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魔王の尖兵ウルフライダー!

にぇぇ

今後のことを話し合った俺たちは、とりあえず川の上流を探索して、何かハンバーグの身元について手がかりが無いか調べることにした。

上手く行けば親元も見つかることであろう。


「ハイヨー!ブタオブッヒ!」


「ブタオブッヒじゃなくてブタオブッヒ!」


ハンバーグは子どもなので(と言っても俺と同じくらいの身長だが)、移動速度を上げるためにブタオに肩車してもらっている。

俺は子羊族一と名高い健脚をシャカシャカ動かし、周囲を素早く警戒しながら進んでいく。


川沿いを上って1時間後、俺の第六感が違和感を覚えた。

まだ視界に入らないが、どうやら前方に何者かがいるようだ。


「…ブタオ、フォーメーションBGだ」


「ふぉーめーしょんびーじーって何ブッヒ?」


俺はハンバーグに茂みに隠れるように指示し、ブタオを盾にするようにして待ち構えた。

ちなみにフォーメーションBGのBGはブタオガードの略である。


数秒後、茂みを掻き分けながら2体のウルフライダーが飛び出してきた。

ウルフライダーというのは、ダイアウルフという巨大な狼に乗ったゴブリン騎兵で、魔王軍の尖兵である。


「止まれ!貴様らここで何をしている!」


グルルと今にも喰い付かんばかりで唸りを上げる凶悪な狼の上から、武装したゴブリンが詰問してくる。


「メェェ~戦士様、命ばかりはお助けを~」


「ブヒヒ~ン、おたすけを~」


「何をしているのかと聞いている!」


俺とブタオはハハ~お助け~とばかりに土下座の構えを取った。

これで第一印象は悪く無いだろう。

こんなこともあろうかと、ブタオには交渉事は全て俺に合わせるに言ってある。


「おら達はただの迷える子羊と小汚い豚ですだ。何も悪いことはしてねえです、メェェェ」


「ちっ、だから何をしているのかと聞いているだけであろう!?」


「へへ~おいら達は下流に住んでる村のもんで、木の実を集めてるだけですだぁ」


「木の実ねぇ…そこの豚は何やら物騒な斧を持っているようだが?」


ちっ、中々目聡いな。

ブタオは背中に両側に刃の付いた、大振りのダブルアクスを背負っている。


「メェェ、森には野生の狼がいますんで、これは護身用ですだ」


「ふん、まぁよい。貴様らこの辺で誰か見なかったか?」


「誰かとは誰ですだ、戦士様?うんこ垂れのゴンゾーのことですかい?」


「違う!そのような者ではないわ、愚か者め!肌の黒いエルフの少女だ!」


どうやらこのウルフライダー達は高確率でハンバーグを探しているようである。

何やらきな臭くなって来たが、味方なのか敵なのか分からないので、とりあえずもう少し情報を引き出すことにした。


「その少女がどうかしましたんで?」


「貴様の知ったことではない!知らんのなら用はないわ!おい、行くぞ!」


ゴブリンというのは思いの外、気が短いようだ。

ここで去られても困るので引き止めることにした。


「メェェ…そういえばゴンゾーが女の子がどうとか言ってましただぁ」


「何だと!?それを早く言え!そやつは今どこにいる!?」


「ゴンゾーなら川の下流の村におりますだ、戦士様」


「よし。なら貴様がそのゴンゾーとやらの元へ案内せい」


「メェェ…しかし、無断で客を招き入れると村長に怒られますだ。要件を言って頂かんことにはおらの責任問題になりますだぁ」


「ちっ、いいかよく聞け、その者は逆賊だ。庇い立てするなら貴様の村を丸ごと焼き払うぞ!」


「メェェ!?いますぐ案内しますだよ!戦士様!」


どうやら、ハンバーグとは敵対しているようだ。

正直面倒なのだが、ハンバーグを保護すると決めた以上、無視することは出来ないだろう。


俺は後ろを向き、案内すると見せかけて、魔法の準備をする。

そして振り向きざまにウルフライダー達に向かって、眠りの雲(スリープ・クラウド)の魔法を放った。


突如出現した乳白色の気体にウルフライダー達は混乱した。

この魔法、眠りの雲(スリープ・クラウド)は、気体を吸った対象の意識を羊のミルクのように混濁させて催眠状態にする。

特に精神耐性の低い獣に対して有効な魔法で、俺の得意魔法の一つでもある。


「ブタオ!いつものパターンだ!」


「ブッヒ!」


ブタオは背中のダブルアクスを取り外すと、朦朧としているダイアウルフの首を一撃で斬り落とし、返す刃でもう一匹のダイアウルフの首も斬り落とした。

ちなみにいつものパターンというのは、俺が敵を催眠状態にした後、ブタオの怪力で止めを刺すという必勝パターンである。


ダイアウルフ達の体が力なく地に落ち、同時にゴブリン達も地面に叩きつけられる。

ゴブリン達は魔法の影響を受けているにも関わらず、訓練された動きで受け身を取った。

しかし、完全に体勢を立て直す前に、俺の投擲したダガーが手前のゴブリンの左肩に命中する。


「ブッヒィー!」


ダガーを受けて怯んだゴブリンにブタオが迫る。

負傷したゴブリンは素早く腰のシミターを引き抜き、右手で持ってブタオの腹を斬りつけたが、これは判断が悪かった。

ブタオは斬りつけられるのも構わず、そのままダブルアクスを振り下ろし、ゴブリンの頭をザクロの如くかち割った。


「き、貴様ら!こんなことしてただで済むと…!」


残ったゴブリンが何やら喚いているが、構わずブタオが突進する。

ゴブリンはショートスピアを両手に構えて迎え撃った。

しかし、嵐のように両刃の戦斧を縦横無尽に振り回すブタオに圧倒される。


「ブタオ!殺すなよ!」


眠りの雲(スリープ・クラウド)の影響か、ぎこちない動きをしているゴブリンは、ショートスピアをあっという間に弾かれ体勢を崩す。

好機と見たブタオが体当たりをぶちかまし、ゴブリンは全身を木に叩きつけられ昏倒した。


「ブヒヒ~ン!ビクトリーブッヒ!」


「メェェ…殺してないだろうな」


ごっそりと木の葉が落ち、ブタオの体当たりの凄まじさを物語っている。

被害にあった哀れなゴブリンは間違いなくそこかしこを骨折したことであろう。

如何に訓練されたゴブリンとは言え、豚の塊の前には無力だったようだ。


「後片付けは俺がやるから、ブタオはハンバーグを連れて下流に少し下ってくれ。…傷は大丈夫か?」


「ブヒヒ、こんなの唾つけとけば治るでブヒ!」


オークは確かに凄まじい怪力を持った種族だが、それ以上の怪力を持った種族は大勢いる。

オークを語る上で真に特筆すべきはその生命力であろう。

蓄えた脂肪(エネルギー)のおかげか、瞬く間に傷を癒やす超人的な自然回復能力を持っているのだ。

今回ブタオが相手の攻撃を気にせず相打ちを狙ったのはこのためだ、一撃で致命的なダメージを与える攻撃でない限りオークが怯むことはない。

尤も怪力と自然回復能力で言えばトロルの方が上だが、トロルは知力と器用さが絶望的なくらい低く、単純なコミュニケーションしか取れない上に、棍棒を無造作に振り回すことくらいしか出来ないので一長一短だ。

まぁ要するに、オークは肉壁に丁度よい種族ということである。


ブタオにハンバーグの世話を任せた後、俺はダイアウルフとゴブリンの死体を収納魔法の掛かった袋に詰めると、血の跡を土魔法で隠蔽し、証拠を隠滅した。


残りは昏倒しているであろうゴブリンだが、もちろんこのゴブリンを生かしたのは尋問するためである。

俺はゴブリンを縄で拘束した後、天使のような子羊フェイスを醜く歪め、筆舌に尽くしがたい拷問*を開始するのであった。

(*眠りの雲で意識を混濁させた後、巧みな話術で自白させる)

ウルフライダー:

ダイアウルフに騎乗したゴブリンのエリート部隊。

魔王軍の尖兵として工作、偵察、略奪といった諸々の活動を本隊に先行して行う。

通常の騎馬兵と違って森や山といった悪路の機動力や瞬発力では勝さるが、平原での機動力と持久力では騎馬兵に劣る。

主な装備には以下の様なものがある。

・投擲を兼ねたショートスピア

・比較的軽い力で斬り裂けるシミター(サブ武器)

・投石用のスリング

・捕獲用の投げ網

・村を焼き払うための松明

・軽さとそこそこの防御力を備えたレザーアーマー

狼の機動力で翻弄し、投げ網で獲物を捕らえ、遠距離攻撃の後に狼をけしかけて攻撃するのが定石だが、今回はラムダに隙を突かれ機動力を封印されたため呆気無く敗北した。

ちなみに、ゴブリン族はそこまで器用ではないので騎乗したまま弓を使うことは滅多にない。

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