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ハンバーグの起源

処女作なんで優しくしてね。

…zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


…200年後


…zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz


「…ニキ…アニキ!そろそろおきるでブヒよ!」


目を開けると丸々と肥えた豚が俺の顔を覗いていた。


「…シュッ!」


上体を起こすと同時に肘で豚のこめかみを打ち抜く。

たまらず転倒した豚の化物に馬乗りになり、両の鉄拳を連続で叩きつけた。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらお!ラオッ!…ラオッ!」


ふぅ…危ない危ない。

これだけ叩き込めば絶命したことだろう。

寝こみをオークに襲われるとは俺もまだまだ修行が足りんな。


「ブヒヒ!アニキ!こちょばしいでブヒよ」


ちっ。生きていたか。

昔、まだこの豚肉がブヒブヒ泣いていた子豚だった頃は年齢差による暴力に訴えることが出来たのだが、数年で身長2mを超える豚の塊になってしまったのだ。

子羊族の俺は成人(200歳)なのに身長が1m30cmほどしか無く、豚の山に対してはもはや無力であった。


「アニキ!もう朝でブヒよ。ゴハン食べるでブヒ~!」


「う~ん…あと5分…」


「駄目でブヒよ!アニキは一旦眠ると12時間は起きないブヒッ!」


やれやれ、煩い贅肉だ。

豚特有の食い意地の悪さで、朝食と夕食に限ってはラードの如くしつこいのだ。


「しゃあないな。じゃあ川から水汲んできてくれや」


「分かったでブヒ~。それと、おいら朝はベーコンエッグ食べたいでブヒッ!」


「共食いか!分かったから、さっさと行って来い」


豚野郎は無駄に力があるせいか意味不明なくらい不器用なので、料理は俺の担当だ。その代わり、か弱い子羊である俺は力仕事と面倒くさい仕事を全部豚肉に任せている。

持ちつ持たれつの美しい共存関係というわけだ。


鉄鍋を火で熱し、切り分けたベーコンを入れ、その油で卵を焼いていると、豚が大地を揺らしながらブヒブヒ戻ってきた。


「アニキ~!大変ブヒッ!これ見るでブッヒッ!」


「メェェ?」


朝から鬱陶しいやつだなと思いつつ、声の方を見やると、そこには巨大なラードの塊がいた。

じゃなくて、豚が浅黒い人間の少女を抱えていた。


「おい!ブタオ!早まるな!そんなの食べたら腹壊すぞ!」


「なに言ってるでブヒ?この子、川で流れてたんブッヒ!アニキなんとかするでブヒよ!」


ブヒブヒと豚語で何か言っているが、要領を得ないので、

とりあえず少女を地面に降ろさせ、容体を見ることにした。


俺が脈とか測ってる間、豚は心配そうに鼻息を荒くしていたが、ベーコンの焼けた臭いを嗅ぎつけて、楽しそうに朝食をフゴフゴ食べ始めた。


「…ふむ。脈もあるし、大きな怪我もないようだ…おいブタオ!俺の分は残しておけよ!」


「クッチャクッチャ…大丈夫そうで安心したブヒ…クッチャクッチャ…アニキ、スープとパンはまだブヒか?…ブッチャブッチャ」


ちっ、ド豚野郎が。

とりあえず豚のことは放っておいて子どもの細かいキズを治すことにした。


「神様、仏様、羊様。哀れな子羊に傷を癒す力をお与えください…ナムナム…癒しの光 (ヒール)!」


ポワッと俺の可愛らしい両の手から光が溢れ、子どもの傷を癒していく。

ちなみに今使ったのはいわゆる魔法だが、言葉による詠唱は必要ない。なんとなく気分で言っているだけだ。


「…う、う~ん…ハッ!?」


魔法のおかげか、どうやら目が覚めたようである。

さすが子羊族一と呼ばれる俺の魔法は一味も二味も違う。


「…ここどこ?…なんで羊さん…オークッ!?」


「安心しなさい。そこのオークは私の非常食です。貴方に危害を加える事はありませんよ」


「クッチャクッチャ…おお!起きたでブヒか!さすがは…モッチャモッチャ…アニキブヒッ!おめえさん川で流されとったでブヒよ?覚えてるブヒッ?…ブッチャブッチャ」


折角俺が優しくなだめているというのに、肉を咀嚼しながら近づいてくるオークの山に少女は怯えてしまったようである。


「…こ、来ないで。あたし食べても美味しくないんだからね!お腹壊すんだから!」


少女はそう言いながら俺を豚の方に突き出した。

どうやら俺のほうが美味しい餌だと主張したいようである。

あながち間違ってはいない。


「大丈夫だよ。こいつは見た目は豚だけど心の中は優しい豚なんだ。君を食べたりはしないよ。(よっぽど腹が減ってない限りは)」


「そうブヒッ!おいらこう見えてビショクカブヒよ!美味しいものしか食べないでブヒッ」


「本当に?あたしのこと食べない?痛いことしない?」


俺の天使のような子羊スマイルで、警戒レベルは下がったようである。

あとは餌付けでもすれば落ち着くことであろう。


「ねえねえ。お腹空いてないかい?食べながらお話しようじゃないか」


「…グーッ(お腹)?」


「ブヒヒッ。アニキのゴハンは美味しいでブヒよ…クッチャクッチャ…一緒にゴハン食べるでブヒ…ゲェップゥ」


豚団子が俺の分のベーコンも食べてしまったので、俺は新しくご飯を用意することにした。

子どもといえばあれだ、ハンバーグでも食わせておけば大人しくなるだろう。

収納魔法の掛かった袋からハンバーグのタネを取り出し、ペッタンペッタン空気抜きをする。

お腹の空いた少女は手から手へと叩きつけられるひき肉に興味を示したようだ。


「羊さん、何してるの?」


「ひき肉に宿る豚の怨念を祓って肉を美味しくしてるんだよ」


「そうだったんブヒッ!?アニキすごいでブヒ!」


感心する子どもと豚肉を横目に、手早く3つの塊を作り、鉄鍋にラードを引いてハンバーグを焼く。

仕上げにチーズとトマトソースをかけた。

平行して沸かしていたお湯に自家製コンソメの素を入れてスープを作り、主食としてパンを添える。


「さあ召し上がれ」


「うわぁ~美味しそう!」


「ブヒヒン!おいらもうお腹ペッコペコでブヒよ!」


ハンバーグは思った通り子ども受けが良かったらしく、少女は一心不乱に食べ尽くした後、おかわりが欲しそうな顔でこっちを見てきた。

子羊族一のナイスガイである俺はハンバーグの半分を少女にあげることにした。

小食なのに調子に乗って作りすぎたせいでは断じて無い。


「ぷはぁ~美味しかったよ。ありがとう羊さん!」


「なに、礼には及ばんよ。ところで君は何者なのかね?」


「あたし?あたしは~あたしって誰なの!?」


「ブヒ?アニキ?この子は誰なんでブッヒ?」


メェェ…俺に聞くなよ。


………(´・ω・`)


ちょっと予想外の返答だったので慌てたが、話を聞いてみるとどうやら記憶喪失になっているようだ。

可哀想に余程酷い目にでもあったのであろう。

ちなみにこの結論に至るまで3日かかっている。

記憶をなくしたことに気づき錯乱状態に陥る少女をなだめ、時には強制的に眠り魔法をかけて鎮め、毎日要求してくるハンバーグで餌付けしてきた。

今では豚馬ゴッコを興じるまでに精神が安定してきている。


「豚さん、ハイヨー!」


「ブヒヒーン!ブヒヒーン!」


尖った耳先、浅黒い肌、銀髪。

少女は人間ではなくダークエルフだった。

記憶のない彼女から引き出せた情報はそれくらいである。


「ご飯出来たわよ~」


「はーい!豚さん行くよ!目指すはハンバーグ!」


「ハンバーグブヒヒーン!」


そして今日も今日とて俺はハンバーグを作っていた。

否、作ることを強制させられていると言ったほうが正しいか。

少女と豚ダルマの飽くなき食欲の前では、子羊は実に無力なのだ。


「ところでそこな童よ。今日はそなたに話しておきたいことがある」


「…モグモグ…羊さんって何でたまに話し方変になるの?」


「クッチャクッチャ…だいじょうブッヒ。アニキはいつも変ブッヒ…ブッチャブッチャ」


おっと、中々鋭い所に気づくものだ。

この癖には実は深い事情がある。

それは例えば俺が実は転生者で、この異世界に来たことによる精神と肉体のギャップによって生じた実存の危機に根ざす無意識下の防衛本能によるものだったりするのだが、主な理由としてはただ何となく気分でそうしているだけである。

子羊心というものは、秋の空の眠気のように移ろいやすいものなのだ。


「とにかく、まず君の名前を決めたいんだよ。呼び名が無いと不便でしょ。ちなみに僕はラムダっていうんだ。子羊だけにラムだよ」


「ブヒブヒ。おいらはブタオブッヒ」


「へえ~、羊さんがラムダで、豚さんはブタオブッヒって言うんだね。でも名前ってどうしたらいいの?あたし自分の名前知らないよ?」


ふむ。どうやら俺の必殺ギャグは幼子には難しかったようである。

あと豚肉の名前はブタオブッヒではなく、ブタオというのだが、面白いのでそのままにしておこうと思う。


「おいらの名前はブタオブッヒじゃなくてブタオブッヒ。それと、おいらはアニキに名付けてもらったんブッヒ。お嬢ちゃんも名付けてもらえば良いでブヒよ」


「そうなんだ。じゃあ羊さん、あたしの名前付けて!」


やはりこういう展開になるか。

だが俺には天性の名付けセンスがあるので、この少女は実に幸運である。

ここは子羊流のウィットに富んだ素晴らしい名前を付けてあげよう。


「じゃあ、ハンバーグって名前でどうだい?」


「ハンバーグ?でもそれって料理の名前じゃないの?」


「ブヒヒ。美味しそうな名前ブヒ」


おっと説明が足りなかったか。


「いいかい。古来より子羊族の間では名は体を表すと言ってね。名前はその人がどういう人物なのかを表すんだよ。だから君はハンバーグが好きだからハンバーグなのさ!そして僕はラムだからラムダなんだ!」


「ふ~ん。何だかよく分からないけど。あたしハンバーグ好きだからハンバーグって名前も好きかも!」


「ブヒブヒ!おいらもハンバーグ食べるの好きブッヒ!」


…こうして子羊の気まぐれから、後の世において史上最強と呼ばれる大魔法使いハンバーグが誕生したわけだが、この時の俺達はハンバーグを食べるのに夢中で知る由もないのだった…


ハンバーグの肉はその辺の獣とブタオの合い挽き肉です。

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