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序章 ルーテジドの星

 ――序章 ルーテジドの星


「速報です。今月3日より行われております、グィンの世界大会。そのレース中に、優勝候補でもありました、エレリド=ガイゼル氏が、風全山脈の山頂付近で、突如消息を絶ったとの情報が入りました。現在、懸命の捜索が続けられておりますが、未だ手がかりは見つかっていないとの事です。ガイゼル氏は、世界的に有名なシャンの鴻鵠士として、シャン=ルーゼンでは三度の世界チャンピオンにも……」

 テレビに食らいつくようにニュースを見ていたルティカだったが、そのニュースが終わるよりも先に、不意に外へと飛び出していった。慌てて追いかけるジラザの声も、その耳には届かない。

 ――嘘だ! パパが……、嘘だ!

 何の為に飛び出したのかは分からない。だが、ルティカは走り出さずには居られなかった。その潤んだ瞳から、飛行機雲のように涙を散らしながら、ルティカは風の強いルーテジドの草原を走った。


『今度のレースは、危険なものになるかも知れん。だけどなルティカ、逃げる訳にはいかない戦いなんだ』


 レースに旅立つ直前、優しい笑顔のままそう言った父の顔が、幾度もルティカの脳裏を過ぎ去っていく。

 あてども無く草原を駆けたルティカは、まるで導かれたかのように、母の墓の前で立ち止まった。

 瞬間、遠く遠く、ルティカの耳には、父親であるガイゼルの乗った鴻鵠、アルバスのウイニングコールが聞こえてきた気がした。

 だが、強く吹き抜ける草原の風は、ルティカの鼓膜を揺らしたか細い空耳さえも、無情に吹き飛ばしていく。

 ルティカは思わず母の墓に抱きついた。

 押し止めていたものが、堰を切って溢れ始める。

 ――ママ、お願い……、パパを守って……。

 墓石に、涙の染みが広がって行く。

 涙は墓石の色を変え、そのまま彼女の願いと共に、土の中へと染み込んでいった。

 だが、ルティカの願いは空しく、『ルーテジドの星』と呼ばれた鴻鵠士、エレリド=ガイゼルは、幼い娘を残したまま、この日を境に人々の前から姿を消すことになる……。


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