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二章の1 般若ならできるって!




 照りつける太陽に照らされながら、砂漠を走りぬける1台の車。車内には3人の少女達、夜叉姫やしゃひめ羅刹らせつ般若はんにゃ

太陽が一番高く上がっている時間帯で、車内の温度は窓を全開にしていても40度以上はある。後部席にいる般若なんかぐったりしている始末。

「あーつーいー。ねえ、なんとかなんないの?こう暑くちゃかなわないわ。蒸し饅頭になった気分よ。」

前の座席にいる2人は、平気な顔をしている。運転席の夜叉姫は、ハンドルを握って涼しい顔。羅刹も助手席に座って、平気な顔をしている。

「そう?今日なんかまだ涼しいくらいだよ。ねえ、羅刹?」

「そうね、いつもならもっと暑いんだけどね。夏も終わりに近づいてるのかな?。」

般若は、呆れた顔をして切り替えした。

「まったく・・・しんじらんない!あんた達は田舎暮らしの山猿でしょうけど、わたしはお嬢様なんですからね。こんなの耐えられるわけないじゃない!」

記憶を無くしてるのに、お嬢様って。2人は吹き出しそうになりながら、般若の話を聞いていた。

暫く走っていると、羅刹はある物を見つけた。

「夜叉姫、止まって!」

夜叉姫は車を停車させ、訳がわからないって顔をしている。

「なんなの?なにがあったの。」

羅刹が車から飛び出し、見つけたものは看板だった。そこにはこう書いてあった。

須弥山しゅみせんまであと400km。山賊注意。」

彼女の後から、車を降りた2人も看板を見ている。般若が不思議そうな顔をして、羅刹にたずねた。

「ねえ、さんぞくってなに?」

「山賊ってのはね、旅人からお金や荷物を奪って生活してる人たちの事よ。そうか〜ここ山賊がでるのか。」

羅刹は、腕組をしながら考えている。そして何かひらめいた様に、にこにこしながら話し出した。

「よし、今日はここで野宿しましょう。」

2人は口を揃えて、えーと言っている。

「羅刹、なに言ってるの?あと少しで砂漠を越えるんだよ?なにもこんなとこで野宿しなくっても。」

「そうよそうよ!夜叉姫の言うとおりだわ。大体野宿なんて、このわたしが出来るはずないでしょ!」

羅刹は、ぶーぶー文句言っている夜叉姫に目で合図をした。それを察した夜叉姫は、文句を言うのを止め、にこにこしだした。

「そうだね。弥勒のじっちゃんから貰ったお金も大事に使わないといけないし、野宿ってのもありかもね。」

般若は目を大きく見開いて、夜叉姫にくってかかる。

「な、なによ!あんたまで。裏切り者ー!」

般若は地面に寝転がって、手足をジタバタさせて駄々をこねている。羅刹はそれを見ても意に介さず、淡々と話す。

「はい、じゃあ野営の準備しましょうか。」

般若は、諦めて立ち上がり半ばベソをかきながら、しぶしぶ野営の準備を手伝った。



 日が傾きかけてきた頃に、野営の準備は終了した。ぱんぱんと手を払った夜叉姫が羅刹に話しかける。

「寝床はこれでよしと、んでこれからどうする?」

羅刹はカバンの中から、小刀を取り出し夜叉姫に渡した。

「そうね、食料でも探しに行きましょうか。般若、悪いんだけど留守番お願いね。私達は何か食べれそうなもの見つけてくるから。」

疲れて座っている般若が、すくっと立ち上がり驚いた顔をしている。

「えー冗談じゃないわよ!わたし1人こんなところで留守番ですって?わたしも行くわ。」

夜叉姫が小刀を、ぽいぽいと投げて遊んでいる。

「でも、だれかいないとさ〜車とか荷物とかられちゃうよ?」

「だったらあんたが残りなさいよ!」

般若が夜叉姫に、やいやい言ってると羅刹がこほんと咳払い。

「もー文句ばっかり言わないの!今回はあなたが留守番。これからこんな事が増えるんだから、慣れてもらわないと。それにあなた狩なんかできなでしょ?」

般若はびたっと止まり、目に涙をためながら上目遣いで口をとがらせぶつぶつ言い出した。

「そりゃあ・・・狩なんかできないけどさ・・・だからって・・・」

夜叉姫が般若の頭を、なでて微笑みながら優しく語りかけた。

「心配しなくても、すぐ帰ってくるって。ここら辺は『サバクオオトカゲ』の生息地だから、いっぱい捕ってくるね。」

言い終わると2人は、般若を残して狩に出かけていった。般若は暫く、きょとんとしていたが我に返り。

「ちょ、ちょっと!わたしトカゲなんか食べないからね?ちょっと聞いてる?おーい、話ききなさいよ!」

文句を言ったが2人は届かない。ぽつんととりのこされた般若は、しょうがないとあきらめ火をおこした。


 焚き火にまきをくべながら、般若はぶつぶつと独り言をいっている。

「遅いなあ・・・なにが早く帰ってくるよ。か弱い少女を一人ぼっちにしてさ・・・」

するとなにやら、足音が聞こえてきた。帰ってきた?と思ったが足音は2人じゃない、もっといる。

暗闇の中から、野性味溢れる男達が数人現れた。そしていやらしい笑みを浮かべ、般若を見下ろして話し出した。

「くひひひひ・・・お譲ちゃん、どうしたの?こんなところで。」

般若は身構えて、警戒心を強める。

「な、なんなのよ・・・あんたたち・・・」

「俺達は、ここら辺をねぐらにしている山賊の『夜摩天やまてん党』ってもんだ。お譲ちゃん死にたくなかったら、金と荷物を置いていきな。」

やばい、どうしよう、殺されるかもしれない。でもここで逃げ出したら、あの2人に何を言われるかわかったもんじゃない。

般若は震えている。だが精一杯強がって山賊達にくってかかった。

「ふ、ふんだ!あんたたちに何もあげないわよ!」


 その様子を岩陰に隠れて見ている2つの影、夜叉姫と羅刹。2人はとっくに狩を終え、ここで般若の様子を伺っていたのだ。

「お、来た来た。1、2、3・・・5人だよ羅刹、ちょっと少ないね。」

羅刹は、うんうんとうなずきながら様子を見ている。

「まあ、最初はこんなもんでしょ。」

夜叉姫は腕を組み目を閉じて、思い出している。

「思い出すなあ〜あたしもこれ、羅刹と先生にやられたっけ。」

「私も、弥勒みろく様と順風耳じゅんぷうじ先生にやられたわよ。これも修行の一環よ、般若には頑張ってもらわないとね。」


 般若は頑張っていた。逃げ出したい、でも逃げたくない。頭の中がぐるぐるしている。その瞬間、般若の鼻先に山賊の剣が向けられた。

「いいから、金を出せって言ってんだ!殺しちまうぞ、このガキ。」

もうだめだ、殺される。泣きべそをかいている般若は、大きな声で叫んだ。

「羅刹ー夜叉姫〜!たすけて〜!もう生意気言わないから〜お願い〜!」

その声を聞いた2人は、岩陰からひょこっと顔を出して、般若に手を振っている。

「はーい。呼んだ?」

般若はほっとしたが、それ以上に怒りがこみ上げてきた。

「ちょっと!いるんなら何とかしてよ!」

羅刹は首を横に振り、駄目といっている。

「はい、ここで修行の開始です。あなたの力を使って、その山賊のおじさん達を追っ払ってくださーい。」

「な、な、な。何言ってるのよ〜気はたしかなの〜?」

すると夜叉姫が大きな声で、般若に伝える。

「大丈夫だよ!般若なら出来るって。念動力で、やっつけちゃいな!」

そうか、念動力があったんだ。般若は落ち着きを取り戻し、呼吸を整え静かに目を閉じた。そして一気に目を開けると、焚き火の薪が数本浮き、般若の周りを旋回しだした。

「な、なんだ・・・このガキ・・・」

山賊達は戸惑っている、いままで見たことも無い光景に。すると般若は指を立て、自分の周りを回っている火が付いた薪を山賊めがけてとばした。

「あちちちちち!なんだ?一体どうなってんだ?」

火の付いた薪が、山賊達に降りかかって来たのだからたまらない。彼らは逃げ惑うばかり、だが1人の勇敢な山賊が火の粉をかいくぐり般若めがけて剣を振り下ろした。だがそこには彼女の姿がいない。

「ばーか。どこ狙ってんのよ!」

山賊の頭の上から声がする、見上げると般若がちゅうに浮いていた。彼女はわずかな間に閃いた、石や木を動かせるんなら自分も動かせるんじゃないだろうか?試してみると以外にも簡単にできた。まだ安定はしていないが即興にしては上出来だ。

般若は山賊達を見下ろし、指を差して言い放った。

「さあ、こうなったらあんた達は手出しできないわね。さっさとここから立ち去りなさい!」

「や、野郎ども、退却だ!退却〜」

山賊たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。それを見た般若は安堵あんどのため息を吐き、すーと地上に降りた。安心したのか彼女は、その場にぺたんと座り込んでしまった。

岩陰から様子を見ていた2人が、拍手をして般若のもとへ駆け寄ってきた。

「すごーい!やったね般若。」

「うんうん、すごいわ。まさか空まで飛んじゃうなんて、これで修行の2段階目は終了ね。」

般若は2人を、にらみつけた。そして目からじわじわと涙をあふれさせ、大きな声で泣きじゃくった。

「うえーん!もう、死んじゃうと思ったんだからね。修行するならするって言ってよ〜ばかばかばか!」

羅刹はそれを見て、般若を優しく抱きしめた。

「ごめんね、般若。これも試練なんだ、わたしも夜叉姫もこれを乗り越えて仲間になったんだ。これであなたも私達の仲間よ、私達3人は家族なんだよ。」

「仲間・・・家族・・・」

般若は思った、なんて暖かいんだろう。初めて聞く言葉なのに心が、ぽかぽかする。羅刹の母性に包まれて、彼女は泣くのを止めた。

「ところで、夜叉姫は?」

般若がたずねると、羅刹は周りを見渡した、さっきまでここに居たのに。

「変ね、どこ行ったのかしら?」


 逃げていた山賊たちが足を止め、息も落ちつからないまま呟いた。

「な、なんだい・・・まったく・・・夢でもみているようだったぜ・・・」

そこへ1つの影が現れた、夜叉姫だ。彼女はにっこり笑い、山賊達に手を振っている。

「はあ〜い、おじさん達。ひさしぶりだね!もう6年になるかな、あたしの事おぼえてる?」

山賊の頭領らしき男が夜叉姫を指差し、わなわなと震えている。

「お、お前は・・・あの時のガキ・・・」

夜叉姫は、にっこり笑って答える。

「お!覚えてくれてたんだ〜嬉しいなあ。どこかで見たことがある顔だと思ってたんだよね、ここでもおじさん達山賊してたんだ。」

それは夜叉姫が、9歳。羅刹が般若と同じ12歳の頃、今回と同じ夜叉姫が修行をしていた時に現れた山賊達だった。結果はもちろん、覚醒した夜叉姫にこてんぱんにやられ、命からがら逃げ出した。

その時の恐怖がまた蘇った。

「再会の挨拶はここまでにしておいて・・・よくもあたしの妹を泣かせたわね。またボコボコにされたい?それとも・・・」

山賊達は青ざめている、今日は厄日だと言わんばかりに。

「ま、まってくれ!あんたの妹だって分かってりゃあんなことしてないって!わ、わかったから金目の物は置いていくから勘弁してくれ。」

彼らは持っていた剣や、拳銃。それと、ありったけの金を置いて一目散に逃げ出した。夜叉姫はそれらを拾い集め、羅刹たちの居るところへ帰っていった。


 暫くすると夜叉姫が帰ってきた、両手に荷物をいっぱい抱えて。

「ただいまー。」

「ちょっとどこ行ってたのよ、ていうか何その荷物?」

羅刹は、夜叉姫が抱えている荷物を見てぎょっとした。

「ああ、これね。向こうに落ちてたんだ、拾ってきたの。」

「ふーん、落ちてたね・・・」

羅刹は夜叉姫をみて、この子またやったわね。と、言いそうになったが止めておいた。これだけの物でも、換金すれば幾らかになりそうだから。

するとそこへ、般若が夜叉姫の所に駆け寄って、恥ずかしそうにたずねた。

「ねえ〜夜叉姫。わたしと羅刹と夜叉姫は家族だよね?」

夜叉姫はかかんで、般若と目線を合わせてにっこり微笑んで答えた。

「当ったり前じゃない!あたしら3人は家族だよ。羅刹が長女で、あたしが次女。んで、般若が三女の末っ子さんだよ。」

般若はそれを聞いて少し考えた。そして夜叉姫に言う。

「夜叉姫が、わたしのお姉さん?それはどうかしら・・・」

夜叉姫が、不思議そうな顔をして返答する。

「え、なんで?あたしの方が年上だから、お姉さんじゃないの?」

「そりゃあ年は上だけど、精神年齢は私の方が上よ?わたしの方がお姉さんじゃない!」

夜叉姫は少し、むっとして立ち上がった。そして般若を指差してこう言った。

「なによ!あたしの方がおねえさんなんです〜、あんたなんか泣き虫でチビっこいくせに〜」

般若もまた、むっとして手足をジタバタさせながら怒っている。

「いったわね〜気にしてる事を!なにさ、あんたなんか胸がチビっこいじゃない!」

「あー胸の事いったね!ムキー腹立つ、ムカつくー!」

 2人が、なにさ、なによと言い合っているところへ羅刹が止めに入る。

「はいはい、もう喧嘩しないの。」

2人は口を揃えて、羅刹に言い放った。

「うるさい!だまってて。」

すると羅刹のこめかみが、ピクっとなり、その瞬間暗黒のオーラがこの辺り一帯を包んだ。

「ねえ・・・今、なんて言ったの?・・・よく聞こえなかったんだけど・・・もう1度いってくれる・・・」

夜叉姫は青ざめた、もう何度も経験している。般若は初めてなのだが、本能が危険と感じ取った。そして2人は口を揃えて言う。

「いえ!なんでもありません。お姉さま!」

この辺りの動物達は危険を感じたのだろうか、次々とこの場から離れていく。

「あんたたち・・・まだ喧嘩するつもりなの・・・?」

「いえ、もうしません!わたしたちはとっても仲良しです!」

2人は手を取り合って、抱き合っている。その瞬間、暗黒のオーラがなくなり穏やかな空気が満ちてきた。

「もう〜だめよ喧嘩なんかしちゃ。あなた達が本気で喧嘩したら、私絶対止められないんだから。」

いえ、大丈夫です。あなたが最強ですから、と2人は思ったが口には出さない。

「もうすぐ食事が出来るわよ、みんな手伝って。」

2人は、はいと元気よく返事をして羅刹のそばに駆け寄った。



 こうして旅の1日目が過ぎていった。夜叉姫と般若は食事をしながら思った、あのオーラに立ち向かうことが修行の最終過程だったらどうしようと。



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