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Last Bullet  作者: wephara
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第3話 無知は幸か不幸か

 悠斗たち4人は工場が立ち並ぶ工業地帯に来ていた。

 希望都市「京」が誇る産業、工業、農業、科学などを産み出す工業地帯では絶え間なく車両が行き来している。

 工場のシンボルである煙突からはどこからも煙を吐き出していない。都市全体は壁で囲まれているために密閉空間になっている。工場から煙が排出されれば、あっという間に都市中が有害物質で覆われてしまう。そのために工場の煙突には多段状に膜が張られていて有害物質を取り除いた無煙のものを排出している。煙が見えていないのではなく無煙状態で排出しているから見えないのだ。

 その工業地帯は工場だけではなく農業や養殖も盛んに行われていて、希望都市「京」のみならず他の都市の食料も賄っている。ほとんどが人工栽培で育った野菜や家畜、養殖された魚介類で自然の食材は存在しないといってもいい。自然食材を手に入れるための土地と広さがないのだから仕方ないことである。

 そして工業地帯の中には星の撃ち手《ミーティア》に所属している異能者をサポートする研究所もある。

 研究所は部隊ごとに1箇所ずつ割り振られていて、新しく結成された第16部隊の研究所を含めて星の撃ち手《ミーティア》が所持する研究所は20箇所ある。15箇所はすでに他の部隊のために使われていて、第16部隊がこれから使用する研究所に隊員が入るのは数年ぶりになるらしい。

 悠斗たちが第16部隊専用の研究所に入っていく。古びた様子はなく、比較的新しい3階建ての建物だった。

 研究所の中は一見病院に似た雰囲気をかもし出していた。中も建設当時のままのような清潔感を保っている。

 1階はベンチや観葉植物が置かれたホールになっていて、コーヒーメーカーも置いてあり、くつろげる空間となっていた。

 「ベンチに座って待ってて。呼んでくるから」

 文香が悠斗たちにそう言い残して奥の方へと消えていった。

 悠斗たちは言われた通りにベンチに座って待つことにする。

 「しっかしあの人が隊長とはな」

 拓也は文香がいなくなったことを確認して意外そうな口調で話を切り出した。

 小雪も拓也の言っていることに同調するように頷く。

 「私もなんとなくそう思ってた。隊長ってもっと厳しそうな人かと思ってたし」

 「だよなぁ。なんか隊長らしくないっていうか」

 「仁張さんは隊長として適任だったんじゃないか」

 拓也と小雪と正反対の意見を言うのは悠斗だった。

 「お前はいつも見た目で判断しないよな。お前のことだからなんか根拠あるんだろ?」

 「まあな。隊長が前に所属してたのは第4部隊。そこで副隊長を務めてた。部隊同士の模擬訓練を何回か見せてもらったけど、隊員を指揮統率する能力は他の人より群を抜いていたと思う。新隊長って言ってたけど、隊長としての実力はトップクラスになるんじゃないかな」

 「なるほどな。悠斗が言うならそうなんだろうな」

 ふーん、と鼻息を吐きながらベンチにどかっと背を預ける。

 小雪もそれで納得したようだった。

 「でもよ、新部隊に俺たちが入るってのもおかしな話だよな。普通経験者で構成するもんじゃないのか」

 拓也が難しそうな顔をする。

 新部隊とされる第16部隊だが、初めて隊長を務める文香に同じく初めて副隊長を務める峡哉、そして悠斗たち3人の新人で構成されている。いくら指揮統率能力が高い文香や大型ルーキーと呼ばれる悠斗がいるとはいえ、部隊としての経験がまるで無いものをわざわざつくり出すのは不自然である。

 異能者のみで部隊構成をしている星の撃ち手《ミーティア》は抱えている隊員が少ない。

 異能者は訓練次第にもよるのだが一部の人間にしかなれない貴重な存在だ。

 故に人数不足ということも考えられるのだが、その場合経験者で新しく部隊をつくって、悠斗たちがその穴を埋める措置を取るべきだろう。

 「まあ上層部の考えは俺たちが気にしても仕方ないか」

 拓也は憮然ぶぜんとして長い溜息を吹いた。どこか納得していないといった表情をしていた。

 「拓也は私たちと一緒になのが嫌なの?」

 小雪が不安そうな様子で拓也に訊く。

 「ばーか、そうじゃねえよ。お前らと一緒の部隊に配属されたのは嬉しいさ。悠斗はいてもいなくてもよかったけどな」

 「そうか」

 悠斗が拓也の冗談混じりの言葉に表情も変えずに答えた。

 それを見て拓也が呆れた顔になる。

 「本当にお前は万年無表情だな、おい。ちょっとぐらいショックぐらい受けてもいいだろうに。どうにかなんねえのか?」

 「ならない。今の俺にはどうしようもない」

 やはり表情を変えずに、しかしどこか遠くを見るように答える。

 悠斗がそんなふうになった理由を拓也も小雪も知っている。だから悠斗の素気ない態度や返事にも不快感は抱かない。

 普段は悠斗をライバル視している拓也もそこだけは気遣っている。

 3年前、自分の名前も言葉もわからずに眠りから覚めた。

 そのとき傍にいたのが小雪だった。見ず知らずの彼女に言葉を教えてもらい、過去を教えてもらい、居場所を教えてもらった。過去と言っても長い眠りにつくちょっと前のことまでらしい。

 星の撃ち手《ミーティア》で道重に出会い、役目を与えてくれた。

 そして今がある。

 まだわからないことも多くあるし、これから知ればいいと思っている。

 拓也が言っているのは悠斗が感情を表さないということなのだろう。

 その感情というのがわからないし、嬉しいとか悲しいとかというものを感じたと思ったこともない。

 悠斗のことをよく知らない人にはよく勘違いされ、拓也や小雪のフォローがなければ争いに発展しかねないことも時々あった。

 悠斗が考え込んでいると文香が戻ってきた。

 後ろに白衣を着た女性二人がついてくる。一人は年上でもう一人は悠斗たちとあまり変わらないように見える。

 「この二人が私たちのサポートをしてくれる雛菊さんとしずちゃんだよ」

 「初めまして。第16部隊専属の研究員の雛菊香奈愛ひなぎく かなめです。ここの所長をやってるの。これからよろしくね」

 「初めまして。同じく第16部隊専属研究員の嶺静香みね しずかと申します。以後お見知り置きを」

 香奈愛と静香が順に挨拶していく。

 母性的な印象を受ける香奈愛は緑色の髪を三つ編みにしたほのぼのとした女性だ。眼鏡をかけているからなのか、どこか知性的にも見える。

 一方静香は凛々しい印象が特長的で、言葉もはきはきとしていてしっかりしていそうな少女だ。紫色の髪をしっかりと整え、服装には皺がひとつもない。

 悠斗たちもベンチから立ち上がり順に挨拶していった。

 香奈愛がうんうんと頷きながら、

 「文香ちゃんから聞いたけど、見た目だけでも個性溢れる新人たちね。実際に会ってみてよくわかるわ」

 「でしょ?これから楽しみなんだ」

 文香が得意げな笑みを見せる。

 「道重さんや文香ちゃんからここのことは聞いてるのかな?」

 「第16部隊をサポートしてくれるところですよね」

 「だいたいはあってるわ、って、それだけ?」

 「はい、それぐらいしか」

 悠斗と同じく拓也と小雪も首を縦に振りながら同調する。

 それを見た香奈愛が目を細めて文香を睨んだ。

 「文香ちゃん、もうちょっと説明しといてもいいんじゃないの?」

 「えへへ、ごめんごめん」

 「そんなんじゃ、この先不安だわ」

 やれやれと呆れたように首を横に振った。

 「私の仕事が増えそうで」

 「そっち?」

 「冗談よ、冗談。さて、まったくここのことを聞いてないようだから一から説明してあげる。部屋に移動しましょ」

 悠斗たちは会議室に通され、そこで説明を聞くことになった。

 星の撃ち手《ミーティア》が所有する研究所はもともと独立していた企業だったらしい。研究費用を負担する代わりに研究内容の提供、異能者たちのサポートをすることで表向きは買収という形で成り立っている。

 普段は祖力体そりょくたい、またはエレンシアと呼ばれるエネルギー体の研究をしている。

 祖力体は外界に充満している謎の多いエネルギー体だ。人間が制御しようと試みて、この世に荒廃をもたらした原因でもある。異形の進化を遂げたフォーブの誕生やその対抗措置として生まれた異能者も祖力体が絡んでいる。

 電気や熱などのあらゆるエネルギーに変換することが可能であり、一時期は万能エネルギーと呼ばれることもあったが、あまりに強力なエネルギー体であるために人間が直接触れるとたちまち体に異変が起こってフォーブ化するか死に至る。

 異能者はその祖力体と制御するナノマシンを取り込んだ人間のことを指す。人間がナノマシンをコントロールできるようにして、祖力体を制御して身体能力を格段に上昇させることに成功したのはここ百年の大きな成果だ。

 それでも祖力体が身体に及ぼす影響はまだまだ計り知れない。

 そのために異能者は定期的にメディカルチェックをする必要がある。

 メディカルチェックをするのも研究所のひとつの役目だ。

 ナノマシンの状態確認、祖力体の身体への侵食度、健康状態など多くの項目をチェックして異能者の異常を早めに察知し、正常状態を保たせる。

 話疲れた香奈愛は静香が入れてくれたお茶を一口飲んで、一息ついた。

 「ざっとこんなところだけど、なにか質問ある?」

 「メディカルチェックってだいたいどのくらいの周期でやるんすか」

 「一か月に一度ちゃんとしたメディカルチェックをやるわ。あとは戦闘を伴う任務、それに外界での任務の後にも簡単にやるわ」

 「他にもあなた方が健康状態や精神状態に異常を感じた時にこちらに来ていただければメディカルチェックを随時受け付けます」

 静香が香奈愛の不足を補うように付け足す。

 「これは注意事項になるのですが、任務途中で気分が悪くなった場合は任務から外れてください」

 「なんで?」

 「ナノマシンの制御があるとはいえ安全とは言えません。ただでさえ未だに謎を多く残す祖力体を体内に入れているわけですから、少しの異変も重大なものとして取り扱う必要があるのです」

 真面目な顔で静香が答える。彼女の言葉には説得力があり、納得するには充分だった。

 「他にはある?」

 「はいは~い。注射することってあるんですか?」

 文香が大きく手を振ってアピールしながら、悠斗たちの顔をうかがう。

 「もちろん。メディカルチェックで血液の状態を確認するのは大切だもの。採血ぐらいするわよ」

 「注射……」

 悠斗がぼそっと呟く。自然と呟いたのか、悠斗にその自覚はなかった。

 文香はそれを聞き逃さなかった。耳をピクピクと反応させ、目に輝きを持たせて悠斗の顔を覗き込む。

 「あれ、どうしたのかな、悠ちゃん?」

 「いえ、なんでもないです」

 真面目に無表情で答える。しかし声が微かにかすれていたのは全員が気付いていた。全員の視線が悠斗へと集まる。

 「もしかして悠斗君は注射が苦手なのかな?」

 香奈愛もいたずらっぽい目で悠斗を見つめた。

 静香は目が半分ほどに細まり、呆れたような目線を悠斗に送っている。

 「大型ルーキーと言われるような人がこの程度では不安ですね」

 「そんなことはありません」

 大型ルーキーは関係ないだろうと思いつつも、意識していないのに体が勝手に注射という言葉に反応してしまう。顔がどんな表情をつくっているのかも悠斗にはわからない。訳もわからず体が硬直していた。巷で言う金縛りというやつだろうか。

 「この後新人君たちにはメディカルチェックを受けてもらうんだけど」

 そう言いながら香奈愛が席を立つ。

 同時に体が危険を察知して悠斗も席を立った。

 「お、悠斗君が最初に受けるの?さすが大型ルーキーは積極的ね」

 嬉しそうな顔をしながら香奈愛が悠斗に近づいていく。

 そうではない。悠斗の意思に関係なく体が勝手に動くのだ。

 香奈愛との距離を保ったまま悠斗も後退していくがすぐに後ろから肩を掴まれた。そこにはいつの間にか回り込んでいた静香がいた。

 「逃げようとしても無駄です。私が逃がしません」

 「俺の体が勝手に動いてるだけで、俺の意思ではないのですが」

 「言い訳は無用です」

 事実を言ってるだけなのに理不尽だなと悠斗は思う。

 「言い忘れてたけど静香ちゃんも異能者なの。とっても頼りになる部下さんだからいつも助かってるのよ」

 「恐縮です」

 そんな会話をしながら香奈愛と静香は悠斗の腕を掴んで連行していく。

 悠斗はなかなか動いてくれない体を二人に引張られながら歩いていく。

 なんで体が思うように動かないのか結局分からず仕舞いだった。

 後ろを振り返ると拓也たちが笑顔で手を振りながら悠斗を見送っていた。

 一人見捨てられた気分になった悠斗は体から感じる危険が祖力体の解明されていない効能の一つだと勝手に決め付けて体を落ち着かせようとしたが、採決が終わるまで体の硬直が解かれることはなかった。


読んでいただきありがとうございます。

異能者はどのようなものかというのを書きつつ、悠斗の弱点?も書いてみました。

悠斗の設定上なかなかユーモアを出せないので、面白味が欠けているかなと不安です。。。

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