三章の1 ASHURA探しに行ってみない?
三千大千世界、この世界には4つの大陸がある。北に『北倶蘆州』南に『南贍部州』、東に『東勝神州』西に『西午賀州』。
北の北倶蘆州は極寒の地であり、そこに住む人々は独自の文化をもっている。南の南贍部州は常夏の地で、そこの美しい海は観光客に人気があり常に賑わっている。東の東勝神州は大陸で1番の大都会、傲来国があり世界の中心になっている。最後に西の西午賀州は、大砂漠『砂伍』と霊峰『須弥山』がある。肥沃な大地に恵まれ、大いなる自然に囲まれた大陸である。
ここ、東勝神州の傲来国には大きな高校がある。そこの生徒で考古学を学んでいる少女、名を『イリス』。同じく彼女の同級生で、名を『アテナ』。彼女達の友達で、歴史学を学んでいる少女、名を『セレーネ』。
彼女たちは、よく3人でつるんでいる。学園の他の生徒からは、変わり者扱いされていて少し浮いている存在だ。
いつもの様に彼女達は、校舎の裏で弁当を食べながらわいわいと雑談をしている。
「ねえ〜明日からの夏休み、みんなどうするの?」
イリスはサンドイッチを、パクリと頬張りながら2人に話しかけた。
イリスという少女。
黒髪のセミロングで、眼鏡をかけている。
古文書と考古学が大好きで、1つの事に没頭すると周りが見えなくなる。以前、学園の校庭には古代遺跡があると信じ込み、校庭を穴だらけにした実績をもつ。もちろん古代遺跡など出るはずは無く、先生たちにこっぴどく怒られた。
「うーん・・・アテネはどうしようなの。」
顎に指をあて、目を閉じながら考えている。
アテナという少女。
金髪のロングヘアーで、語尾に『〜なの』を付けて話す。
イリスとは幼馴染で、常に彼女に付いてまわっている。アテナも考古学を学んでいるが、考古学が好きというよりイリスが好きなので一緒にいたいという理由で考古学を専攻している。校庭穴だらけ事件にも、イリスと共に行動している。
「イリス、アテネ。ぼく書庫でさ、面白い本見つけたんだ。」
1冊の古びた本を、2人の前に突き出した。
セレーネという少女。
銀色のショートカットで、ボーイッシュな女の子
背が高く、男の子の様な性格で他の女生徒に人気がある。
この学園に入学したが、毎日がつまらなくて仕方がなかった。そこに校庭穴だらけ事件がおこり、当事者のイリスとアテナに興味をもち友達になった。他の生徒達からは、『なぜ、セレーネさんがあんな子達と』陰口を言ったが本人は意にも介さない。彼女達といると退屈しない、セレーネにとってはそれが1番大事なのだ。
2人の前に突き出された本を見て、アテナはきょとんとしている。
「セレーネちゃん、これなんなのなの?」
「にひひひひ。これはね、伝説の宝石をまとめた本なんだ。ここにね、すっごい面白い宝石の事が書いてあるんだ。」
セレーネは、興奮して鼻息を荒くしている。それを見ているイリスは、ため息をついて話しかける。
「セレーネ・・・あのね、そう言うのはほとんど眉唾ものなんだよ。だいたい、伝説ってのが怪しさ満開じゃない。」
そうイリスが言い放つと、セレーネがちょっとむっとした。
「何言ってんだい!校庭を穴だらけにした、きみに言われたくないね。」
「もお〜2人とも止めなさいなの。」
アテナは、2人の間に入って仲裁した。セレーネは気を取り直して、話を続ける。
「まぁ聞きなって、2人ともさ『ブルーメタル』ってしってるよね?」
「馬鹿にしないでほしいのなの、それくらいアテナでも知ってるのなの。」
アテネはぷんぷんと頬を膨らませ、ウインナーをパクリと食べた。イリスは食べ終わった弁当を片付け、セレーネにたずねる。
「その、『ブルーメタル』がどうかしたの?まぁ、確かに今じゃ珍しいけどさ。」
セレーネは本をペラペラとめくり、鼻息荒く解説しはじめた。
「そう、『幻の鉱物』って呼ばれているそれなんだけど。その『ブルーメタル』の中でもレアって呼ばれる物が存在するんだ。この本によると、名前を『ASHURA』って言うんだって。」
イリスは、やれやれという顔をしている。アテナはイリスと対照的に、ちょっと興味があるようだ。
「あのねこの本によると、『ASHURA』は300年前に突如この世に現れたらしいんだよ。誰が加工したか分からない、『ブルーメタル』純度100%の加工物らしんだ。これを手にした者は、富と名声を手に入れたらしいんだよ。」
「ほえ〜『ASHURA』って凄いのなの。富と名声か〜ちょっとワクワクするのなの。」
イリスは、腕組をして考えている。そして、ちょっと微笑んで2人に話す。
「富と名声はいいとして、ちょっと興味あるわね。誰が作ったか分からない加工物か・・・オーパーツってことね。考古学的に300年って歴史は浅いけど、面白そうな話ではあるわね。」
セレーネは、イリスとアテナの肩をバンバンと叩き、さらに興奮している。
「でしょ、でしょ!そこでね提案があるんだ。明日からさ夏休みだし、探しにいかない?この『ASHURA』をさ!」
2人は、セレーネの提案にびっくりした。
「ちょっとまってなの!いきなり過ぎるのなの〜」
「あのねセレーネ、気は確か?『ブルーメタル』でさえ、今じゃ見つけるのも大変なんだよ。それのレアってなると、砂漠で砂粒を探すような物じゃない。」
彼女達のリアクションに、セレーネは口角をあげてニヤリと笑う。
「ぼくもね、馬鹿じゃないんだ。なんの手掛かりも無しに、こんな荒唐無稽な話なんかしないって。この本によると『四大賢者』ってのが鍵を握っているらしんだよ。」
「『四大賢者』ですって?まさか実在するの・・・」
イリスは信じられない、といった顔をしている。彼女らが住んでいる東勝神州は、化学文明が発達している地である。そういう事は、おとぎ話でしか伝承されていない。
「ぼくもこの本を読むまで、まさかと思ったんだよね。西午賀州の大砂漠『砂伍』に住んでいる弥勒、同じ大陸の『須弥山』に住んでいる観音。後の2人は、ちょっと字がかすれてて分かりにくいんだけど。名前だけは書いてあるね、『普賢』と『文殊』」
「せいごがしゅうって・・・何処にあるのなの?」
「西午賀州は私達が住んでいる傲来国から、西へ1000km行った所にある大陸だよ。『須弥山』は有名な霊峰で観光地だから、飛行機で直行便が出ているはずだよ。」
イリスがアテナに説明をしていると、セレーネは本を閉じ彼女らに問いかける。
「で、どう?夏休みの自由研究も兼ねて、『ASHURA』探しに行ってみない?」
イリスは暫く考えて、セレーネに答えた。
「わかったわ、行きましょう。私は『ASHURA』よりも『四大賢者』の方が気になるからね。伝説の人物達が実在するなんて、ぞくぞくするわ!」
「イリスが行くのなら、アテナも行くのなの〜」
イリスの言葉を聞いて、アテナはあわてて賛同した。2人が賛同してくれて、セレーネはニコニコしている。
「よっし!そうと決まったら、2日後の8時にゼウス空港に集合だよ。遅れちゃだめだよ。」
2人は頷き、セレーネに微笑んだ。彼女もそれに答えて、笑った。3人は笑いあい、2日後を楽しみに待った。
そして2日後、空港に着いたイリスは2人の格好をみて怒っている。
「あんたたち何考えてるのよ!その格好で『ASHURA』を探しに行く気なの!?」
「何って・・・学園の制服だけど?」
セレーネの服装は学園の制服で、しかも彼女はミニスカートにニーソックスを履いている。
「校則にも書いてあるじゃない、『校区外に出る時は制服で』って。だから着てきたのだけど・・・おかしいかな?」
イリスは呆れた顔をしてる、そしてうな垂れながら話をつづけた。
「まあ、100歩譲ってセレーネの格好は良いとしましょう。それよりアテナ・・・あんたの格好・・・」
「え〜何かおかしいのなの?かわいいと思うのなの。」
アテナの服装は、ゴシックロリータ。いわゆるゴスロリだ、白いフリルの付いたドレスで頭には大きなリボンを付けている。極めつけには、大きな熊のぬいぐるみを抱えている。
「かわいいよ、とってもよく似合ってるわ。でもね、これからの旅にはその格好は無いんじゃないかな。」
アテナとセレーナは、今ひとつピンと来ていない。もう何も言う気になれないイリスは、諦めて2人に話す。
「もういいわ・・・そろそろ搭乗時間だから、早くいきましょう・・・」
3人は搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込む。まずは、『四大賢者』に会うために。彼女達もまた、『ASHURA』探しの運命に巻き込まれて行くのだろうか・・・