箸休め 伐折羅の一番長い日
俺は伐折羅、自分で言うのもなんだが結構いい男だとおもう。だが最近の俺はついていない、まったく嫌になる。
俺は、いや俺達はいま砂漠を走っている。運転席には部下の摩虎羅、そして後部席にはあのザック=レトリック。なぜ俺がこの2人と一緒なのか、話すと長くなるんだが聞いてくれ。
それは2日前、ザックにあの餓鬼どもの始末を依頼した夜、俺は店をでて自分の豪邸へと帰った。立て付けの悪い扉を開け、部屋に入る。布団に入り寝ようとしたが中々寝付けない、ヤツは本当に大丈夫なんだろうか?もしかしてザックの名を騙った偽者で、メシ代をたかられただけなんじゃないか?でも、本物だったら噂通り始末してくれるんだろう。だったら残りの金を用意しなくちゃならない、いくら位掛かるんだろ?などと考えてるうちにいつの間にか眠っていた。
朝が来た、なんだか目覚めが悪い。体調が悪くても仕事へは行かなければ、現場監督だからな。気分が悪いので朝メシは食わない。
重い気分のまま車に乗り込む、キーを差込みエンジンをかける。エンジンをかける、エンジンを・・・かからない!なんでだ?よりによってこんな日に!勘弁してくれ。しかたがない、俺は車を諦めて歩いて行く事にした。完全に遅刻だ、また作業員に文句をいわれるんだろうな。憂鬱な気分のまま現場まで足取り重く歩いて行った。
歩くこと1時間、やっと現場に着いた。なんてこった40分の遅刻だ。事務所に入り「おはよう」と挨拶する、が誰も返事してくれ無い。気分の悪いまま自分の机に向かう、その時俺に近づいてくるヤツがいた。摩虎羅だ。
こいつは、おれの部下で副監督。へらへらと笑って話しかけてくる、気分のいい日でも鬱陶しいのに今日は特にイライラする。
「おはようございます、監督。お早いご出勤ですな。まあ監督がいなくても、僕が作業計画を作っていますからお休みになられてもよかったんですけどね。」
前々から思っていたんだが、今日で確信した。こいつは、俺を馬鹿にしている。だがこんな事で怒るほど俺は若くはない・・・はず。
「車が故障してな、歩いてここまできた。」
ちょっと、ムッとしながら答えてしまった。ふっ・・・俺もまだ若い。すると摩虎羅は事務所の窓を開けて、外をきょろきょろ見ている。なんだか落ち着きの無い様子で、そわそわしている。イライラするので聞いたみた。
「なんだよ、さっきから鬱陶しい。」
「いやね、そろそろあの子たちが来るだろうと思ってね。」
さすが、副監督。いつも責任はすべて俺に擦り付けているくせに、さすがに採掘場を荒らされるのは心配とみえる。そこで俺は言ってやった。
「今日は、というかヤツらはもう来ないかもしれないぜ。」
「え、どういうことですか?」
俺は、昨日酒場であった出来事を摩虎羅に話した。するとヤツの顔が真っ赤になって、怒り出しやがった。訳がわからん。
「な、なんてことを!そんなことしたら、そんなことしたら。夜叉姫ちゃんが、怪我しちゃうじゃないですか!」
へ?こいつ今何て言ったの。確認の為にもう一度聞いてみる。
「あ、あのさ。俺、今日体調が悪くて耳がどうかしてるかもしれないんだ。もう一度いってくれる?」
「だから、そんな殺し屋に狙われたら。夜叉姫ちゃんが怪我しちゃうって言ってるんですよ!」
夜叉姫ちゃんが怪我をしちゃう?殺し屋に狙われてるんだ、怪我どころで済むはずがないだろ。すると摩虎羅は財布を取り出し、1枚の写真を俺に見せた。
「見てくださいよ、これ。」
俺はそれを見て愕然とした。そこには夜叉姫のガキと、摩虎羅が仲良くならんで写っている。なにこれ?
「へへーん、いいでしょ。2週間前に彼女たちがここに来た時、撮ったんです。駄目もとで聞いてみたら、1つ返事で了解してくれましてね。いやーいい子達だ、そしたらもうすっかり撮影会になっちゃって。最初は、怖がっていた作業員たちもすっかり打ち解けちゃいましてね。いまじゃ、後援会まであるんですよ。」
えーと・・・落ち着いて整理してみよう。撮影会があった、作業員たちが打ち解ける。そんで後援会ができたのね、なるほど、なるほど。わかった、こいつは馬鹿だ。イライラがムカムカへと昇格した、怒鳴った、怒鳴ってやった。
「あほかー!おまえわかってんの?採掘場荒らしの張本人たちだよ?なに仲良くなってんの?撮影会だあ?後援会だあ?なに考えてんだよまったく!」
だが摩虎羅は、きょとんとしている。俺の言ってる事が、わからないってないみたいな顔している。
「なに考えてるって、そりゃあこの子たちが可愛いからじゃないですか。なにを隠そう僕は『夜叉姫後援会』の会長なんですよ。『羅刹様後援会』よりは人数が少ないですが、そのうち人数を増やして見せますよ。」
鼻息荒く、得意満面な顔をしてやがる。なにこいつ、気持ち悪っ。もういい・・・怒る気もうせた、俺は肩を落として落胆する。
「もう、俺今日は帰る・・・気分が悪い。今日の指示はおまえに任せた・・・」
そう言って俺は、事務所を後にし家路にとついた。
今日はザックとの約束の日だ、仕事を終えた俺はヤツと会った酒場へ向かう。一応、金は用意してきた。50万ギル、これは俺が出せる精一杯の金だった。それはまあいいとして、なぜか摩虎羅が着いてきている。
「なんで、おまえがついてくる?」
「なんでって、僕は『夜叉姫後援会』会長ですよ?万が一夜叉姫ちゃんに何かあったら、その殺し屋をとっちめてやろうと思ってついてきたんですよ。」
もういい、おまえは喋るな。そうこうしてるうちに、俺と馬鹿は酒場に着いた。カウンターに腰掛け、ヤツが来るのを待つことにした。だが、一向に現れる気配が無い。どれくらい時間がたっただろうか、すると入り口の扉が勢いよく開いて1人の男が入ってきた。ザックだ。ザックは俺を見つけると、ツカツカとやってきて椅子に腰をおりした。するとヤツはカウンターにうつ伏せになり倒れこんだ。どうしたってんだ?
俺は、恐る恐る聞いてみた。
「あ、あの〜ザックさん?どうしました?」
ザックは、顔をあげて疲れた目をしてこう答えた。
「す、すまねえ・・・とりあえず酒をくれ。」
俺は女主人からグラスをもらい、そこに酒を注いだ。ザックは一気に酒を飲み干し、一息ついて話し出した。
「悪い、失敗した。」
はあ?なに言ってのこいつ。俺は、ちょっとムッとしてたずねた。
「失敗?失敗ってどういうことだよ。」
「まぁ待て、聞いてくれ。俺はあいつらをいいところまで追い詰めたんだ。そして止めを刺そうとした所、やつら卑怯にも俺の娘を盾にしやがった。いくら俺でも、愛するわが子を人質にとれれちゃ手が出ねえ。そのままやつらは俺の娘をさらって、逃げ出しやがった。すまねえな・・・」
なんてヤツらだ、悪魔の様な餓鬼とは思っていたが、あんな小さな子を人質にとるなんて。とんでもねえ餓鬼どもだ。
「俺も一流の殺し屋、ザック=レトリックと呼ばれる男だ。その誇りがある、一度うけた依頼は必ず成功させてみせる。そこでおまえさんに頼みがある。」
ん?と俺は不思議な顔をした。なんだ頼みって?なぜだか胸騒ぎがする、なんだろう?
「な、なんだよ。頼みって。」
「あいつらを追いかけたい。娘を取り返すのもあるが、もちろんヤツらの始末が最優先だ。だがどこへ行ったかわからねえ、おまえさん俺と一緒について来てくれないか?」
な、なに言ってるのこの人?訳わからん。
「む、無理だよ。そりゃああんたの娘さんは気の毒だとおもうが、一緒に探しに行くって無理にきまって・・・」
言葉が終わらないうちに、ヤツは俺に銃を向けた。
「なんだって?俺の頼みが聞けないってのかい?」
あんた、それが人に物を頼む態度ですか?だが俺も負けちゃいねえ、すかさず返答した。
「い、いや・・・む、無理だって。そんなに仕事に穴を空けちゃ、会社を解雇になっちまうよ・・・」
ヤツは撃鉄をおろし、俺の額に銃口を当てた。こわい、こわい。
「会社を解雇になるのと、俺に首を飛ばされるのと、どっちがいい?そうだな、とりあえず車と金を用意しろ。」
これか!これだったのか、嫌な胸騒ぎの正体は。あわあわとしていると、摩虎羅がこっそり逃げ出そうとしている。それを見逃さない俺は、ヤツの腕を掴み放さない。
「ちょ、ちょっとなにしてんですか!僕は関係ないでしょう。」
「うるさい、馬鹿野郎。こうなったらお前も道ずれだ!おまえたしか大きな車持ってたよな?用意しろ。」
するとザックはにこりと笑って、銃を摩虎羅に向けた。もういいから撃っちゃって下さい。
「ほう、おまえさんは車もってるのかい。いまから10分やるからここへ持ってこい!逃げやがったら、おまえの頭つぶれたトマトみたいにしてやるぜ・・・」
「は、はい!今すぐ持ってきます!」
摩虎羅は、ものすごい勢いで店をでた。ザックは再び銃口を俺にむける。こわいから止めてください。
「すると後は金だな・・・おまえいくらもってる?」
俺は、懐に手を入れてザックに渡すはずだった金を渡した。
「こ、ここに50万ギルある・・・」
ザックは乱暴に金を奪い取って、自分の懐に入れた。
「50万ギルか、当分なんとかなりそうだな。」
「で、でも探しに行くっていったい何処へ・・・」
「そうだな・・・ここから一番近い町はどこだ?」
一番近い町・・・近い町・・・だったら西のほうかな・・・?
「ここから、西へ向かったところに須弥山って山があって、そこの麓に町がある・・・そこが一番近いかな。近いって言っても500kmはあるけど・・・」
そこへ摩虎羅が帰ったきた。こいつの性格上、絶対逃げ出すと思ったんだが。
「車をもってきました!」
「お、意外と速かったな。さあ、今から西の町へ向かうぞ、立て。」
ザックは俺の背中に銃を向け直して、歩けと促した。俺達は店を出る。
「ほーいい車じゃねえか。おい、おまえが運転しろ!」
摩虎羅は、とぼけた顔をして答える。
「え?僕ですか?」
「おまえの車だろ?おまえが運転するんだよ。早くしろ!」
摩虎羅は、はいっといい、飛び込むように運転席に飛び乗った。俺は助手席に乗せられ、ザックは後部席に乗った。
「あのーどこへ行けば・・・」
「西だ、西の町へ向かえ。」
エンジンをかけて車を発車させる、砂漠を砂煙を上げて走り出した。
とういう訳で、俺は、いや俺達は今砂漠を走っている。運転席に摩虎羅、後部席にザック=レトリックを乗せて。はああああ・・・これからどうなるんだろう・・・