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Last Bullet  作者: wephara
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第1話 星の撃ち手《ミーティア》

 地球が人間の手によって荒廃してからどれほどの年月が経ったのか、今となっては詳細を知る者はいない。

 荒廃が始まった時から生物は滅亡の危機に立たされ、わずかに残ったものだけがその環境に適応し生き続けている。

 かつて栄えた国があった土地にはほとんど人間の住める場所はない。それも外気を遮断したシェルターの内部だけだ。

 その一つであり最大の面積を誇るのが希望都市「みやこ」である。

 地球が荒廃する前の発展状態に最も近いとされ、農業や産業などが他の都市よりも栄えている。他の都市の不足を補う重要な役割も担っている。

 中心街は高いビルが多く立ち並び、都市を支える中核となっている。

 それを取り囲むように工場などの施設があり、それをまた取り囲むように人々が生活する居住区がある。

 都市全体は壁で囲まれ、天井も壁で覆われていてドーム状になっている。都市を明るく照らしているのは天井に付けられた擬似太陽と呼ばれる球状の蛍光体である。外界を照らす本物の太陽光に合わせて光度を調整している。明るければ昼、暗ければ夜というわけだ。

 時には外部から異生物、通称フォーブがゲートを突き破って侵入してくることがある。

 侵入したフォーブを駆除する役割を持つものの1つに『星の撃ち手《ミーティア》』と呼ばれる組織がある。

 異能者と呼ばれる屈強な戦闘員を抱え、フォーブの駆除だけでなく都市の治安維持にも貢献している。

 星の撃ち手《ミーティア》の本拠地は中心街にそびえ立つビル群のひとつである。

 そのビルの地下駐車場にバイクに乗った少年が入って行った。

バイクを駐車させてヘルメットを脱ぐと黒い髪をした少年の顔が表れた。

 エレベーターホールに向かっていく途中で眠たげな警備員と挨拶を交わす。

 エレベーターホールに入るとそこに背の高い威厳ある顔付きをした男が立っていた。

 「任務、といっても入隊試験だがご苦労だったな、雨宮悠斗あまみや ゆうと

 威圧を覚える声だが、悠斗は平然としていた。

 「滞りなく完了しました」

 たいていの人なら顔が強張るほどなのだが、悠斗は表情を崩さず答える。

 悠斗はまだ正式な星の撃ち手《ミーティア》の一員ではない。過度な訓練に耐え、実践と変わらない任務を遂行してようやく正式な星の撃ち手《ミーティア》の一員になる資格が与えられる。

 二人はエレベーターに乗り込み上階へと上がって行く。

 「この後お前には総帥室に行ってもらうが、同伴する予定の奴等がまだ任務から戻っていない」

 上がっていくエレベーターの中で男は今後の予定を話していく。

 「直に来るかと思うがそれまでは待機してくれ。俺は先に総帥室で待っているぞ」

 「了解しました」

 4階で悠斗は降り、男はそのまま上へと向かっていった。

 4階は待機場所となっていて、売店や休憩スペースなどが備えられている。1フロアをそのまま使っている幅広い空間となっている。

 そこにいるのは星の撃ち手《ミーティア》の隊員たちであり、任務待ちや会話しているなど、各々の時間を過ごしている。

 悠斗が中に入っていくと、男性と話していた女性が悠斗に気付いて近寄ってくる。

 オレンジの長い髪をポニーテールにした女性だ。身長は悠斗より少し低いぐらいだ。

 「やぁやぁ君が期待の新人の雨宮君かい?」

 初対面にもかかわらず馴れ馴れしく話しかけてきた。

 陽気な女性だった。

 「そうですが」

 「やっぱりねぇ。いやぁ今は君の話題で持ちきりだからさぁ、もし会えたらあいさつしとこうと思ってね~」

 「そうですか」

 悠斗は自分の話題性に気にすることなく無表情で答える。

 しかし女性は気にすることも無く話し続ける。

 「うわさ通りのポーカーフェイスね~。こりゃ大物だね」

 むしろネタにしていた。

 「これが性分なので」

 「決めた!君は私の部隊に入るのです!」

 唐突で無理矢理かつ無謀な勧誘だった。

 これから正式な一員になるのだから入れるわけがないのだが、希望ときらめきを秘めた目の前にどう言い返せばいいかと考え込んでしまう。

 するとさっきまで女性と話していた男性も来た。青黒い髪に鋭い眼を持った男性だ。

 「何言ってんだ文香。こいつはまだ正式のメンバーじゃねぇ。バッジをどこにも付けてねぇだろ」

 「…あらま、ホントだ」

 正式な星の撃ち手《ミーティア》の一員にはバッジを付けることが義務付けられている。

 文香と呼ばれた女性とその男性も星の前に矢が交差している模様のバッチをそれぞれ胸に付けている。

 あはは、と文香が苦笑しながら悠斗に謝る。

 「ごめんね~、気付かなくて」

 「いえ、別に」

 「しかも部隊編成は上がやるんだから、俺たちにはどうしようもねえ」

 「あう…」

 駄目出しをされて陽気だった文香が項垂れる。

 「でも同じ仲間になるんだろうから、よろしくね」

 「よろしくお願いします」

 「あ、そうだ、まだ私の名前いってなかったね。私は仁張文香にんばり ふみか。で、こっちが―――」

 「ふん」

 男性は踵を返してさっきまでいたところに戻ってしまった。

 「ああもう、峡ちゃん戻らないでよ。せっかく紹介しようとしてるのに」

 「うっせ」

 文香の呼びかけにもそっぽ向き、不機嫌そうにしていた。

 「ごめんね。私と同じ部隊の大宮峡哉おおみや きょうやっていうんだけど、人付き合いが苦手でいつもああなの」

 そう言いながら文香は寂しそうな顔をしていた。

 「でも本当はやさしいんだよ。私のことをいつも助けてくれるから。しかも強いしね」

 「そうなんですか」

 「うん。だからここは私に免じて悪く思わないでね」

 「俺も似たようなものなので」

 「あはは、ありがと」

 文香の顔に笑みが戻る。

 フロアには多くの隊員がいるが、峡哉は一人で静かにしている。

 人付き合いが悪いというより、周りが近づかないように見えた。

 『お呼び出しします。雨宮悠斗。雨宮悠斗。総帥室へお越しください。繰り返します―――』

 構内放送が悠斗の名前を呼んだ。

 「おっとお呼びだね。また今度お話でもしようよ」

 「はい。失礼します」

 悠斗は礼をして、文香と別れた。

 エレベーターを使って総帥室があるフロアまで上がっていく。

 扉が開くと目の前に総帥室があり、ドアの前に立っている秘書である女性が待っていた。

 「お待ちしておりました。中にお入りください」

 秘書がドアを開け、悠斗は中に入っていく。

 秘書も続いて中に入り、奥の椅子に座っている男性の横に付く。その反対側には悠斗を出迎えた男もいる。

 部屋の中はほとんど装飾が施されておらず、壁には歴代の総帥の写真が飾られているだけでスッキリとしていた。

 すでに悠斗と同じく入隊試験を受けていた見知った少年と少女の二人が整列していた。二人とも悠斗と同じ戦闘服を着ている。

 悠斗も二人の横に整列する。

 目の前で椅子に座って3人を見ているのはガーディアンズの総帥、瀬戸隆司せと りゅうじである。

 隆司は星の撃ち手《ミーティア》の総帥4代目である。

 瀬戸は代々星の撃ち手《ミーティア》を束ねている名であり、都市の政治にも影響を与えるほどの力を持っている。

 「揃ったな」

 静かに隆司は口を開いた。

 「任務ご苦労だった。任務後で疲れていると思うが、私も予定が詰まっているのでね、すぐ終わる。黒井」

 「はい」

 黒井と呼ばれた秘書がケースの中から星の前に矢が交差している模様が刻まれたバッジを取り出し、3人に渡していく。

 「3人とも与えた任務を遂行したと報告を受けている。とりあえずは試験合格といったところだな。おめでとう。そしてそれが正式な星の撃ち手《ミーティア》の一員の証だ。これからは常にそれを付けていてもらう。ただのバッジでなく様々な機能があるが、それは置いておこう」

 悠斗はバッジを胸に付けておいた。

 「入隊早々だが、3人には早速部隊に入ってもらう。これは蔵本から話がある」

 「ああ」

 蔵本と呼ばれた背の高い男が威圧ある声を発する。

 「顔馴染みもいるが、改めて紹介させてもらおう。部隊総隊長、蔵本道重くらもと みちしげだ。お前たち3人には第16部隊に入ってもらう。あとで部隊長と隊員を紹介する」

 「だそうだ。詳しい事は蔵本や部隊の連中に聞けばいい。これからは今までのような生温い環境から苛酷な環境へと身を投じていくことになる。3人にはその中でも活躍すると期待しているよ。というわけで堅苦しい話はこれで終わりだ。私はすぐにでも飛ばなければならないのでね。蔵本、あとは任したよ」

 「了解」

 瀬戸は席を立ち、黒井と共に部屋から出て行った。

 「ふぅ……」

 悠斗の隣の少年が盛大に息を吐いた。戦闘服が乱れて、ぼさぼさの茶髪をした少年だ。

 「ああ緊張した」

 「どこに緊張する要素があった、拓也?」

 悠斗は緊張から解放されて疲れた表情を見せる山谷拓也やまがい たくやに対し素気なく応じる。

 修練生の時に時々ペアを組んだことがあり、そこそこに知り合った仲だ。

 「うっさいわ、万年無表情。目の前に総帥様だぞ。緊張ぐらいするっての」

 「総隊長にはため口で話すくせにか」

 「総隊長はそれでもいいってんだからいいんだよ」

 「小雪はどうなんだ」

「私もちょっと緊張した」

 白い髪を腰まで伸ばした水原小雪みずはらこゆきが小さく答える。

 悠斗は小雪とは拓也より長い付き合いであり、訓練所に入る前からの友人だ。

 「うわっ、くうきいたのか!」

 「く、くうきじゃないです~、小雪です~」

 拓也が本気で驚いたような様子で小雪のことを『くうき』と呼ぶ。

 というのも小雪は他の人に比べて圧倒的に存在感がないのである。一人で人ごみの中を歩いているとよく人とぶつかる。その存在の薄さから数少ない友人からは『くうき』というあだ名で呼ばれている。

 本人は『こゆき』と呼んでほしいのだが、控えめな性格をしているのでなかなか伝わらずにいる。

 『こゆき』と呼ぶのは悠斗ぐらいだ。

 「お前らおしゃべりはそんなところでいいか?」

 道重が3人に割って入る。

 威圧感のある声に慣れている3人とはいえ、相手は上司だ。反射的におしゃべりを打ち切って姿勢を正す。

 「第16部隊の連中を呼び出した。直に来るぞ」

 「もう来るんすか。ていうかいつの間に呼んだんだ」

 「お前たちがおしゃべりしてる間にな。周りの様子を把握していなければ命を落としかねないぞ」

 冗談とも思えない口調で道重が言った。

 生死の境に立たされる戦場において常に状況を理解していなければ命取りになる。訓練所時代から教えられている基本事項だった。

本拠地内部なのだが、敵は異生物フォーブだけとは限らない。

 星の撃ち手《ミーティア》は政府側の組織だ。つまり反政府組織の敵でもあるわけだ。

 侵入者がいればそれだけで命に危険が及ぶというわけだ。

 小雪はそれを聞いて少し不安な表情をするが、悠斗と拓也は平然としていた。むしろ拓也は余裕の表情を浮かばせていた。

 「まあそんな敵の本拠地にふらふら入ってくるほど相手も馬鹿じゃないでしょ」

 「敵なら倒すだけです」

 「あぅあぅ……」

 「とにかく周りへの警戒は怠らないことだな。最近はレジスタンスの活動も活発になっている。俺たちがこうして話をしている間にも後ろから突然襲われるとも限らんぞ」

 「そんな馬鹿な―――」

 拓也が笑って不安を払拭ふっしょくしようとした直後、総帥室の扉が乱暴に開け放たれて鋭い刃が飛び込んできた。

 


 読んでいただきありがとうございます。

 プロローグに続いて第1話の投稿です。

 いきなり登場人物の多さにこれでいいのかと思いつつ、まあいいだろうとか思いつつも執筆した次第であります。

 これからも投稿を続けていきますので、読んでいただければ幸いです。

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