マスターキラー)』『血をすする魔剣』『死に神』『不幸の剣』とも呼ばれたことがあるので、異名を付けられることには馴れている。

 ただ、今まで一度も良い意味の名前で呼ばれたことなどなかった。

 それが(ゆえ)、リーファはこの新しい名を気に入っていた。

 生命の息吹を意味する言葉。


 彼女が歩く道はなだらかにうねっており、草原が辺り一帯に広がっている。

 時折、そよぐ風が草を撫で、波のように広がりながら流れていく。


 青空には雲が浮かんでおり、心地よさそうな陽光が地上を照らしていた。


 一人でこうして歩くのは何百年ぶりだろうか。

 それにしても気分が良い。ステップを踏みたくなるほどウキウキする。

 もしも、肌に陽光の暖かさと、そよ風の涼しさを受けた感覚が戻るなら(・・・・)さらに良い散歩になったであろう。


 リーファは何をするでもなく、ずっと歩き続けた。

 花を見つけると、近くに寄って観察し、蝶々を見つけると割と本気で追いかけたりした。

 やがて、彼女は森に辿り着いた。


「へっへっ、おい、そこのガキ」

「ヒヒ」


 不意に、木の影から数人の男達が現れた。手には斧や棍棒を持ち、無造作に伸ばした髭と薄汚れた革鎧、どう見てもその辺の盗賊であろう。

 リーファはせっかくの静かな散歩が邪魔されたので少しだけ、残念に思った。

 だが、それ以上に、ふつふつと、呪われた血が騒ぐ興奮の予兆も覚えていた。


「止めておけ。うぬらに妾は倒せぬぞ?」


 リーファは言っても無駄だろうとは思いつつも、(ユーイチ)の方針に従い、警告はしてやった。


「ああ? はは、止めて下さいの間違いだろう」

「面白いガキだな」

「変わった喋りをしやがるぜ。貴族か?」

「たっぷり可愛がってやるからよ、へっへっへ…」


 予想通り、盗賊達はニヤニヤ笑うだけで、こちらの危険度を理解しようとしない。

 幼子に見えるこの少女型のオートマタ。

 人形と気づかずとも、それがたった一人で歩いているのだ。この人気の無い場所を。

 そこに不審の念も感じぬか。


 臆病な我が主ならば、こちらの姿を遠目に見ただけでも逃げていたと思う。


 そこは仕方ないとしても、一目で分かる業物の剣を持っている時点で気づくべきだ。

 多少の脳みそがあれば、警戒しても良さそうなものだが……。

 それが出来ない彼らは、盗賊に身をやつすしか無かったのかも知れない。



「なら、ここで生を全うさせてやるのも、他の者の助けとなるかの」


 リーファはそう、ひとりごちると、一閃した。


「ガッ!?」

「あひ?」

「たわばっ!」

「にゃも?」


 おそらく盗賊達は誰一人、自分の身に何が起こったかなど、理解する暇も無かっただろう。

 派手に血しぶきを上げた肉塊は、ボトボトと地面に落ちた。

 さらにリーファは念力を使い、その肉を森の奥へと飛ばし土をかぶせ、道は綺麗にしておいた。放っておいてもスライムが集まってきて掃除するかもしれないが、リーファにも疫病の知識や衛生観念くらいはある。

 綺麗好きな魔剣なのだ。


 金髪の少女は剣を振って血を払い、刃をその小さな舌で舐めた。

 不敵な笑みを浮かべる。


「はんっ! こりゃまた、やべえ奴に出くわしたもんだぜ」


 木の上から声がして、リーファは初めてそこに別の人間がいることを知った。


「ほう、妾に気配も覚らせなんだか。なかなか大した奴じゃ」


 驚くでもなく、リーファは見上げて言う。

 業物と分かるゴツい緑の鎧の剣士がそこにいた。 


「ぬかせ。助けに入ってやろうかと思ってたが、どうやら助ける相手を間違えたようだぜ。ま、もう死んじまったし、それはどうでもいいんだがよッ!」


 木の上の剣士がそう言うなり跳躍し、道に着地した。

 リーファの前に。


「お前様よ、一つ聞くぞ。妾の前に立ち塞がると言うことは、そういう(・・・・・)事だと思って良いのじゃな?」


「けっ、当たり前だろうが。何か? お前は俺が握手でも求めにやってきたと、そう考える甘ちゃんか?」


「何を言う。妾はただ、お前様の身を心配してやったまでよ」


「大きなお世話だぜッ! 行くぞッ!」


 リーファは見誤った。よもや、人間ごときが、自分と対等に渡り合えるはずはないと、思っていた。

 それに、微妙に小物臭がするこの男、さほど強くはあるまい―――そう考えたのだ。


「なっ!?」


 だが、驚きの声を上げて吹っ飛んだのはリーファの方であった。

 緑の鎧の剣士は、その瞬間、消えて見えた(・・・・・・)


「遅え! 『疾風のグリーズ』を舐めんじゃねーぞ?」


 リーファの後ろに立ったグリーズが、物足りないと言いたげに剣を軽く振り払った。


「カカッ、妾に土をつけさせるか。これは久々に楽しめるかの。愉快、愉快。……じゃが、死んだぞ、お主」


 笑みを浮かべて起き上がったリーファは、表情を一変させ冷徹な目でグリーズを見据えた。


「はんっ! 笑わせんな。いいか? 一流の剣士は『テメーは死んだ』なんて言ったりしねえ。なぜならッ! そう思ったときにはッ! すでに相手は死んで――ぐおっ!?」


 グリーズが格好良く決め台詞を言い終わろうとしたところで、リーファが襲いかかり、その剣を受け止めきれなかったグリーズが派手に吹っ飛んだ。

 大木が何本もへし折れ、ズズーンと地響きが起こり、周囲の鳥が一斉に飛び立ち逃げ出した。

 さっきの軽いお返しだ。


「かっ、かはっ! 何だと……? レベル99で世界樹のダンジョンをクリアして、あのユーイチをあんぐり驚かせたこのオレ様が、ここまでのダメージを受けるだと……!?」


 血反吐を吐きながら、起き上がるグリーズ。タフな男である。


「んん? 我が主を知っておるのか? まあ良い。男なら一人二人殺したところでお説教はなかろう」


「ちぃっ! すまねえ、ピット。どうやらコイツはマジで行かねえと、速攻であの世行きの奴らしい。ランスロットとやるまでは使うまいと心に決めてたんだが……仕方ねえ、来いッ! グングニル!」


 剣を鞘に収め、右手を天に向かって突き出すグリーズ。

 ビュンッと、どこからか、もの凄い勢いで黒い槍がその手に収まった。


「む、その槍……確か、世界樹の最も古く堅き部分から切り出したモノよな」


「ほお、コイツを知ってるか。なかなかの威力だぜ? コイツはな、天才錬金術師ユーイチによって魔法強化された代物(シロモン)だ。そんじょそこらの武器とは違うぜ」


「カカカッ、妾の前で、武器を語るか。人間ごときが鍛えた程度で、伝説の魔剣に敵うと思うでないわッ!」


 再び、両者が激突する。

 黒い剣と黒き槍。

 黒い稲妻がほとばしり、火花が散る。

 わずかに空間が揺らぎ、重力波も飛んで拡散した。


「むむ……よくぞ、妾を受け止めた。そこは褒めてやらねばの」


 リーファは表情こそ崩さなかったが、内心では衝撃を受けていた。ユーイチの故郷の伝承に基づいた武器ということで面白いとは思っていたが、ただの子供遊びと考えていたのだ。

 それがどうしたことか。

 魔神に創り出され、千年以上に渡って無数の血をすすってきたこの自分と、ほぼ互角の力を発揮するなどとは。

  

 『あ奴、何者ぞ?』


 ベッドの上でゴロゴロしているユーイチの姿がリーファの意識の中に思い浮かんだが。

 どう見ても伝説にはほど遠い人物である。

 臆病で逃げてばかり。

 どうしようも無いスケベで、いつもティーナにレイピアの刑を食らっている大馬鹿者である。


 が、しかし―――。


 その手で創り出された武器は、紛れもない伝説級の威力を誇っていた。

 それも上位の。


 待て、そうだとすると、あ奴の故郷の伝説とはこの世界と繋がっておるのか?

 いや、世界樹も伝説級を凌駕する神の領域の存在である。

 その力かもしれない。

 そうに違いない。


 だが―――。

 リーファはわずかに生じた疑念に底知れぬ恐怖を感じていた。


 もしもコレが世界樹の力とは別個の力であったなら―――。

 人間が神の領域の力を用いていたとしたら―――。

 人が神の力を借りずして奇跡を起こすなら―――。


 それはユーイチが○であるのと同義であり、この世界そのもの(・・・・・・・・)が―――。


「オイ! 敵と戦ってるときにのんきに考え事なんて、してんじゃねーぞッ!」


 グリーズの槍が少女の心臓を貫こうとした。


 キンッと音がして、槍が弾かれる。


「なにぃ!? てめえ、どういう体をしてやがる!」


 グリーズの方が驚く。


「カカッ。この体はオリハルコンが入っておったの。そう簡単にやられはせぬぞ」


 だが表面は柔らかい世界樹の木材である。リーファはせっかくのお気に入りの体の表皮が傷つけられて内心は不満だった。

 戦闘中に他の事を考えるなど、失敗した。


「ああ? なんでそんなもんを……チッ。んじゃ、コレも拝ませてやる。師匠以外に今まで誰にも見せてねえからな、ありがたく思えよ! 宗家水槍術奥義! ファルコン・ハンティング・スタッブ!」


「ぬっ!?」


 正面から突っ込んでくるグリーズに対し、リーファは剣を青眼に構えて待ち受けようとしたが、後ろから(・・・・)心臓を貫かれた。


「うしっ! 取った!」


 勝利を確信してガッツポーズを決めるグリーズに、リーファはほくそ笑んだ。


「ふっ、甘いわ」


 魔剣リーファに本物の心臓など無い。

 本体は剣の方だ。

 金髪の少女はただの操り人形であり、そちらがいくら傷つこうと戦闘には支障ない。


 グリーズを思い切り斬り伏せる。


「ぐあああっ!」


 む、すんでのところで致命傷を躱したか。


 トドメを刺そうと追撃に掛かるが、視界に別の男の姿があることにリーファは気づいた。


「お主はそこで何をしておるのじゃ」


 これほどの激しい戦闘にも拘わらず、逃げ出しもせず加勢もせず。ただじっとそこで見つめていたらしい。

 手には羊皮紙とペンを持っているが。


「いえ、私のことは気になさらず。手を出したりはしませんから。さ、どうぞ続きを」


 とんがり帽子に緑色のポンチョを着た男は落ち着き払ってスマイルで言う。

 その張りのある声が余計に胡散臭い。


「ふん、興ざめじゃ。帰る」


 ここで『疾風のグリーズ』を倒したところで、もはやこの壊れたオートマタの体は直りはしない。またユーイチに頼んで作ってもらうしかないが、よもや自分が人間の剣士にしてやられたなど、言いたくも無い。


『ミオ、もういいのじゃ』


『ん、了解』


 少し後方に浮かんでいた天空の城がゆっくりと着陸してくる。リーファがユーイチと一キロ以上離れると、ユーイチが呪いで死んでしまうため、予めミオに頼んで天空の城ごと、後をついてこさせていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「戻ったのじゃ!」


 天空の城のユーイチの部屋に、念力だけで移動したリーファ。城の中まではオートマタの体で歩いてきたが、さすがに、念力でずっと動かすと魔力消費も激しいし、何より疲れる。補給が必要だ。


「あれ? リーファ、二号ちゃんはどうしたんだ」


 ユーイチが不思議そうに聞く。


「ふん!」


「んん? なんか機嫌悪そうだな。よし、じゃ、リバーシでもやるか」


「やった! やるやる! やるのじゃー♪」


 伝説の魔剣デスブリンガーは、子供のように弾んだ声を出した。

あとがき

ハヤブサ(ファルコン)の時速は390キロだそうです。 

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