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03・番犬を飼う




「あたしは、お二人に娘のように(、、、、、)可愛がっていただいている異世界から来た者です。名を希姫と申します。ジルゼル王子、先程は誤解して剣先を向けてしまい大変申し訳ありません」


 声を上げたあとに咳払いをして、スカートを摘まみ上げて頭を下げて挨拶をする。謝罪も込めて。

 娘のように、を強調する。

ふふ!王子に血の繋がりがないことを明かせばこちらのもんよ!

王妃と国王は不満そうにしたが、あたしが養子計画に終止符を打った!あたしの勝ち!


「いや、あれは当然の反応でしょう。…しかし誰よりも素早く駆け付けて国王を守る体勢に入った姿…異世界の住人とは思えぬ行動ですね。まるで昔から騎士をやっていたかのように感じました」

「いえ。この世界で生活出来ているのは、お二人のおかげです。この城に滞在することを許可してくださったお二人が危機に晒されているのになにもせずにはいられません」


 感心するジルゼルににこやかに答える。

養子計画とかふざけたことをしようとしてる国王と王妃だが、根は穏やかな夫婦だ。

養子も国を思ってのことだしね。

その二人に贔屓にされているおかげでなんだかんだ贅沢な暮らしを数週間暮らした。守るのは当然だろう。


「しかし鮮やかだった…臆せず空中で戦う姿、見惚れるほど美しかった」


 初めてジルゼルは笑った顔を見せた。

静かな微笑は、ただ思ったことを静かに口にする。

見惚れるほど美しいのは彼の微笑のほうだったが、「見惚れる」と「美しい」を直接男性に言われたことがないあたしは固まった。

 いや、待てあたし。

あたしが綺麗とかじゃないだろう。この場合、戦っている姿が勇ましかったって意味だ。

危うく意識が飛びそうだった寸前で我に返る。危ない、自分から恋愛フラグを立てるとこだった…。


「隣の国のスクドアレン国の第二王子のジルゼル・ナイシュ・クラウドと申します。助けてくださり、ありがとうございます。キキ」

「勿体ないお言葉。こちらこそ貴方に助けていただきました、お礼を申し上げます」


なんとも堅苦しいがジルゼルは王子、つまりは身分上の人なので低姿勢で立てておく。女に助けられるなんて、男としてはプライドが傷つくだろう。

 と、思ったがそんな表情は一切見せず無駄にキラキラした微笑のままのジルゼル。

エルダーのいう通り、王子イケメンだなぁ。

そんな王子から視線をずらせば、赤い瞳の白いドラゴンと目が合う。

ドラゴンは言葉を理解しているんだろうな、きっと。


「ナビル。ありがとう」


微笑んで伝えると微笑み返された気がした。

すると、目の前のジルゼルがあたしの手をとる。

きょとんとしていたらほんの少し眩しそうに目を細めて微笑んでいた。


「貴女は素敵な女性だ」

「え?」


囁く声に首を傾げていると。


「キキ様!!危ない!!」


緊迫した声が投げ付けられて顔を向けると黒い何かが地面を転げて接近してきた。

何か危険物かと思い、あたしもジルゼルも手を繋いだまま下がる。

 すると黒い何かはあたしに衝突する前に、ピタリと止まった。よくみたら暗殺者の一人だ。

警戒してジルゼルが庇うようにあたしを下がらせた。

あたしも国王達に腕を伸ばそうとしたが、あれ?後ろにいたと思ったら結構離れた場所にいた。

まぁ二人が離れているならいいけど、と顔を戻す。

 ひょいっと起き上がる暗殺者は黒い覆面は外されていて、あどけない顔の晒した少年が橙色の髪に花びらと葉をつけていた。

少年の腕はしっかり縄で固定されていたのに、転がってくるなんてなんつー奴だ。

拘束されたまま、なにをしてくる!?と身構えていたが、屈託ない少年スマイルを向けられた。


「惚れました!!犬にしてください!」


ジルゼルの王子の微笑とは違ったキラッキラと目を輝かせる暗殺者A。

 惚れました、犬にしてください。

その言葉を頭の中で繰り返して、解読しようとした。暗号かな。


 惚れました、犬にしてください。

 犬にしてください。

 いぬに。いぬ。イヌ。


「貴女の犬にしてください!!」


沈黙してたら懲りずに言い直した!!

空気読め!今物凄く気まずい沈黙が降りたじゃん!ドラゴンのナビルさえ息止めたわ!


「そ、その声は…あたしが蹴落とした子?」

「ハイ!貴女に空中から蹴落とされて、顔を蹴り飛ばされて叩き潰されてまた蹴られて踏み潰されて惚れました!犬にしてください!!」


 降参と呟いた暗殺者の声に似ていたから訊いてみたら、見事的中。

変わらない屈託な笑顔のまま、あたしがいたぶったみたいに言い、語尾みたいに犬にしてくださいと言いやがった暗殺者Aに身震いする。

なにそれドM発言!?

落ちかけた時とは違う恐怖が駆け巡り、自分の身体を抱き締める。


「………それはキキの下僕になりたいと言うことか?」


庇うようにあたしを背にしているジルゼルが難しい顔をして確認する。

なに王子、わざわざ確認しなくてもよくない!?アンタ天然!?


「ハイ!キキ様の手になり足になり耳になり口になり、ある時は憎き者を暗殺しある時は身体を張ってお守りいたします!貴女様を仇なす者は皆殺しにしますので、犬にしてください!」


ジルゼルが呼ぶから名前を知られてしまった!少年スマイルしてるくせにすんげぇ物騒なこと言ってんだけど!


「しかし、お前は既に主がいるだろう。現にこのオレの命を狙った」

「あ、裏切ります。金で雇われただけなんで、売りますから犬にしてください」


 真面目に問い詰めるジルゼルにサラリと寝返り発言をしてあたしに犬にしてくださいという。

お前の語尾は犬にしてくださいなのか!?


「…簡単に雇い主を裏切るような人は信用できない」

「えーと、じゃあキキ様の犬にしてくだされば口を割ります」


信用できない、つまりは断ると告げると笑顔のまま言い退ける暗殺者M。


「君が口を割らなくても他の暗殺者が…」

「……彼以外、服毒をして自害しました」

「なっ」


言いかけたが、あたしの騎士のマウストが明かす。

暗殺者はドラゴンから落ちた計四名を無事に確保した。

慌てて見てみれば、騎士が取り囲んだ中に暗殺者達が倒れている。


「口を割る前に自分で飲むよう仕込まれてますから。掴まった時のセオンリーです」

「…仕込まれてる?」

「暗殺者として育てられた人間はそうするんです。あれ?キキ様、もしかして異世界のヒトー?暗殺者は雇い主に忠誠を誓うですよ。飼い主の命令にだけ従うよう叩き込まれてるのが暗殺者です」


 少年は異世界の住人だと気付くとにこっと笑って言う。

暗殺者になるためだけに育てられた。それが当然で当たり前のことみたいに笑って言う少年に、あたしは眉を潜める。

それに反応を示した少年は、ベーと舌を出した。その舌には、雫のような粒がある。


「これが毒です。飲み込んだり噛んだりしたら死にますよ」

「!」


毒を再び口の中に戻す少年は、また屈託ない笑顔を向けた。


「どうします?キキ様。口割るのでキキ様の犬にしてください。断るなら死にます」


 ニッ、と剥き出しにした歯に毒を挟んで見せる。

脅しだ。脅迫。

あたしが、死んでもいいけどとは言わないことがわかってて脅してる。

目の前で自殺されては、夢見が悪い。


「……ジルゼル様。取引に応じてもよろしいでしょうか」


ジルゼルのコートを握って静かに言えば、ジルゼルは驚いた顔を向けた。

この暗殺者はジルゼルの命を狙ったのだ。決定権は彼にある。


「貴女が応じる必要はありません、キキ。雇い主を見付け出す方法は他にもある、彼の命を甘んじることはありません。酷に感じるかもしれませんが、命を取引に使う連中です。信用など、してはいけません」


 ジルゼルの瞳に冷たさが帯びた気がした。

しかしそれは幻のように消えていく。ジルゼルはあたしに優しく微笑んで、コートを握るあたしの手を握り締めた。


「彼が死んでも、貴女のせいではありません」


あたしが責任を追わないよう、気休めな言葉をかける。

悪いが、どう考えたってあたしのせいだと思うんだけど。


「聞き出しますので、彼の身柄はあたしに頂けませんか?」

「…取引に応じたいと?」

「はい。応じる許可をください。あたしは彼を信用します」


あたしへの気遣いはいい。あたしが言い直せば、ジルゼルはまた目を丸めた。


「何故彼を信じると…?」

「はい。とりあえず先に雇い主を聞きましょうか」

「あ、あの…キキ」

「だめですか?」


 ジルゼルの腕を潜ってしゃがみ、少年と視線を合わせる。

ジルゼルが戸惑った声を出すので顔を上げて真後ろのジルゼルに問う。

 躊躇した表情をすると、国王達に目を向けた。それを見たあたしは真色花を拾い、少年の膝の上に置く。

バンハート国の秘密の花だから、彼は知らないらしくきょとんと首を傾げた。


「先に口を割ってくれたら、犬にしてあげる」

「…先に吐いたら用済みじゃん」

「あら、次に仕える主を信用してないわけ?」


信用出来ないのに、下僕になるのか?

目を細めれば、少年は少し考えた。


「絶対にオレを犬にしてくれるんですか?キキ様。ジルゼル王子に結局連行されるオチになりませんよね?」

「信用しないならいいけど」

「信用します!します!」

「じゃあそれペッして」


 確認する少年にそっぽを向けば、首を縦に振る。言質とった。

あたしは満足して掌をだし、毒を口から出すように促す。

あたしの手に出すのは気が引けた様子だったが、すんなりと掌に出してくれた。

 カプセルに入れられた毒。

本当に小さいのに、これで即死できるのか。怖い怖い。


「で?ジルゼル王子の暗殺は、誰に頼まれたの?」

「ジルゼル王子の継母の腹心、ロナウド・ベルリッツ」

「…ロナウドだと?」

「継母はジルゼル王子が目障りなんで、消したがっていたんでロナウドに雇われてオレらが殺ろうとしたわけです」


 ピクリと反応をするジルゼル。

少年はペロリと暴露した。花を見ると変化はなし。嘘ではないということ。

国王達に目をやれば、無言のまま頷かれた。信用できると二人が判断を下したという意味だ。

二人の許可は頂いた。


「少年、名前は?」

「ん、オレはアルファ」

「アルファ。あたしに誓いを立てて」


名前を聞き出したアルファにニコリと笑いかける。

 君の最終試験だ。


「キキ様の手になり足になり目になり耳になり口になり、ある時は憎き者を暗殺しある時は身体を張ってお守りいたします!貴女様を仇なす者は皆殺しにします!貴女様に忠誠を誓い、命をかけてお守りいたします!なので貴女様の犬にしてください!キキ様!」


 キラキラと目を輝かせて屈託ない笑みで言い退けるアルファ。

その目が希望に満ちていて、生きる目的を見付けたみたいで、あたしは断れなかった。

 彼が持ち出した取引は、彼自身の人生の選択に見えた。

このまま死ぬか、あたしの下僕になるか。

可笑しな選択だけど、彼は直ぐに掴まったら毒を飲むという教えに背くだけの理由があったに違いない。

その心情を詳しくまではわからないが、あたしが頷くことで自ら生きることを選ぶならそれでいいと思った。


「返事はワンよ、下僕(イヌ)

「えっ。…ワ、ワン」

「小さいわよ」

「ワン!!」


 ニコリとからかってみたら、引くどころが何処か楽しげに犬の鳴き声で頷かれた。

…どうしよう、可愛いわ。

 真色花も未だ変化を見せない。彼に偽りはないから信用出来る。

暗殺者だとしても、無邪気な少年。そしてドMなんだけど。


「ジルゼル王子。勝手に申し訳ありません。ですがこの子をあたしは信じます。犯人に心当たりはおありですか?」


立ち上がり、ジルゼル王子と向き合う。

元々あたしが捕まえたんだし、国王達の許可もある。アルファはあたしの物だ。そこは譲るつもりもないので、信憑性があることを強調してこれからどうするのかを問う。


「……あります。貴女の下僕になったことは構いませんが、彼が唯一の証拠です」

「お返しくだされば、連れ帰ってくださって構いませんよ」


継母関連だ。身内だけで納めたいだろう。

隣の国王まで首を突っ込むのは野暮だ。アルファの証言で済むなら、連れていっても構わないと言うとアルファが騒ぎ始める。


「アンアン!クゥン!…クゥン」

「犬の鳴き声上手いな…」


アルファ、本当に犬になりたいの?


「あたしの手となり目となり口になるんでしょう?なら自分の前の主の最後を見届けてきなさい。ジルゼル王子の暗殺を誰が頼んだのか、しっかり証言してきて」

「クゥン…」

「なに?口答えする気?」

「クゥンクゥン!」

「なら行きなさい。ちゃんと生きて帰ってくるのよ?あたしの元に」

「ワン!!」


 泣きそうな顔になったり、青ざめたり、最後には目を輝かせたりするアルファを見て。

非常に楽しくなってしまった…。

まずい。目覚めてしまいそうな気がする。


「既に目覚めていたのに自覚したら…」

「なにか言った?マウスト」

「何も言っておりません!」


青ざめたマウストがピシッと背筋を伸ばした。

「ワンワン!」と吠えるアルファにチョップを落とす。


「言葉を話せ、言葉を」

「ついでとなんですが。あのドラゴンも飼ってくれませんか?キキ様。どうやらキキ様になついてしまったみたいなので」


アルファの視線の先は、彼が乗ってきていてあたしが乗っ取った茶色のドラゴン。

大人しく庭の隅で縮こまってこちらを見ていた。

他のドラゴンはいなくなったのに、あのドラゴンは残っている。それがあたしになついたという意味らしい。

 あたしは国王達に顔を向けてみた。微笑みを浮かべて頷いている。

こうもあっさり番犬二頭を飼うことを許してくれるなんて、きっと裏があるのではないかと身構えてしまう。


「名前は?」

「チェキです」

「チェキ。今日からここにいてもいいんだって。この城を守ってくれる?」


チェキの目を見つめて問えば、チェキは返事をするかのように高らかに吠えた。


「すげー。キキ様って一味も二味も違いますね」

「それ、誉めてる?」


ポカーンと口を開けているアルファが妙なことを言うので首を傾げる。

物音がして後ろを振り返ると、ジルゼルが膝をついていた。


「ジルゼル王子?」


駆け寄って起こそうとすれば、手に血がつく。怪我をしている。


「あ、それここに来る前にオレがやりました」

「早く言いなさい!!」


反省の色なしで白状するアルファを叱りつけてから手当てが出来る者を呼ぶ。


「ご心配なく、掠り傷です」


ジルゼルは弱々しい笑みであたしに応えた。なにを強がってんだ。

胸を切りつけられてる。浅いようだが出血しているんだ、手当てするべき。

あたしは無視して治療を頼む。


「マウストさん。アルファの縄を解いて」


マウストは少し躊躇してみせたが、剣を振り下ろして縄を切った。


「アルファ。この庭園の掃除して」

「えぇ!?」

「貴方のせいであたしの大好きな庭園が壊れたの!直しなさい!」

「ハイ、キキ様!」


 ナビルが墜落したせいで庭園は少し荒れてしまったのだ。花瓶に入れられそうな花は飾っておこう。

少し落胆しつつ、一輪の花を拾う。

膝をついた時にジルゼルが踏んでいた花だ。それが黒く染まっている。

あたしは運ばれるジルゼルを横目で見つめた。




予約更新をし忘れてしまいました(汗)



ポイントにお気に入り登録ありがとうございます!!

希姫は自覚なしのドS!アルファは希姫にやられて目覚めてしまったドMです!


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