古い館
来てはいけなかったんだ。ここに来てはいけなかったんだ。
「何デ逃ゲチャウノ。」
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「恵美いい加減起きて!!」
「うるさいよ、香織。で、また何かあったの?」
幼馴染みの香織は心霊系統のことが大好きでそういうことがあればすぐに飛びつき、周りの人を巻き込む。巻き込まれるのはもっぱら私だ。いい加減にしてほしい。そんなの興味ないのに、信じてもいないしね。
そういえば何か夢を………まあいいや。夢は夢だし。
「ねえねえ知ってる?町はずれにさ誰も住んで無い館があるんだって。」
そこの噂は中から子供の声が聞こえるなどどこにでもあるような怪談話。はっきり言ってものすごく嘘くさい。が、それに食いつくのがこいつ。
「で、ついてきてってこと?」
「正解!!」
「ハア………」
そうして私たちはいや私は巻き込まれて行く。
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「ここだよ!!」
そう言われてきたのは古い館。
‶ゾクッ”
何だ、これ………
入りたくない、入りたくない入りたくない入りたくない入りたくない入りたくない入りたくない入りたくない
はいりたくない
そんな言葉で頭の中がいっぱいになる。
「どしたの?」
「あ、いやなんでもない。何もなかったらすぐ帰るよ。いい?」
「もっちろん!!」
この元気は何処から出てくるのやら。
もうここまできたらどうしようもないか。香織は一度言ったら聞かないしな。自分の気持ちを押し殺す。
香織は中にどうどうと入っていく。こいつその内住居不法侵入で捕まるのではなかろうか。
それからしばらく歩いているが何もない。時々部屋を開けているがやはり何もない。この世にそんなものはいないのだから当たり前だ。が、言いようもない不安が心の中に渦巻く。
気付くと香織はある部屋の前に立っていた。
「ねえねえ恵美、ここ開かなっいっ。」
普通に開けようとしているのだろうが開く気配が全くと言っていいほどない。
「立てつけが悪いだけでしょ。早く帰るよ。」
そこは開けたくない、そんな気持ちがあった。だから早く帰ろうと催促したのに、
「気になるのっ、私の好奇心がっ刺激されるっのっ。だから、ここ開けてっかっらぁぁぁぁぁああああああ。」
そんな思いも空しく扉は
‶ビリッ″
いとも簡単に開いてしまう。
何か破れた音が響く。香織が開けた扉の中見るとそこにはビッシリと何かが書かれている紙が貼られていた。
「これは‶封″かな。」
「何か開けちゃダメなの開けちゃったんじゃない?」
「さあね。でも何にもないし帰るか。」
「う、うん。」
とりあえずなにもなかったように扉だけを閉め帰った。出来るだけ早くここから出てしまいたかった。
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「また出たんだって。」
「怖いよね。」
また……か。最近通り魔が出始めた。通り魔は神出鬼没らしく中々捕まえられないらしい。しっかりしてくれよ、警察。そんなことも関係があるのかどうか分からないが、香織の心霊めぐりはあれ以来鳴りをひそめていた。私的には嬉しいこと限りない話しではあるのだが。
母親に通り魔についてどうこう言われたがなんとなく聞き逃していた。
「ん?もう11時になるのか。」
もうそろそろ寝るか。そう思いベッドに入った。寝つきは良い方の私なのだが何故か寝付けない。私のベッドの置き方からして足の方に扉がくるので何気なしにうっすらと開いている扉を見ていた。
「………んっ。」
人のような黒い影が見えた。母親だろうか、それにしてはおかしい。母親であれば入るのなら入ればいい。あのような変なことをする必要もないはず。まるで扉を開けようとしてはやめているあるいは私に向かって手を振っている。そんなようにも見えた。声を出すわけにはいかない……なぜかそんな感じがした。そして私はもう一つおかしなことに気づいた。下から上がってくる父親も下に降りていく母親も素通りしていく。まるで何もいないかのように。その間にも黒い影は同じことをしている。何なんだ、あれは。
そしてまた別の日の夜。
下から何か聞こえる。
``シャコ シャコ''
まるで包丁を研いでいるかのような音。
誰かこんな時間に起きているのだろうか。だとしてもわざわざこんな時間に?少し気になり下に行くと
「ん?」
誰もいなかった……その上何もなかった。まるで、何も起きていなかったかのように。
そんなことが何日も何日も続いた。いくら私でも少し薄気味悪く感じ始めていた。
そして通り魔事件の数も増えていった。切りつける個所もどんどん増えているらしい。まるで、私が家で起きていることに比例するかのように。警察の顔は丸つぶれだった。
「ねえ恵美ちょっといい?」
「ん、何?」
「もしかしてだけどこの事件ってあそこ開けたことと何か関係があるのかな。」
「んな訳あるか。」
「でも、通り魔事件が始まったのって私たちが行ってからだよ。やっぱり何か……」
「たまたまでしょ。そんな訳ない。」
「そ、そだよね。」
何を言っているのだろうか、こいつは。
そんな話をしてしばらくのことだった。先生に言われていたことをすっかり忘れていた私は遅くまで残っていた。両親たちは一人でどうのこうの文句を言っていたが何でも急ぎのやつだったらしく、今日やるしかなくなっていた。私としたことが……忘れてしまうとはな。私の家はどう帰るにしても一度は人通りの少ないところを通らなければならなかった。30℃を超えるような暑さだというのに何故か鳥肌が立っていた。
「風邪でも引いたか………?」
それにしても何だか気持ちが悪い。イヤホンを付け出来るだけ音を聞かないようにする。そうでもしないと何かよく分からないものに飲み込まれてしまいそうだった。
末期だな、早く帰って寝た方がいいかもしれない……………
「ん?」
変な視線を感じる……気がした。気のせいか。そう思うが最近の事件のこともある。そう思うと足が少し早くなるのも仕方ないことだろう。だがそれは気のせいではない、そう感じた。後ろを見てはいけない。それは分かっている。だが私は好奇心に負け振り向いてしまった。そこには包丁を持った何者かがこちらを見ていた。その包丁はいやに光っていた。自分の足が自分の足ではないようだった。逃げなきゃ、そう思うのに足が動かない。
「………あ。」
その一言が聞こえたかと思うといつの間にやらそいつはいなくなっていた。
「…………ハ、ハア。」
静かに息を吐くことしか出来なかった。
家に帰って両親に言うかどうか迷ったが言わないことにした。このことを言って送り迎えをすると言われても面倒な話だからな。
その日いつも起こる現象は起きなかった。
しかし頭の中にはいやにあの包丁の光が眼に残っていた。
次の日ふと香織が言っていたことを思い出した。そんな事はあるはずがない、そう思っているのだが自然と足があの館に向かっていた。
この前開けてしまったところに行く。そこに来ておかしなことに気づく。どうしてあの時気づかなかった?!
紙は内側から貼られている。だったら一体ここを封した人は誰なんだ。
これじゃあまるで自分を外に出さないようにしたみたいじゃないか。中をのぞくと何もない。この場合何もないことは良いこと………ではない。今この場で何もないのはおかしい。これじゃあまるで誰もいなかったって事になるじゃないか。どういうことだ、中にも居ない。だったらどうやってここを閉じたんだ!?
「もう一度教えてあげようか、お姉ちゃん。」
そこにいたのは小さい男の子。けど、どこか変………?それに何を言ってるの。もう一度?
知らぬ間に自分の足は遠ざかって行った。
それと同じように男の子も近づいてくる。
「それはね?自分で閉じたからだよ?」
「だ、だったら何もないのはおかしい………」
「おかしくないよ?だってそれボクだもん。まあ、正確に言うとこの子、だけどね。」
どういうことだ………?
「クスクス、お姉ちゃん。この子はね。」
そう言って自分の手を胸に置き
「ボクを殺そうとしたんだよ?無駄なのに。ね?お姉ちゃん。危なかったなー、あの時は。その前にこの子の気力がなくなってよかったよ。でも、あのお札だけはあせっちゃったなー。あんなことまでしてるとは思いもよらなかったんだよね。お姉ちゃんありがとね、あの扉また開けてくれてさ。」
「え………?」
私の足は一直線に出口の方に向かっていた。
逃げなきゃ、逃げなきゃ。
「アハハアハハハ。ねえお姉ちゃん何でこの子はボクを殺そうと……封じようとしたと思う?それはねそれはね、ボクがみーんな傷つけちゃうからだよ?」
目の前には何故かあの男の子がいた。満面の笑みを顔に引っ付けて。私はまた別の方向に逃げる。もう方向感覚なんてない。
「みーんなみーんな傷つけちゃうの。たのしいよ?面白いよ?みんなの痛い痛いって顔。アハハハアハハハ。」
そんなことを言いながら追いかけてくる。
逃げなきゃ、私もやられる!!
「でも、あの時はごめんね?わざとじゃなかったんだ。一人で歩いてたから、面白いことしようって思ったらお姉ちゃんなんだもん。あせっちゃった。お姉ちゃんをやるわけにはいかないもんね。やりたくないもんね。」
「だってねボクね、お姉ちゃんのことずっと気に入ってるんだよ?だからお姉ちゃんのお家にまた行ったのに、気付いてくれないんだもん。あんなに手を振ったのになー。でもあの時はあせっちゃったよ、また急に来るんだもんなー。でもねでもね嬉しかったんだぁ、だってお姉ちゃんがまたボクのことに気付いてくれたんだもんね。あんなことやっちゃったのにまた気づいてくれたんだもん。」
そんなことを言いながら追いかけてくる。捕まる訳にはいかない!!
それにさっきからあれは何を言ってるの?!
「なのになのに何で?何で何で何で何で何デ何デ何デ何デ何デなんでなんでなんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ…………マタ逃ゲチャウノ?ボクカラ逃ゲルノ?」
後ろを見ちゃいけない、見たらダメだ。この前みたいには終わらない!!どうして?何でこんなことに?
今さらながらおばあちゃんの言葉を思い出していた。
「恵美ちゃんよーくよーく覚えておきんしゃい。好奇心旺盛なのは良いこと。だけどね度を過ぎた好奇心は
人を殺すよ?」
度を過ぎた好奇心。
扉を好奇心で開けてしまった香織。
気になってしまいここに来てしまった私。
言葉の意味を分かっていれば。
いやこの言葉を覚えて入れば。
今さらなげいても仕方がないのかもしれないけど。
来てはいけなかったんだ。ここに来てはいけなかったんだ。
「何デ逃ゲチャウノ。ボク、オ姉チャンノコト気二入ッテルカラ、コレカラハズット遊ンデヨ。ボクト一緒にズットズーット遊ボウヨ。」
目の前に扉が見える。
あそこから………
``ガチャ”
それはいとも簡単に開いた。
「アーアマタ行ッチャッタ。アソコノ扉ナンデカ閉メレナインダモンナァ。マダコノ子ノ思イガアルノカナ?デモネデモネ、ボクゼッタイ諦メナイヨ。ダッテオ姉チャンノコト、気二入ッチャッタンダモン。ダカラネ、
オ姉チャンノコトゼッタイ
逃ガサナイヨ?」
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「ねえねえ知ってる?町はずれにさ誰も住んで無い館があるんだって。」
あまり怖くない気もしますが……
これは一応ループしていることになっております。この先恵美がどうなったかはご想像にお任せいたします。
題名が思いつかなくて………こんなのになりました、すいません。
この作品を読んで下さった方ありがとうございます。未熟者な私ですがよろしくお願いします。