雨の日2
「ここ最近雨続きだから毎日来てくれるよね」
「あっ、はい。ここなんだか居心地良くて…はは…」
なんて乾いた笑いを零しながらお店の中に入る。
居心地良いのは二の次に決まっている。
彼、榎本真城さんに会いたいが為。
何故名前を知っているか?
そりゃあ、常連だもの。
「居心地良いの分かる、何でだろうね」
そう言った彼はふわり、と微笑んでくれた。
私は驚いた。そういう風な顔もするんだ、と。
何時も眠そうな顔しかしていないのに。
まるで花のような、そんな暖かい頬笑み。
今日一番の収穫かもしれない。
「…今日もいつものブレンドでお願いします」
「はい、畏まりました」
彼はいつも通りの店員さんの顔に戻り、
カウンターに入って珈琲を淹れ始める。
私はいつも一つ疑問に思う事がある。
この喫茶店、真城さんしか店員さんが居ない
それにマスターも見当たらない。
私はここに来て、真城さんにしか会っていないのだ。
もしかして時間帯的に会わないだけ?
私がここに来るのは学校が終わって
四時から五時くらいまでの一時間。
多いに有り得る。
けれど、昼間は一人だけで営業っていうのも…
なんて疑問に思うけれど本人に聞けないのが私なのである。
うんうんと唸っていること数分
鼻をくすぐる珈琲の良い香り。
「お待たせしました、当店オリジナルブレンドになります」
と珈琲を差し出す真城さんが視界に映った。