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青年と少年と少女と。  作者: シュレディンガーの羊
【本編】
4/5

月光。



青年は後ろ手にドアを閉めた。

窓から差し込む月の光が、暗い自室を淡く照らす。

電気をつけようと、スイッチに手を伸ばしてやめる。

夜の空気が心地好かった。

椅子を引き寄せて腰を下ろす。

同時に微かなため息が零れた。

まさか、あんなことを言われるとは思わなかった。

夜の自室は昼間と何も変わらない。

ただ深く影を落としている。

それを拒むように目を閉じた。




傷を理解しようなんて、そんな傲慢なことを思ったわけではなかった。

けれど同情し慰めることはしたくなかった。

限りなく無責任でも「大丈夫」と、少女を抱きしめてあげたかった。

痛々しくも笑う少女を、泣かせてあげたかった。

取り繕うことなんて、慣れているはずだった。

なのに、どうして大切な時には何も言えないのだろう。

気づけば「ごめんね」と呟いていた。


「僕は君に何ができるんだろう」


声の震えを必死に隠してそう笑う。

はっと顔を上げた少女は、泣きそうな顔でかぶりを振った。


「違う、違うの」


繰り返される言葉はしだいに大きくなる。

気づけば、少女に抱きしめられていた。


「違うの、傍にいて欲しいだけなの。隣にいて、消えたりしないで」


少女の華奢な腕は震えを直に伝える。

その震えがどうしようかなく愛しくなって、「ありがとう」とすぐ下にある頭を抱く。

ゆっくりと少女が体を離した。

大好きだから、傍にいてほしいの――少女は花咲くように微笑んだ。

部屋を出ると廊下の壁に背を預けて、少年が立っていた。

少年は床から視線を上げずに口を開く。


「俺はここにずっといるつもりなんてない。でも、お前らといるのは好きだ」


少年は顔を上げて、青年を見た。

――だから、感謝してる。




目を開ける。

自室の様子は変わりない。

ただ、月明かりが強くなった。

そんな気がした。

ずっと。

いつ、死んでも構わない。

そう思っていた。

諦めにも近い感情があったことを、自覚していた。

でも、生きたいと思わせられた。

辛いことも悲しいことも、そんなの世界の何処にでもある。

あの二人は強く生きたいと言った。

そして、隣という場所をくれた。

……もう死にたいなんて言えないな。

苦笑を浮かべる。

生きていくという重荷。

逃げられないという苦痛。

けれど、だからって諦めなくていい。

無関心はもうやめよう。

この命はもう一人ではないから。

青年は微笑む。


「もう明けない夜は願わないよ」


月が静かに青年の顔を照らす。

穏やかな月光は青年の答えに笑うように揺れた。



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