第八話 クリスタニアの国王
前回までのあらすじ
クロを猫にした張本人、宰相バルムースを倒した。
2016/10/19 若干修正。
宰相バルムースが不死者だった。
この事実は、反宰相派の者だけでなく、宰相派の者達にも衝撃を与えた。
いや、むしろ知らなかった宰相派の部下の方がショックが大きいだろう。
言うまでもなく、アンデッドは神殿の敵であり、禁忌の存在である。
最初からアンデッドだったのか、途中ですり替わったのか……。
それは不明だ。娘に第一王妃がいるが、第三王女さえ偽って他の子をでっち上げたのだ。
王妃も自分の子供とは限らない。
宰相派の重鎮であったブルーノ=ブラウン親衛隊長も捕らえられた。
彼はウェインとシンディーの実の父親であり、兄者の方は渋い顔をしていたが、シンディーは父親とは元々そりが合っていなかったのか、笑顔を見せている。
そして、当然ながら俺達は同席の上で謁見を要求した。
国王の真意はどこにあるのか――。
場合によっては、国王も倒す。
クリスタニアとの戦争という厄介な事態にもなりかねないが、クロの安全が保障されないと、このまま引き下がることなどできない。
「此度の件、そなたらには多大な迷惑を掛けた。その点については、まず、謝罪しよう。済まなかった」
国王が頭を下げる。
「クロに呪いを掛け、猫にした理由はなんだったのですか」
ティーナが問う。
「それは、第一王妃に子が授かったと聞いてな。バルムース侯爵はこの国でも大きな力を持つ大貴族だ。彼から圧力を掛けられれば、余も嫌とは言えなかった。それに」
クロは王の器では無い、と判断したという。
常に正直で、相手を思いやる。
その心根の優しさは間違い無く人としての美徳である。
が、王としては心許ない。
病弱で健康不安もあった。
「だからといって、何も追い出さなくても…」
ティーナが納得が行かないというように言う。
王位継承権が下であっても、世継ぎとして指名し、王太子の地位に就ければ可能であったはずだ。
「王位継承権を恣意的に変更したとなれば、権力争いを招く。そう進言されてな」
自然な形として第一王妃の娘を王位継承第一位に仕立て上げる。
その計略に乗ったと言う事か。
無用な国内の争いを避けたか、国王の保身か。
「余も、自分の娘を殺すのはさすがに忍びない。よって、王宮の外で普通の娘として生活させる道を選んだのじゃ。まさか呪いを掛けられ、猫になっているなどとは……済まなかった、エステル」
「いえ…」
クロは父を糾弾しなかった。そうなると、俺達もこれ以上、追及しても仕方ないな。
ただ、一つ疑問が残っている。
「なぜ、バルムースはクロを生かしておいたのでしょうか?」
俺は問う。
「分からぬ。余の命令を形ばかりは守ったか、あるいは、後で利用価値があると思ったか。それとも、ただの気まぐれか。苛烈に扱って余を見下したか…。宰相の住まいを調査はしておるが、日記も残っておらぬと言う。それについては王妃も知らなかったこと、これは宰相本人に聞いてみるしかあるまい」
国王が諦め気味にそう言った。
沈黙が降りるが、より重要なのはクロの今後だ。
「クリスタニアは今後、クロをどうされるおつもりですか」
俺はそれも問うた。
「余としては、手元に置いて保護したい気持ちもあるが…、本人はそなたらと同行したいと言う。再び面倒事に巻き込んでも不憫であるからな。公式発表は今後も変更するつもりはない。勝手だが、我が娘をよろしくお願いしたい」
クリスタニアは今まで通りクロを病死として扱い、俺達に後を任せるという事。
こちらとしてもそれは望むところだ。
「分かりました。クロは私達で責任を持って面倒を見ます。それからミッドランド王国としては今回の件は不問とし、無かったこととして扱います。それでいいな? ティーナ」
そう言って俺はティーナに同意を求めた。
そんな外交じみた権限は俺達には無いが、外交やミッドランド王宮が絡んでくるとなると、クロがどう言う扱いを受けるか予測も付かなくなる。下手に利用されたら堪らない。
上への報告書も無しだ。
この秘匿がミッドランドの王宮にバレればタダでは済まないが、俺はクロの幸せを取る。クロの幸せを守る。
それが俺の優先順位であり、答えだ。
「え、ええ」
同意はしてくれたが、ティーナも緊張を強いられる選択だ。
「じゃ、もう用件は済んだわね」
リサが話を打ち切る。
そうだな。ここで話し合うことはもう何も無い。また何かあれば手紙でやりとりすれば良いだろう。
「さ、クロ」
ティーナが優しくクロの背中を押してやる。国王、父親の側へ。
「あ、はい。お父様、お元気で。また顔を見せに来ます」
「おお、うむ、そなたも元気でな」
握手も抱き合いも無く、あっさりと。物足りないと思ってしまう親子の会話だが、立場もあるし仕方ないだろう。
帰りはクリスタニア王城に飛空艇の着陸許可をもらい、迎えに来た飛空艇に俺達は乗り込んだ。
「それでは皆さん、お元気で!」
シンディーと兄者が手を振って見送りしてくれた。
「さて、帰るか」
「そうね」
「ん、操縦する」
ミオが志願し、飛空艇の操縦を代わった。
「そう言えば、クリスタニアの西、火竜山脈にレッドドラゴンがいると言う話だったな」
唐突にレーネが言う。
「あ! そうね。ちょっと見ていく?」
などと軽いティーナがその話に乗っちゃうし。
「反対! バカかお前らは。レッドドラゴンを甘く見るな!」
「ユーイチは見た事あるの?」
ティーナが聞いてくるが。
「無い」
キッパリと。ゲームでは何度も倒しているが、リアルではゼロだ。
「ええ?」
「呆れた。そうね、エリカ」
リサがあごで俺を示す。
「ふふ、分かった!」
エリカが束縛を俺に掛ける。
「お、おい、……!」
さらにミオが沈黙も。
おいおい、妙に連携がいいな? 前から話し合ってただろ?
というか、くそ、こうなってしまうと、俺は手も足も出ない。
リサが俺に猿ぐつわをした。
魔力の波動を感じたが、魔道具だな。おそらく、魔法を使えなくする猿ぐつわ。
さらに体をロープで縛られたが、こちらも太くて丈夫そうだ。
俺の力では引きちぎることは不可能。
計画的犯行だと…!?
「じゃ、うるさいのは黙らせたし、火竜山脈をちょっと観光して帰りましょうか」
ティーナがそう言ってニッコリ笑う。
火竜山脈、それは命知らずの冒険者達が『ドラゴンスレイヤー』の称号を求めてやってくる場所。
「「 賛成 」」
ば、馬鹿か、お前らは。
準備も無しに、ドラゴンに挑むだと?
正気か?
いや、アレだ、ちょっと飛空艇で上から眺めるだけだよね?
「楽しみだな」
などとレーネが大剣の手入れをし始めるが、オイオイオイ。
「レッドドラゴンの注意点も再確認しておきましょうか」
リサが言うが、止めて!
クロ! あ、目を逸らすな!
ミネア! 笑ってるし。
クレア! ああん、こちらも微笑んでるし。
『リーファ、力を貸せ!』
今こそ念力が使える魔剣様の出番!
「嫌じゃ」
くっ!
「なに、火竜を倒すときは妾も力になってやるぞ。カカカッ!」
この好戦的な野蛮人共め。
こうなったら……ハッ! そうだ、女神ミルス様。
お助け!
『ううん、あなた方にはフレイム・クリスタルをどのみち手に入れてもらわねばなりません。大丈夫、97%の確率で勝利できますよ』
アホかー!
3%も失敗の確率があるじゃないか。
そこは、100%じゃないと引き受けないぞ!
勝利だけじゃ駄目だ、100%ノーダメージじゃないと。
『ええと、まあ、今までも勝率100%では無かったですし』
は?
「ユーイチ、そんな顔しなくても、大丈夫、今の私達なら勝てるわよ」
などとティーナが言うが。
「ん、作戦、自分を解き放つ」
やめて、ミオ!
「エンハンス、アイス! エンハンス、アイス!」
お前には無理だ、エリカ!
「んー! んー! んー!」
レッドドラゴンを甘く見るなー!
俺の必死な心の叫びが、火竜山脈の空に響き渡った。
――― 『守るべきは――』(クリスタニア編) 完 ―――




