一章の3 ASHURA
般若はベッドの上で仁王立ちになり、鼻息荒く腰に手を当てみんなを見渡している。
みんな目が点になっている、最初に切り出したのは羅刹だった。
「わ、わっかた、わかったから般若。と、とりあえず服きましょうか?」
般若はふと我に返り顔を真っ赤にして、ばっとしゃがみこみシーツに包まって小さくなった。
「はーい。これから着替えるから、先生とじっちゃんはとりあえず部屋をでていって。」
順風耳と弥勒は、夜叉姫に部屋から押し出された。順風耳が部屋の中の彼女らに聞こえないように話しかけた。
「またやりましたね。」
「ん〜なにがあ〜?」
またとぼけて、と思ったが口には出さない。ただクスリと笑って話を続けた。
「あの子達、仲良くやってくれるといいですね。」
弥勒は、ニコリと笑い空を見つめている。
「なあに、心配するこたあねえよ。やつらは出会うべくして出会ったんだ。運命ってやつだな、これから大変だぜ〜やつら。」
「それでは、彼女等にあれを託すわけですか・・・これは大変な事になりそうですね。」
ぶちっと鼻毛を抜き、順風耳に向かって、ふっと吹きかけた。順風耳はそれを察してさっと避けた。
「・・・大丈夫だよ、あいつらならやってのけるさ。」
弥勒と順風耳は共に空を見つめている。彼女等の幸せを願って。
「よし、着替え完了。うん。可愛い、可愛い。」
般若は羅刹の見立ててで服を着替えた。肩まで伸びた髪は青みがかった白色、日に当たると銀色の様にキラキラ光っている。
ビキニのトップに、下はショートパンツ。首元にバンダナを巻いている。このバンダナは羅刹のお気に入りで、夜叉姫は手首に、羅刹は額に巻いている。3人おそろいである。般若はおなかを、さわさわと触って恥ずかしそうにしている。
「おへそでてる、なんか恥ずかしいな。ま、まあ。わたしにかかったらどんな物でも似合うけどね。」
この子、こんな感じだったっけ?と2人は目を、ぱちくりさせている。
「それじゃ自己紹介ね。私は羅刹。これからよろしくね、般若。」
「あたしは夜叉姫だよ。よろしくね、般若〜。」
2人は般若に手を差し出した、般若は少し照れて握手をした。そしてちょっと照れくさそうに話した。
「羅刹と夜叉姫ね、わ、わかったわ。よろしくしてあげる。これからわたしがリーダーだからね!いいかしら?」
般若は腕を組んで、ふんと胸を張って威張っている。それを見た夜叉姫と羅刹は、ぷーと吹き出した。
「きゃはははは。般若っておもしろーい。」
「だ、だめよ夜叉姫、笑っちゃ・・・くくく・・・あーお腹いたい。」
般若は顔を真っ赤にして、2人をぽかぽかと叩いた。
「なに笑ってるのよ〜2人とも〜もう失礼しちゃうわね!」
3人が部屋で騒いでいると、扉が開いて弥勒と順風耳が入ってきた。2人は般若をみてにこにこ笑っている。
「すっかり元気になりましたね、般若ちゃん。私は順風耳です、これからよろしくね。」
般若は順風耳の元へ、さっと駆け寄りぺこりとお辞儀をした。
「はい、おかげさまで元気になりました。これからよろしくお願いしますぅ。」
なに?この変わりようは。2人が思っていると弥勒が、こほんと咳払いをした。
「おーなかなか似合っているじゃねえか〜わしは弥勒だ、四大賢者のひとりで・・・」
弥勒が話しているにもかかわらず、般若は一切見ようとしない。順風耳の方を、きらきらした目で見つめている。
無視されているのに気づいた弥勒は、般若の方を向いて一言。
「おい・・・」
般若は弥勒を凍るような目で見つめた。汚いものでも見るように。
「なによ。」
「なによ、っておまえ。わしがおまえさんを治療してやったんじゃろうが!ちょっとは感謝せんかい。」
「ふんだ。わたしが気を失ってるのをいい事に、いたずらして。しかも記憶まで消しちゃったジジイに感謝なんかするもんですか!」
まぁまぁと2人の間に順風耳が割って入った。彼は般若に言って聞かせた。
「般若ちゃん、いいですか。この方はこの世界で4人しかいない、大賢者の1人なのですよ。弥勒様がいなければあなたはこうしていなかったのです。形だけでも感謝してあげてください。」
「わ、わかりましたわ。順風耳様がこう言ってるから感謝してあげる。感謝しなさいよ!」
なんで、感謝されて感謝しなきゃなんないんだ、と思い。悲しくなってきた。そこですかさず夜叉姫が口をはさむ。
「だからー、じっちゃんは般若になにもしてないってば。じっちゃんは16さ・・・」
羅刹が夜叉姫の口を押さえる、もうこれ以上話をややこしくしないでというふうに。夜叉姫は口を押さえられて、もごもごしている。
「ふん、まぁええわい。3人ともこっちへきな、話がある。」
弥勒は真面目な顔になり、踵をかえし歩いていく。4人もそれにならって後に続いて歩いていく。長い廊下を歩いて行き、辿り着いたのは大広間。そこの中央に弥勒は、どかっと腰を下ろし胡坐をかいた。つづいて順風耳は弥勒の傍らに立つ。弥勒の対面に右から、羅刹、夜叉姫、般若が、ちょこんと座った。
弥勒は顎を、ぽりぽりとかき夜叉姫と羅刹に話しかけた。
「羅刹、夜叉姫〜おめえら、ここを出て何年になったっけ〜?」
「3年になります、弥勒様。」
羅刹が背筋を伸ばして答えた。弥勒は腕を組み暫く考えた後、ポツリと言う。
「ところで、ブルーメタルは集まったかい〜?」
夜叉姫は、ごそごそとショートパンツのポケットに手を入れて、弥勒の前に差し出した。
「これだけなんだ、じっちゃんに言われたとおり集めたんだけどさ・・・なかなか見つけられなくて。」
持っていたブルーメタルを弥勒に手渡した。貰ったブルーメタルを弥勒は、しげしげと見つめている。羅刹がそれを見てたずねた。
「弥勒様。このブルーメタル集めに何か意味でもあるのですか?」
弥勒は羅刹の方を、ちらっと見た。だがすぐさまブルーメタルの方に目を向けた。
「意味?意味なんかないよ〜」
羅刹と夜叉姫は、びっくりした顔で弥勒にくってかかった。
「ひ、酷いです、弥勒様!意味も無いのにこんな物を3年も集めさせたなんて!」
「そうだよ、じっちゃん!大変だったんだからね。殺し屋に狙われたり、あたしたちに賞金がかけられたり!」
2人がぶーぶー言っていると、順風耳が割って入った。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。駄目じゃないですか弥勒様、ちゃんと説明しないと。」
そのよこで般若が、むすっとした顔でみんなを見ている。怒った口調で話す。
「ちょと、何言ってるのかわかんないわ!そのブルーメタルってのは何なのよ?わたしにも説明してよ。」
「そ、そうですね。般若ちゃんは判らないですね。それでは改めて説明したしましょう。」
順風耳は襟を正して、それではと教師のように説明をはじめた。
「私達が住むこの世界、『三千大千世界』には様々な鉱物があります。そのなかで最上位にあるのが『ブルーメタル』なのです。この金属は、基本的には金剛石と同じく宝飾品として扱われるのですが、一定の薬品を加えることによって金属と同じ性質に変化します。別名『奇跡の鉱物』とも呼ばれ、その利便性から頻繁に使用されることになりました。」
般若は真面目に、羅刹と夜叉姫は初めて聞く話ではないが彼女らも般若にならって、真剣に説明を聞いている。
「ですが、ここ50年乱獲がたたり、以前のようには採掘されなくなりました。1000以上あった採掘場も、いまでは10も満たないぐらいに減少しています。今では『奇跡の鉱物』が『幻の鉱物』と呼ばれ、100gもあれば一生遊んで暮らせるほど貴重になりました。」
般若がすっと手を上げて、順風耳に質問した。
「順風耳様、じゃあどうして羅刹たちはその『ブルーメタル』を集めてるの?一生遊んで暮らしたいから?」
順風耳は、にこりと微笑み、手を出して横に振る。
「いえいえ、そういう訳ではありません。」
夜叉姫と羅刹は目を大きく開いて、びっくりしている。え、違ったの?といった感じで。順風耳は少し呆れた顔をして話を続けた。
「全く・・・あなた方には説明したでしょう。ブルーメタルの現物を見て、その性質と採掘場の近辺から出る、他の鉱物の調査をしてくださいって。」
羅刹たちは、はっと思い出した。そういえばそんな事を言われたような、2人は苦笑いをして頭を、ぽりぽりかいている。
「そ、そうでした。そうでしたわ、忘れていたわけじゃないんですよ?ただ・・・」
「あたしは、すっかり忘れてたよ。にしし。」
「しょうがない2人ね!やっぱり、わたしがリーダーじゃないと駄目ね。」
3人が、きゃいきゃい騒いでいるのを静止して、順風耳は再び説明を始める。
「それではここから本題です。ブルーメタルには『レアブルーメタル』と言ってブルーメタルの結晶が存在します。これは300年前に突如この世に現れました。だれが加工したかは不明で、冥界の鬼達が、この世を混乱させるために落としていったんではないかと言われています。まあ、これはあくまでも伝説ですけどね。その『レアブルーメタル』の名は『ASHURA』といいます。」
ここへきて、初めて弥勒が口を開いた。
「その『ASHURA』をおまえさんらに探してきてほしい訳だ。」
3人が、きょとんとした顔をしている。いまいち、ぴんと来てないようである。夜叉姫が弥勒に聞く。
「じゃあ、その『ASHURA』ってのはどこにあるの?」
弥勒は鼻をほじって、鼻くそを丸め、ぴんと順風耳に向かって投げる。もちろん彼はさっと避ける。
「ばーか。ある場所がわかってりゃおめえらにたのまねえよ。探すんだよこの世界のどこかにある物を、おめえさんらが。」
3人が一瞬固まった、そして口をそろえて大きな声で叫んだ。
「えーーーーーーーーーー!!!!?」