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Last Bullet  作者: wephara
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第4話 レジスタンス

 メディカルチェックの結果は3人とも問題なく正常だった。

 メディカルチェックから戻ってきた悠斗を見て文香は残念そうだった。注射にトラウマになった悠斗が青ざめて戻ってくるのを期待していたらしい。

 すでに都市を照らす擬似太陽は赤く染まり出していて、もうすぐ夜であることを示していた。

 研究所を出た悠斗たちは解散することになった。

 文香は隊長が集まる定例会に向かい、拓也は家へと帰っていった。隊員には本部に個室が与えられているが、必ず使わなければならないというわけではない。

 残された悠斗と小雪は空いた腹を満たすべく都市の中心部に向かっていた。

 武器は携帯したままだ。警備関係者の都市内部で武装は認められている。

 車両が多く行き来する工業地帯と違い、大衆が歩道を占領していた。

 都市を支える中枢である中心部には多くの人が働いている。それだけに中心部の労働者をターゲットとした飲食店や娯楽施設が多く点在している。

 悠斗と小雪は値段が安めの店に入った。

 訓練生の時にお金の配給はあったのだが、大した金額ではなかった。入隊したばっかりで給料がいきなり入るわけでもなく財布の中身は寂しい限りだ。

 本部にただで利用できる食堂もあるが今の時間は機能していないだろう。

 時間が時間だけに店の中は多くの客で賑わっていた。

 待たされることなく窓側の席に座れた悠斗と小雪はウェイトレスに注文を頼んで、ようやく一息をついた。

 入隊試験、文香の襲撃、メディカルチェックで一日中動きっぱなしだっただけに疲労感を感じずにはいられない。それでも悠斗の顔に疲労の色も出ないのは相変わらずだ。

 小雪は疲れを見せずに嬉しそうな表情をしていた。

 「お疲れ様」

 「お疲れ」

 「無事に3人で入隊できてよかったね」

 「そうだな」

 悠斗と小雪は互いの入隊試験のことを思い返した。

 悠斗の入隊試験は実戦と全く変わらない外界でのフォーブとの戦闘だったが、小雪は衛星映像からのデータを解析していたらしい。拓也は悠斗と同じく実戦だったという。

 小雪の異能者として能力はスーパーコンピューター並みの情報処理を行えることだ。

 祖力体とナノマシンを体内に入れた人間は身体能力が格段に上がるだけでなく、副産物として人によって最も発達している感覚や能力の性能も上がる。

 もともと計算や理解が早い小雪はコンピュータ顔負けの情報処理能力が身に付き、相手の数や行動パターンを瞬時に計算し正確な情報を打ち出すことができるようになった。

 「私みんなの足を引張らないか心配だよ」

 小雪が少し困ったような表情で苦笑いした。

 強化手術を受けているだけに小雪の身体能力は一般の人より遥かに高いのだが、異能者の中では低い方に値する。

 部隊に配属されたからには戦闘任務はまぬがれない。

 「小雪の銃の腕なら大丈夫じゃないか。それにその能力でないとできないこともある」

 「そう言ってくれると嬉しいよ」

 小雪がくすっと笑って外を眺める。

 「綺麗だね」

 外は街灯や車の前照灯で明るくなっている。

 悠斗にそれが綺麗なのかどうかはわからないがとりあえず外を眺めながらふと3年前のことを思い出した。

 「もうあれから3年か」

 「そうだね」

 悠斗は何もかも空っぽの状態で目覚めた3年前を今でも覚えている。

 記憶もなく言葉もわからずに半年が過ぎたころにようやく記憶喪失と感情を失っているということを理解できた。

 普通に話せるまでに回復し、社会の常識を身につけてここまで来れたのも目の前にいる小雪のおかげだ。彼女は生きる道を支えてくれた恩人なのだが、そんなことは気にしないでといつも言われる。

その度に小雪は固い決意を秘めた表情で悠斗に言ってくるのだ。

 理由を訊いても答えてくれないから小雪の意思を受け入れることしかできない。

 「どうしたの?私の顔に何か付いてる?」

 小雪の顔を見つめていたらきょとんとした眼をして首を傾げられた。

 「いや、なんでもない」

 なんとなく見ていられなくなって外に視線を戻した。

 「あ、照れた」

 「なにが?」

 「今照れたでしょ」

 「そうなのか?」

 「わからないけど、たぶん……そうかも?」

 小雪が自信なさそうに苦笑いした。

 小雪は悠斗の感情を取り戻そうとしてくれようとしている。事あるごとに悠斗に訊いてくるのだが、彼女自身が自信を持てないらしく結局のところ感情なのかどうかはわからず仕舞いなのがいつもの流れだ。

 話をしている内に注文した料理が運ばれてきた。悠斗は牛丼で小雪はうどんだ。安い割には量が多いと評判らしい。味はそこそこらしいが。

 「いただきます」

 手を合わせて食される命に挨拶する。これも小雪から教わったことだ。

 小雪に何か言おうとしてあわてて口の中のものと一緒に言葉を飲み込んだ。口に食べ物を入れて時に喋らないでと小雪に怒られたことがあった。

 話しかけようとしたら先に小雪が口を開いた。

 「それにしても3年前からよくここまで復興したよね」

 「ああ、確かにな」

 悠斗が目覚める数日前にこの都市はフォーブの大群の襲撃を受けたらしい。居住区の半分が壊滅し、被害は中心部まで届いたという。都市を覆うドームに付いている祖力体吸収機も破損してしばらくは非常エネルギーで都市全体の最低限の電力を賄っていたらしい。

 フォーブが大群で都市を襲うことはまずない。

 都市がある一帯は祖力体の密度が低く、祖力体を吸収して生きるフォーブがわざわざ寄って来るような場所ではない。

 その為に原因が不明で今となっては迷宮入りとなっている事件だ。

 都市にフォーブが近づいてくるようになったのはそれからだ。

 悠斗と拓也が入隊試験で対象となったフォーブが都市の近くまで来たのもそれが元凶なのだろう。

 被害を受けた都市は当初完全復興まで5年かかると囁かれていたが、自立型ロボットの開発や建築技術の発展で安全性と作業効率が上がりたった2年半で完全復興を成し遂げた。

 今となっては他の都市から移住してくる人を受け入れるために居住区拡大計画が進行中で徐々に希望都市「みやこ」の面積が広くなりつつある。

 拡大中の居住区にフォーブが侵入しないように警備するのも異能者たちに与えられる任務の一つだ。

 「銃の調子は大丈夫か?」

 「うん、毎日手入れしてるし問題ないかな」

 食べ終わって訊こうとしていたことをようやく言った。

 銃に関しては悠斗の方が詳しい。右足に括りつけてある拳銃は目覚める前から使っていたものらしい。初めて握った時から妙にしっくりくると思っていた。

 週に一度は小雪の銃と一緒に分解掃除をやっている。毎日というわけではないが射撃練習にはよく行っている。手入れをしっかりしていないと銃の性能が落ちたり破損するかもしれないのだ。

 毎日手入れしているのは汚れを拭いたり油をさすぐらいの簡単なものだ。

 落ち着いたところで伝票を手に取る。値段は4ケタにも達していない。格安だ。

 「会計しとくよ」

 「え、私がやるよ」

 小雪があわてて悠斗の手から伝票を奪い取った。

 いつも控えめな小雪だが悠斗と二人の時にはよく大胆な行動に出たりする。小雪の不思議なところだと悠斗は思う。

 「いつも払ってもらってるし今日は俺が払っとくよ」

 「いつも払ってるから私が払うの」

 こういう時の小雪は頑固だ。意地でも一歩も下がろうとしない。

 何かをされたら何かし返し上げると小雪が教わった気がするのだが、二人の時は小雪からいろいろとされっぱなしのままだ。矛盾というやつだ。

 やられっぱなしは何となく性に合わないらしい。戦闘でも押され続ければいずれやられてしまう。

 小雪は顔を真っ直ぐ見詰めると隙ができるのは最近気付いたことだ。

 じっと小雪の顔を見詰める。

 小雪の頬が少し赤らみ次第に動揺した表情に変わっていった。

 「えっと、な、なに?」

 動揺して伝票を握る手から力が抜けていた。さっと伝票を奪い返す。

 「あっ、ちょっと!」

 「じゃやっとくよ」

 奪い返せばこっちのものだ。

 小雪が必死になって取り戻そうとしてくるが、周りの客からの視線に気付いて諦めたように顔を赤くして俯いた。こういう時の小雪は普通に目立つ。

 気の毒だなと思いながら会計を済ませようとすると後ろから客が入ってくる気配を背中に感じた。

 安いだけに入りやすいんだろうと考えていたら賑やかだった雰囲気が一瞬にして沈黙した。誰もが驚愕の表情を浮かべて悠斗の後ろに視線が釘付けにされている。

 小雪も険しい顔をしながら警戒態勢を取っている。

 悠斗は後ろを振り返らずに耳に意識を集中させて慎重に状況を分析していく。

 僅かな金属音。おそらく銃だろう。若干興奮した呼吸からして二人らしい。

 後頭部に冷たい感触が伝わった。やはり銃を持っているらしい。

 「動くな。誰も大声出すなよ」

 低い声が銃に物を言わせて威嚇してくる。

 「おとなしく金を出せば危害を加えるつもりはない。さあ、さっさとこの店の売上分を差し出せ」

 男が銃を見せびらかしながらレジに立っている店員に命じる。

 どうやら金目的に警備体制が整った中心部の店をわざわざ狙ったらしい。

 ただの馬鹿なのかよほど自信があるのかのどっちかだろう。

 被害報告がされていないだけで実際はこんなことがあちこちで起こっているのかもしれないなどと悠斗は冷静に考えていた。

 そんなことを考えている内に店長らしい人が膨れた鞄を持って現れた。ぎこちない動きで男に鞄を渡そうとする。

 悠斗は小雪にアイコンタクトを送って、軽く頷いたのを確認して行動に出ることにした。

 「渡す必要はないですよ」

 鞄を渡そうとする店長を制す。店長は目を丸くして悠斗を見る。

 「おい口を開くな小僧。てめえの頭に何が当たってるかわかってるのか?」

 男とその連れが薄く笑った。

 「あなたたちこそ俺が誰だかわかって盗人を働いてるんですか?」

 威嚇するように強気の口調で注意を向けさせる。他の人に被害が出てしまっては元も子もない。

 「あ?随分でけえ口叩くじゃねえか。ガキ一匹が俺たちに刃向かうもんじゃねえぞ」

 銃口を頭に強く押し付けられる。それでも悠斗の顔に恐怖の色は全く浮かばない。わからないといった方が正しいかもしれない。

 「兄貴、こいつ武器持ってますぜ」

 「ほう、そいつがお前の気を大きくしているぶつか?大層なもんぶら提げてんじゃねえか」

 男が不用意に刀に手を伸ばしてくる。

 刀に触れる寸前に悠斗は男の銃を持つ手を掴んで振り返り様に拳を鳩尾に打ち込んだ。

 悠斗の動きに付いて来れなかった男は為す術もなく吹き飛んだ。顎に髭を生やした30前後の男だった。

 「このガキ!」

 もう一人の男が銃を悠斗に向ける。

 向けた瞬間その拳銃は宙を舞った。悠斗が仕掛けると同時に動いた小雪が手ごと蹴りあげたのだ。ちなみに星の撃ち手《ミーティア》の女性の戦闘服はスカートなのだが小雪はしっかりとガードしている。

 異能者の中で小雪の身体能力は低い方に値するがそれでも異能者であることに変わりはない。一般に 比べれば圧倒的に高い身体能力を持っている。

 飛んできた銃を悠斗がキャッチする。髭の男が使っている銃と同じものだった。

 連れの男は手を抑えて悶えていた。

 「くそっ!てめえらぁ!」

 髭の男が咳き込みながらも悠斗たちに罵声を浴びせる。短刀を抜いて真っ直ぐ悠斗に襲いかかってきた。ただ突っ込んでくる単調な攻撃だ。

 悠斗はすんでのところでかわして男の首筋に銃身を振り下ろした。

 男は突っ込んだ勢いを残したまま気絶して床に突っ伏した。

 連れの男の顔から怒りの表情を消えて、後ずさりしながら怯えていた。

 「く、くそっ。て、てめえら何者だ。店にこんな用心棒がいるなんて聞いてねえぞ……」

 「それはそうだろう。客だからな」

 「ただの客が……!」

 男が悠斗の胸に付けたあるバッジを見て表情を変えた。すごい剣幕で悠斗を睨んでくる。

 「そ、そうか。てめえら力のために身を差し出した連中だな。この俗物どもが」

 「何言ってるかわからないんだが、俺たちを侮辱してるなら容赦しない」

 悠斗が両手の銃を構える。生きる道を与えてくれたこの居場所を貶されるのはいいとは考えられない。この男は小雪や拓也、星の撃ち手《ミーティア》の全員の存在を非難したのだ。

 何かに後押しされる様に自然と引き金に添えた指に力が入る。

 しかし小雪が射線上に入ってそれを制した。首を横に振って悠斗に銃を下させた。

 「これ以上の争いは無用です。おとなしく退いてください」

 「ふん。言われなくてもそうさせてもらう」

 連れの男が髭の男を担いで出口に向かっていく。

 「覚えてろよ」

 最後に吐き捨てるように言葉を残して出て行った。

 悠斗と小雪が、ふう、と一息つくと周りから歓声が上がった。拍手や称賛の声が混じってさっきの賑やかさの何倍も騒がしくなってしまった。

 「あはは、なんか恥ずかしいね」

 小雪が一人照れた顔で苦笑する。もちろん悠斗はどうなのかわからない。

 没収したというより奪い取った2丁の銃をウエストポーチに入れた。

 まだ済んでいない会計をしようとすると緊張から解き放たれたような店長がお礼に支払わなくていいと言ってくれた。

 財布の中身が寂しい悠斗たちには嬉しいことだが星の撃ち手《ミーティア》の一員として当たり前のことをしたまでだ。

 折角の好意だが支払おうとすると店長が負けじと言い寄って来る。ここの店長は相当な頑固者らしい。優しげな顔からは全く予想のつかない人柄だった。

 結局折れた悠斗と小雪はお礼を言って店を後にした。

 念のために店を出たところで周りを警戒しておく。群衆に紛れこんで男たちの仲間がやり返しに来るかもしれないのだ。

 一通り見た感じでは気配は感じられなかった。

 「さっきは悪かった」

 いつもは冷静な悠斗にしては珍しい失態でも小雪はどこか嬉しそうな顔をしていた。

 「悠斗にしては珍しかったね。でも気にしないで」

 いつもは冷静な悠斗にしては珍しい行動だった。それでも小雪はどこか嬉しそうな顔をしていた。

 「悠斗の感情が少しずつ戻ってる証拠でしょ?」

 「そうなのか?」

 「……たぶん?」

 疑問形を掛け合う変な会話になった。

 結局は自信がなさそうに首を傾げてしまう。

 「それよりさっきの奴等俺たちを随分嫌ってるみたいだったな」

 「……そうだね。もしかしたら反政府勢力レジスタンスかも」

 小雪が少し寂しげな表情を微かに見せてすぐに真面目な顔で考える。

 希望都市「みやこ」の中枢には多くの都市を統括している政府が存在している。一大組織であるが故に反対勢力が生まれるのは自然なことだ。

 星の撃ち手《ミーティア》は政府御用達の組織だ。反政府勢力レジスタンスにとっては同じ敵に見られて当然だ。

 「でもお店は無事だったしとりあえずはよかったかな」

 「そうだな」

 互いに一つ守ったものを実感する。

 でもそれは当然なことをしたまでだ。悠斗は心で密かに呟く。それが自分の歩いている道なのだと。

 明日はいよいよ初任務が下される日だ。

 早めに休むために悠斗と小雪は少し早歩きしながら本部へと戻ることにした。

読んでいただきありがとうございます。

今回は執筆に時間かかって一週間以上間が開いてしまいました。

その割にはクオリティは相変わらずです…。

今回はレジスタンスの登場でした。

今後深々と関わっていきそうな感じです。

次話は初任務ということで頑張っていこうと思います(なにを?)。

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