01・人生どうしよう
初めまして。
王道を目指して書き始めたのですが、もう踏み外して道を外しています。王道ってなんでしょうね。
あらかじめ言うと勢いだけで書き始めたため、更新ができなくなるとわかったら消してしまう可能性があります。
なるべくコメディを強くと考えておりますが、シリアスも入りますよ。ご注意ください。
だけど皆さん、楽しんでいただけると嬉しいです!
笑ってください!
人生ってさ。迷うよね。
迷ったら終わりな気がするけど、残念なことに無駄に健康で病にかかることもなく事故どころか骨折すら負ったことがないあたしは死ぬこともなく、悩みつつ生きてきた。
もしかしたら何か、変わるかもしれない。
そんな期待が捨てきれず、たらたらと無気力に生きてきた。
どうせなら美人だ美人だと言われることが多いなら金持ちに嫁いでしまった方が楽。と思うのだけど性格上金持ちに見初められることはなく、そもそも玉の輿できるほどの美人でもなんでもないわけなのでその期待は抹消した。
特技もなくやりたこともない。
人生どうしよう。な状態だった。
「人生に迷いました……寧ろ異世界に迷いました」
ぽつりと呟くと無駄に広い廊下に妙なほど響く。
気付いたら知らない場所にいましたな、展開になってしまっている状態だ。…多分。
誰にも会っていないので確証はない。
でもただならぬ雰囲気を放つ廊下からして全く違う世界だと推測する。もしかしたらあたしはポックリ死んでしまって、この廊下は閻魔様に繋がるのかもしれない。
そっか、あたし死んだのか。
それはそれでいいです。ええまぁ。
特に焦ることもなくその可能性を希望して、とりあえず歩いていたらバルコニーを見付けた。
バルコニーを覗いたら、地獄図────ではなかった。
息を飲むほどの美しい庭園が目にはいる。
迷路のように道が出来ていて、真ん中には噴水。噴水が太陽の光を反射させて、周りで咲き誇る花を目映く照らす。
二階のバルコニーからでもその花の香りがする。
なんとなく、後ろを振り返り建物を見上げてみた。
「……」
見なかったことにする。
アタシハナニモミテナイ。
うん。閻魔様の城ではなさそうね。城だってことは間違いないけれどね。うん。城だわ城。
「…人生どうしよう」
口癖になった台詞を呟いて、遠目で青い空を見た。
人生って、色々あるよね…うん。
少しだけぼんやりしたあと、降りることを決意して手摺を乗り越える。
小学生の頃に住んでいたマンションから飛び降りた出来事を思い出した。飛び降りたと言っても自殺とかではない。
マンションには内科の病院もついていて、マンションの階段にその病院の看板がついていた。一階と二階の間にそれがあったので、度胸試しにその看板に乗って友達と飛び降りたのだ。
…痛かったな、あれ。
痛みを思い出しつつ、あの時より高さに痛いだろうなぁと覚悟しつつ、手を離して降りた。
じーん、と痛みが痺れとともに足の裏から膝まで走ってくる。
身体能力はある方だと思っていたので、無様に尻から落ちなくてよかったと安堵する。プラプラと痺れを振り払うように足を振ってから、庭園へと足を進めた。
「あら、貴女は?」
声が聴こえてきて正直驚いたが、反射的に振り返ってしまう。
その先にいたのは、ドレスを着た女性。目尻にシワが見えたが、まだ若々しく見える三十代くらいの見た目麗しい美女。
ドレスは時代錯誤で地につくぐらい長いふんわりしたスカート。金茶色の髪は纏めて結ってあった。
「…迷子です」
「まぁ、そうなの?」
時代錯誤をするのは多分あたしだけなのだろう。
城に庭園にドレス。しっくりする。
この世界は中世風なのかな。
とりあえずコイツ頭可笑しいのか?と思われる覚悟で事情を話してみた。
どうやら異世界みたいです、と。
これで大規模なドッキリだったら一生の恥よね。とか思いつつもネタバラシが来ることはなかった。
「それは大変ですわね」
おっとりした女の人は、信じてくれたらしい。知らない人の言うことは信じない方がいいよぉ…とは言わない。でもこの人、騙されやすそう…。
訊いたところ、異世界からの訪問者は昔からあることらしい。
いつの間にか帰ってしまうケースもあるが、大抵はこの世界で生きたとか。
なるほど。ではあたしのことを頭が可笑しい奴だとは誰も思わないわけね。よかったよかった。
何故か女の人の手伝いで手折った花を抱えることになったけど、まぁ仕方ない。情報を頂いたお礼ということで。
「この庭園は素敵ですね」
「ありがとう。昔からある庭園なのですわ。確か、百年ほど前から」
「そんなに昔から…」
女の人が次から次へと花をあたしの腕に乗せていく中、庭園の噴水に目をやる。
百年も前からあるって凄いな。
大理石で出来ていそうだが、手入れをしているのだろう。真新しい。
「お気に召してくださったの?」
「あ、はい。城も馴染みないものですが、これほど美しいものを見るのはあまりないことで……自然があまりない場所で過ごしたものですから。心が清らかになりそうです」
目上の人にも敬語を使わなかったが、丁寧な言葉を選んだ。
幻想的で美しい。不思議な世界に迷い込んだみたいに、異様に目に映るが元々自然が好きなあたしは頬を緩ませて見つめた。
中世風ならば、もっと自然豊かなのかな。そう思ったらもっと見てみたいと思えた。
「貴方のお名前を聞いてもいいかしら?」
「あ、あたしは…希姫って言います」
「キキ、行く宛もないでしょう。この城に留まってくれないかしら?」
「つまり…仕事をいただけると解釈してもいいんですか?」
気品があるし城の庭園の花を摘むぐらいだから、結構身分の高い人だとは薄々気付いたが仕事を与えられるほどの立場の人間みたいだ。
口元を手で覆って女の人は、ふふふっと笑いを漏らした。
「違いますわ。客人として、です」
「…それは申し訳ないです。我が儘かもしれませんが、身分のないわたしが城で客人として留まるのは気が引けます。せめて使用人として働かせていただきたいのですが…」
「………そうねぇ。でしたら王様に直接言ってちょうだい」
目を丸めていた女の人は、とてつもないことを言い放つ。
え?いいのそれ?王様に会っちゃっていいの?
呆然としている間に女の人が歩き出してしまったので、花を抱えたまま彼女を追い掛けるしかなかった。
迷うことなく彼女は玉座に着く。それまでに何人かすれ違ったが、呼び止められることもなく無事到着。
二つの玉座があって、片方に王様らしい風格の持ち主が座っていた。
着いてきちゃったけど、あたし礼儀とか知らないからどうすりゃいいのかわかりゃしない。
女の人は教えてくれず、スタスタと階段を上がり王様となにやら言葉を交わす。
どうすればいいのかわからず、ただ花を抱えたまま立ち尽くす。
すると話が終わったのか女の人が方向転換した。
そのまま王様の隣にある玉座へと腰を下ろす。
うっひゃー、あの人王妃でした!!
大ショックを受けつつも、特に彼女を怒らせた言動はしていないはずだと自分を落ち着かせた。
どうしよう。閻魔様の方がいい。と激しく思った。
あたしどうすればいいんだ。
「私はこのバンハート国の国王、シリウス・ディオ・ディアモール」
「わたくしは国王陛下の妻、ルイーナですわ」
威厳のある声で白髪混じりの国王が名乗ると、微笑んで王妃も名乗った。
「わたしは異世界からこのお城に迷いこみました、名を希姫と申します。礼儀がわからぬ故に不快になられているかもしれません、申し訳ありません」
花を抱えたまま深々と頭を下げる。国王に発言を許されてから口を開くべきだったかもしれないが、それ異世界の住人だからと多目に見てほしい。
「顔を上げよ、キキとやら」
「…はい」
恐る恐ると顔を上げれば、国王は微笑んでいた。
「行く宛もなく不安でしょうがないだろう。この城に留まるといい。部屋と侍女を用意しよう」
「そのお心遣い大変感謝いたしますが…一文無しであるわたしが客人として留まるのは勿体ないです。我が儘だとは承知していますが、せめて使用人として働かせていただけないでしょうか?」
王妃に言ったように、せめて住み込みの仕事につかせてほしいと我が儘を言う。
国王と王妃は顔を見合わせた。
でしょ?と言わんばかりの微笑みを向ける王妃。
さっきも微妙な反応をしていたから、まずいことを言ってしまったのかと不安になる。
「キキ」
「はい」
「嘘をついてみてくださらない?」
二人が目だけで会話したかと思えば、意図がわからない無茶ぶりをされた。
なにそれ、笑いをとれってこと?
玉座に続く絨毯の横をズラリ並ぶ騎士らしき人達に目を向けるが誰も説明してくれそうにもない。
「えっと……生まれてこの方、嘘をついたことがありません」
嘘をついたことがない、っていう嘘。
無理、あたしお笑い芸人ではありませんから。面白いことを言えない。
すると、抱えていた花に変化が起きた。花びらが全て真っ黒に染められる。
驚いていれば、王妃の笑い声が聴こえてきた。
「その花は、嘘偽りに反応すると黒くなるのです。貴女の言葉には、嘘がないことを確かめることができました」
「……嘘をついたことがあります」
正直に呟くと抱えた花は、色を取り戻す。
魔法みたいな花!と驚く前に、その花をわざとあたしに持たせた王妃が曲者過ぎてびびった。
おっとりしてるくせに抜け目ないっ…!
騙される側ではなく、騙す側かっ!!
どうやら、信用できるのかどうかを試されたらしい。異世界の住人も、どんな悪い奴がいるかわりゃしないのだから当然の警戒だろう。
すごいな、嘘発見機だよ。
「心の清らかな希姫よ」
「は、はい」
なんだかくすぐったいことを言われたが、なんとか王様に返事をする。全然清らかではないと思うんだけどな!
「私達の養子になってくれぬか?」
「……………」
王様の問い掛けは、その場に木霊してあたしは首を傾げた。
養子。…養子か。養子ねぇ…。
「あたしを……養子、ですか?」
「そうだ」
「見ての通りわたくしはもう歳ですが…子どもに恵まれなかったのです。わたくしは貴女をとっても気に入りましたの、どうか娘になってくださらない?」
王妃がのほほんと微笑みを送ってくる。
嗚呼、まじで養子になってと頼んでるよ。幻聴じゃないぞこれ。
「で、ですが……王族は養子することが出来ないのでは?」
「うむ…そうなのだ」
何処かで仕入れた知識はこの世界も同じのようで、だから未だにお二人の間に子どもがいないのだろう。
出来ないなら無理でしょう。
ちょっと安堵した矢先、渋い顔をしていた国王が笑顔で問題発言した。
「王族より庶民として暮らしたいと望んだため、今まで隠していたという筋書きでどうだろうか」
筋書きって、なに?
養子は計画してたの!?
嘘じゃんそれ!
あたしに嘘発見の花を持たせておいてなに国民を騙そうとしてるの!?
「嬉しいわ、こんなに素敵な娘ができて」
「えっ」
「早速、披露するために祝典を開こうか」
「えっ」
のほほんと微笑みあう国王と王妃。
なんか決定事項に聴こえるんだけど、気のせいだろうか。
いやもう決定事項にされてる!
「いやいやいやいや落ち着いてください王様ぁああ!!」
今度はあたしの声が無駄に木霊していった。