三章の2 アテナだって出来るのなの!!
西午賀州は、自然に囲まれた地である。世界的にも珍しい動物や、植物が生息しており国際保護指定地にされている。
その為、近代文明による機器類はごく僅かにしか普及していない。だが観光地としても有名な所でもあるので、特別に指定された土地には東勝神州と変わらない施設がおかれている。
イリス、アテナ、セレーネが降り立った『アルテミス空港』は西午賀州の東海岸にある場所。この空港は東勝神州が誘致している場所であり、西午賀州の自然を研究する為に建てられた。
3人は荷物を受け取り、空港ロビーでこれからどうするか相談していた。
「さてと、西午賀州に着いたけどこれからどうする?」
セレーネは荷物に腰掛け、2人に話しかける。
「とりあえずさ、車をレンタルして『須弥山』に向かおうと思うんだけど。四大賢者の中で居場所がはっきりわかってるのは、『観音』だけだからね。」
イリスとアテナは、うんうんと頷きセレーネに賛同する。するとアテナは何かを思い出し、ポケットの中から何かの紙を取り出した。
「あのねさっき、コンシェルジュの人からこんな紙貰ったのなの。」
取り出された紙を、セレーネは受け取り読み始めた。
「『西午賀州の歩き方』だって。なになに『西午賀州は、大自然に恵まれた土地であります。肥沃な土地は豊富な農産物があり、それらを使ったこの地特有の料理に舌鼓を打つことでしょう。』要するに、ド田舎で料理は美味いってことだね。」
「私達、別に観光に来たわけじゃないんだけどね。」
セレーネは苦笑いをして、続きを読んだ。
「『ですが、治安は決して良いとはいいきれません。砂漠には山賊が出没し、殺し屋、賞金稼ぎなどがいます。特に2人の少女には気をつけましょう。』」
3人は、きょとんとしている。山賊、殺し屋、賞金稼ぎはわかるとして、2人の少女ってのがわからない。考え込んでいると、紙の裏に写真が載ってある。それを見た彼女らは、驚いている。
「うわ〜本当に女の子だよ、羅刹と夜叉姫だってさ。ていうか、なんだよこの緊張感のない写真は・・・」
セレーネは、半ば呆れた顔をしている。それもそのはず、その写真に写っている羅刹と夜叉姫は、仲良く肩を組んで微笑みながら写っているからだ。3人は気を取り直して、これからの事を話し始めた。
「治安が良くないのは、傲来国もおなじでしょ?西午賀州の人たちが全員山賊とか、殺し屋とかじゃあるまいし。物騒な所に近づかなければいい事なんじゃない。」
イリスは大した事じゃない、という顔をしている。アテナは、それにうなずく。そこでセレーネが、話をまとめる。
「よっし、それじゃあ車を手配しよう。そんで『須弥山』を目指そうか。」
3人は手を挙げて、おーと号令をかけた。彼女達は荷物をまとめ、空港ロビーを後にした。
イリス、アテナ、セレーネは呆れている。彼女達は西午賀州に着いてから、呆れっぱなしだ。文化の違いというのが、こんなにも落胆させるものかと。
「全く・・・いまどき4輪車はないだろ・・・しかもガソリン車かよ、どんだけ遅れてるんだよ。」
「しかたないなの、ここって国際保護指定地なの。自然を大切にするには仕方ないことなの。」
自然を大切にするなら、ガソリンは無いだろう。とセレーネは思ったが、口にはださない。
車を手配した彼女達だが、ここで1つの問題が生じた。
「ところでさ、誰が運転するわけ?言っておくけど私は無理よ、4輪車なんて運転したこと無いもの。」
イリスは、2人に向かってきっぱりと言った。セレーネも困った顔をして、イリスとアテナに話した。
「うーん・・・ぼくも4輪車は運転したこと無いんだよね。どうしようか、今からガイドを雇うってのもなぁ・・・」
「アテナが運転するのなの!」
2人はぎょっとした、予測していた事の最悪のケースだ。アテナの運動オンチは、彼女達は嫌というほど知っている。しかも、方向オンチとくれば始末におえない。イリスとセレーネは言葉を選びながら、なんとかアテナに運転は諦めてもらおうとする。
「ア、アテナいいよ大丈夫だから。知らない土地だし、ガイドくらい雇える余裕はあるからね・・・」
「そうだよ、わざわざアテナに運転してもらわなくてもさ。ぼく、ガイドの手配してくるね。」
アテナは、2人の言い分にムッとした。目に涙をためながら、必死に抗議する。
「馬鹿にするななの!2人はそうやっていつもアテナを馬鹿にして、アテナだって出来るのなの!!」
こうなってしまったアテナは頑固で、言い出したら後には引かない。2人はそんなアテナの性格を知っているので、諦めた口調で話す。
「わかったわ、アテナ。あなたに任せるわ、だけど安全運転でお願いね。」
「イリスがそう言うならしかたない、でもキミ4輪車を運転したことあるのかい?」
アテナは満面の笑顔を浮かべ、胸を張り得意そうに言った。
「任せろなの!お家のお庭で、パパといつも4輪車の運転していたから大丈夫なの。」
おいおい、その程度で任せろって・・・2人は思ったが、これ以上揉めていても仕方がないのでアテナに任せる事にした。
「それじゃあ出発するのなの!みんな車に乗ってなの。」
アテナの張りきりが、2人をより一層不安にさせる。覚悟を決めて、2人は車に乗り込んだ。
砂漠を走ること、1時間、助手席にはイリス。後部席にはセレーネ、そして運転席にはアテナが緊張した顔でハンドルを握っている。
セレーネ、は自分のカバンからある機械をとりだした。
「ジャーン!これなんだと思う?」
2人の前にセレーナが取り出したものは、大きなコンパスの様な形状をしている。それを見たイリスはセレーネに尋ねる。
「なんだと思うって・・・コンパスじゃないの?」
「へへーん、そう思うだろ。これはね『ブルーメタル探知器』なんだ、『ブルーメタル』は微弱な電波を発してるんだって。この機械はその電波を感じ取って、指針が方向を示すんだ。まあ、信頼度は85%ぐらいだけどね。」
イリスとアテナは感心している、そんな機械があったなんて。
「信頼度85%って凄いじゃない、よくそんなの持ってたわね。」
セレーネは自慢げに、鼻息荒く語りだす。
「実を言うとね、これってぼくの親父の物なんだ。親父って一応科学者だからさ、暇つぶしにこれを作ったってわけ。テストを兼ねて持ってきたんだ、信頼度85%ってのは親父の計算上の事なんだけどさ。」
イリスはがっかりするところか、期待に満ちた顔をしている。
「セレーネのお父様の発明品なら、信頼できるね。傲来国で一番の科学者なんだから。」
そんな事を言いながら、彼女らを乗せた車は『須弥山』の近くの繁華街まで来ていた。
須弥山の繁華街、そこに観音が歩いていた。彼女は焼酎が切れたので、使用人に使いを頼んだのだが、皆忙しいらしく暇な者は観音だけで仕方なく下山して焼酎を買いに来たというわけだ。
「全く・・・四大賢者のこのワシが買い物にいかなあかんねん・・・こんなことなら伎芸天を修行に出すんやなかったで。」
ぶつぶつ言いながら、観音は酒屋の前まできた。
「おっさん、すまんけど焼酎くれんか。」
店の奥から、酒屋の主人が出てきて対応する。
「へーい、毎度。あらこれは観音様、あなたが買い物とは珍しい。」
「まあな、色々あって下山してきたわけや。それより親父、この店でいっちゃん良い焼酎おくれ。」
「へいへい、かしこまりました。これなんかいかがでしょう。」
店主から手渡された焼酎を、観音は喉を鳴らして受け取った。
「おお、これは有名な『砂伍の水』やんけ。親父ええんかこれ?」
「へい、これはなかなか手に入らない物でございます。観音様にはこれくらいの物でないと、お口に合わないかと。」
観音は目をキラキラさせて、店主に話す。
「親父これ貰うわ、なんぼや。」
「そうですね精一杯勉強させてもらって、3000ギルってところですかね。」
「3000ギルか、わかった買うわ。ちょっとまってな。」
観音は、財布を取り出そうとしたが見当たらない。滅多に下山しないので、財布を持ってくるのを忘れたのだ。彼女はどうしようと思いながら、途方にくれている。そこへ、3人の少女達が歩いてきた。観音は藁にもすがる思いで、彼女達に話しかけた。
「おーい、そこの姉ちゃん達。」
呼び止められたのは、イリス、アテナ、セレーネだった。彼女達はいきなの事で戸惑っているが、無視する訳にもいかないので返事をした。
「な、なんでしょうか・・・?」
イリスは、恐る恐る観音にいった。観音は人懐っこそうな笑顔を浮かべて、彼女達に近づいてきた。
「いきなり呼び止めて悪かったな、ねえちゃんら観光客か?」
「はい、そうですけど。」
観音はますます、にんやりとして話を続ける。
「そうか!ちょうど良かったわ。すまんけど3000ギルほど貸してくれんか?」
イリスとセレーネは、胡散臭そうに観音をみている。何がちょうどよかったんだ?とういう顔をしながら。するとアテナが観音に近づき、
財布を取り出して観音に3000ギルを渡した。
「はい、どうぞなの。」
「おお、すまんな大きいリボンのお譲ちゃん。ちょっと借りとくわ。」
観音はアテナから貰ったお金を持って、酒屋に戻っていった。アテナはいい事をしたとニコニコしているが、あとの2人はアテナに呆れた口調で話す。
「あんたね・・・見ず知らずの女の人にお金を貸すなんて・・・人がいいのも大概にしないと。」
「そうだよ、いくらアテナはお金持ちのお嬢様だからって無駄な出費は抑えなくちゃ駄目だよ。」
アテナは、いい事したんだからいいじゃない。という顔をして、彼女達の忠告にピンと来ていない。するとそこへ買い物を終えた観音が、彼女達に再び近づいてきた。
「おおきにな、リボンの譲ちゃん。おかげで買い物できたわ、なんか礼せなあかんな。ねえちゃんら宿は決めてあるんか?」
彼女達は、顔を見合わせてどうしようという表情をしている。そこへセレーネが、最初に話し始めた。
「ぼくたち、ここへ着いたばっかりなんです。ある人物を探していて、東勝神州からきたんです。」
観音は、買ったばかりの焼酎の瓶を肩に担ぎながらセレーネの話を聞いている。
「探している人って誰やねん?ワシここらへんやったらちょっとした顔やから、手助けできるかもしれんで。」
イリスは言おうか、言うまいか迷った。が、もしかしたら何か手掛かりがあるかも知れないと思い観音に話した。
「あのですね、実はこの須弥山に観音っていう方が住んでいるらしいんですが。なにかご存知ですか?」
ご存知もなにも、彼女らが探しているのが目の前にいる。観音は自分の事だと言おうとしたが、ちょっとした悪戯心が芽生えた。
「そうか、観音様を訪ねにきたんか。あんたら運がええな、ワシ観音様んとこで働いてるねん。よかったら、今から一緒に行くか?」
3人の顔が、ぱぁっと明るくなった。須弥山に到着していきなり、観音の従者に会えるなんてこんな幸運はない。と思っている、それ以上の幸運が訪れていることも知らずに。
観音を車に乗せ、須弥山の頂上までやってきた。車から4人が降り、観音が門前まで歩き出した。
「ちょっと待っててな、いま門開けてもらうさかいに。」
3人は、はいと気の無い返事をした。それというもの、目の前のキラキラの建物に驚かされているからだ。
呆気にとられている3人に、観音が近づき話しかける。
「おーい、何ぼーっとしてんねん。ほら、中にはいろやないか。」
観音に連れられて、門をくぐって中に入る。すると門番が観音に深々と礼をしているのを見て、セレーネがイリスに小声で話しかけた。
「ねえねえ、あの人どういう人なのかな?」
「従者頭ってやつじゃない?だから、あんなに偉そうにしているんじゃないかな。」
2人がコソコソ話していると、4人は大広間に着いた。そして、部屋の奥にある立派な椅子に観音が座った。彼女らは、この人何をしているのと思い状況が把握出来ないでいる。
すると観音は、急に笑い出して3人に話し出した。
「はははははは、騙して悪かったな。あんたらが探している観音はワシのことや、驚いたか?」
イリス、アテナ、セレーナはまだ状況が把握できていない。やっと、頭が整理出来たのだろうか一斉に声を出して驚いた。
「えーーーーーーーー!!?」
3人の態度に観音は、してやったりと得意満面な顔をしている。
さて、これから3人の少女達はどうやって観音から『ASHURA』の事を聞きだすのだろうか?