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忘却の島へ

筆舌に尽くしがたい拷問を終えた俺は、ブタオ達と合流するべく下流へと足早に進んだ。


ゴブリンから引き出した情報は俺の予想の遥か斜め上を行っていた。

曰く、魔王が死去し、王位を巡る争いが内密に勃発していること。

曰く、ゴブリン達の支持している好戦派の第ニ王子が王位継承権第一位の第一王子を暗殺したこと。

曰く、最大勢力となった第ニ王子が、王位継承権のある者を片っ端から処刑していること。


…そして何よりも驚いたのが、ハンバーグに王位継承権があるということだ。

ハンバーグは妾の子どもだが魔王の娘に当たるらしい。

尤も正式な王妃でないものが魔王の子どもを産むのは醜聞に当たるので、ハンバーグの母親は妊娠と同時に魔王城から追い出されている。

しかし、魔王城には当然この事を知っているものがいたのであろう。

第二王子はハンバーグを抹殺するべく私兵を派遣し、村を焼き討ちにしたそうだ。


正直、ここまでの情報を偵察兵が持っているのには驚きだが、ゴブリン族には危機管理という意識がないのであろう。

ちなみに情報を聞き出したあと、ゴブリンには永遠の眠りを与え、袋に収納した。


正直言ってこの件はか弱い子羊族である俺には荷が重い。

ましてや記憶すら失っている少女に言っても詮なきことであろう。

ブタオに言っても3単語以上の言葉は理解できないに違いない。


俺は1,2分メェメェ思い悩んだ末に、この件についてはさっぱり忘れることにした。


………(´ε` )


「あっ、ラムダが来たよ!ブタオブッヒ!」


「ブヒィ~。アニキ遅いでブヒ。おいらもう腹減ったブッヒ」


「ごめんごめん。待たせちゃったね。でもここは危険だから海側に1時間くらい移動しよう」


ブタオはブヒブヒ文句を言っていたが、豚ロースになる可能性を諭すと黙って付いて来た。

簡単に食事を済ませた後、俺達はまた移動を始める。


「ねえラムダ。あたし達これからどこに行くの?」


「お家に帰るだよぉ」


「お家?どこにあるの?」


「ブヒヒ~ン。行ってからのお楽しみブヒよ!」


俺達の住処は基本的に秘密にしてある。

バラすとボンレスハムの刑に処されるので、ブタオにしては珍しく言葉を濁したようだ。

ちなみにボンレスハムの刑というのは柱に貼り付けにされて、しばらく飲まず食わずになる刑である。柱に縛り付けられた豚がハムに見えたので俺がそう名付けた。

未だにこの刑に合って無事だった豚ハムはおらず、オークにとっては死よりも恐ろしい刑罰である。


休憩後、3時間くらい進むと森が開け海が見えてきた。


「わぁ~海だ!海に入るの!?」


「メェェ…海には怖い生き物がたくさんいて、入ると骨以外全て食べられちゃんうんだよぉ」


「そうなんブヒ!?おいらもう海には絶対入らないブッヒ!」


何となく少女と豚肉の恐怖心を煽ってから海岸沿いを移動する。

子どもにやってはいけないことを教えるには、昔から怪談などで恐怖を煽るのが良いと決まっている。

尤も別に海に入ってはいけない理由はないのだが。


やがて歩き辛い岩場に行き付き、崖の下の入江へと辿り着いた。

そこには帆を畳んだロングシップが波に揺られて静かに佇んでいた。

そしてその周りには…


「ブヒヒー、アニキが帰ってきたブッヒ」


「アニキ、お疲れブッヒ!」


「ブヒヒ、これで今回の遠征は終わりでブヒ?」


…ブタオがたくさんいた。

いや、おそらくブタオとは違う個体なのだろうが、どうにも俺には判断がつかないのだ。なので俺は便宜上頭の中で全員ブタオと理解している。

強いてオリジナルのブタオの特徴を上げるとすれば、他のブタオよりも巨大でデブっているというところであろうか。


「やあ、待たせたね。そうそうこの子はハンバーグだよ。一緒に帰るからよろしくね」


「わぁー、豚さんが一杯いるね!あたしはハンバーグだよ!よろしくね!」


「「ブヒヒ~ン、ハンバーグブッヒ?ハンバーグ食べたいブッヒ!」」


豚ロース達はハンバーグという言葉にやたらと反応していたが、俺は全てを無視して船に乗り込んだ。調子に乗らせると際限なく料理を作るはめになるので面倒くさいのである。


「行くぞ豚野郎ども!!帰ったら命の水を浴びるほど飲ませてやる!!さあオールを持て!!海の豚男達よ!」


「「「ブッヒ~」」」


俺は子羊族特有のか細い声を張り上げると、豚どもにオールを漕がせて入江から船を出航させた。

今日は追い風なので、帆を張れば2時間ほどで目的地に着くことだろう。

ちなみに命の水というのはじゃが芋から作った蒸留酒ウォッカのことである。

ウォッカだとプレミア感が薄い気がしたので、豚肉達には命の水で定着させている。


「ブッヒ!ブッヒ!ブッヒ!…」


豚たちが暑苦しい声を張りながらオールを懸命に漕ぎ続けている。

早く帰って酒と飯にありつきたいのであろう。

豚とサラミは使いようとは良く言ったものである。

帆に受ける風と相まってロングシップは矢のような速度で進んでいった。


「うわ~すごいねラムダ!もう陸が見えなくなっちゃったよ!」


「そうだねハンバーグ。あんまりはしゃぐと海に落ちるから気をつけるですよ。」


「ブヒ~海に落ちたら骨だけになっちゃうブッヒ~」


これから俺たちが向かおうとしているのは、本土の者達に忘れ去られた島、忘却の島である。

実りが少ない陰鬱とした不毛の土地で、かつて大体500年前に本土で戦争があった時に、島を追い出された少数民族達が移住した島だ。

それからは流刑に処された者達が船に乗ってたまに辿り着くくらいで、本土とは全く交流が無い島だった。


「あっ!ラムダ!島が見えてきたよ!」


「うむ。豚ども!もう少しで故郷に着くぞ!ラストスパートだ気合を入れろ!」


「「「ブヒヒ~ン!!」」」


別に特に急ぐ理由はないんだが、何となく言ってみた。

俺は純粋な豚達を酷使してきた今までのことに若干の罪悪感を感じたが、運動すれば飯が美味しくなるに違いないと思い至り、己を正当化することに成功した。


眼前に見ゆるは忘却の島。

陰鬱とした不毛の土地、冬は厳しく食料はない。忘れ去られた一族たちの島。


500年前に戦争によって故郷を追われた少数民族達は、大抵の者が忘却の島にて一年も経たない内に朽ち果てた。しかし、その厳しい環境にも適応出来る種族がいたのだ…それは子羊族である。


子羊族はその名の通り体格に恵まれておらず、本土でも有数の虚弱さである。

しかし、体が小さいが故に食料がほとんど無くても生きることが可能で、体表を覆うモコモコの毛皮は冬の寒さを物ともしなかった。

子羊族は他の種族が忘却の島で絶滅していく中、300年もの間、島の表層に生える草だけを食べて生存し続けたのである。


また、子羊族の寿命は極めて長く、現在の長老は齢620歳を迎える。

本土にいた頃は天敵であるダイアウルフに寿命を終える前に喰い殺されることがほとんどであったが、追放されたことにより平均寿命が伸びる結果となったのは皮肉な話だと言えるだろう。


そして子羊族が忘却の島に植民してから300年後、俺という存在が生まれることにより、この島は異常な発展を遂げていたのであった…。


ラムダは200歳です。


子羊族の寿命は1000歳ほどで200歳は普人族で言う20歳くらいに当たりますが、子羊族は20歳くらいまで普人族同様に成長した後、寿命近くなるまで老いることはありません。

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