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詰め合わせ。  作者: ゆきみね
愉快なシューベン家と共に!
8/42

ところで、「ベルの場合2」

 クレアのお菓子の買出しに付き添って、俺は今、街で有名な菓子店に来ている。本来なら厨房の人間に頼んで買ってきてもらえばいいのだが、やはり自分で選ぶのが楽しいらしい。今日は何の予定も無かったから別に構わない。しかし巷の女子に人気のこの可愛らしいピンク壁の菓子店で、18の男が妹と2人きりで買い物している図は、なんとも言い難い。

「……クレア、外で待ってる」

「うん、先に帰ったりしないでね、ベル兄様」

「心配しなくてもボーっとしてる」

 クレアの許可を得て、広い店の外に出ることにした。しかし店の玄関に近づいたところで、ドンッと目の前の女性にぶつかった。

「っと、すみません!」

 自分の肩に当たって、濃紺のワンピースを着た小柄な女性がよろけてしまい、慌ててその女性の肩を抱いた。

「あ、ありがとうございます。前を見ていなくて…すみません」

 女性は体勢を立て直し、ぺこりと頭を下げて謝る。お菓子を入れる編みかごを両手で抱えている姿は、まるで花摘みから戻ってきた農家の娘のようだった。

「ベル兄様! もう、兄様は筋肉ダルマなんですから気を付けてください!」

 一連の流れを見ていたクレアがトトトッと駆けよって来て、女性に謝る。

「うちの兄様がすみません、お怪我はありませんか?」

「いえ、大丈夫です……って、あら? クレアさん?」

「サリュエナさん!」

 女性の顔を確認したクレアが嬉しそうに女性の名前を呼ぶ。

「クレア、知り合いか?」

「はい、アンティーク雑貨屋さんを経営してる、サリュエナさんです。サリュエナさん、こちらの筋肉ダルマが兄のベルです」

 また筋肉ダルマと口にして、クレアがサリュエナさんに紹介をする。筋肉ダルマと連呼されると、仮に悪意がなかったのだとしても段々傷ついていくということをこの妹に知ってほしい。

「そうだったんですか。初めまして、私サリュエナと申します。いつもロイさんとクレアさんにはご贔屓にしてもらっています」

 そんな思春期真っ盛りの男の気持ちなど知るはずもなく、サリュエナさんはふわりと笑って自己紹介した。こちらも慌てて自己紹介する。

「ベル・シューベンです。いつもうちの兄妹がお世話になっています。お怪我が無くて良かったです」

「私の方こそ、きちんと前を見ていなくてごめんなさい。今日明日久しぶりにお店を開ける予定だから、張り切って買い込んでしまって」

 サリュエナさんは恥ずかしそうに笑う。

「今日明日、お店お開けになるんですか?」

 クレアがきらきらとした目で問いかける。どうやらサリュエナさんがやっているお店は不定期営業のようだ。

「はい、宜しければ来てくださいね」

 ぱぁあっと笑顔の広がったクレアが「はい!」と返事をしたところで、「サリュー!会計するなら早くしないと、きちんと列に並んでもらうわよ!」とレジの方から声がかかった。

「お店の方もお知り合いなんですか?」

「えぇ、私の人生のお師匠様みたいな方です。ちょっと口うるさいけど、いい人なんですよ」

「一言多いよ、サリュー!」

「……そして地獄耳なんです。もう、今行きますから!」

 そしてサリュエナさんがレジに向かおうとした時だった。

「今日明日はお店開いてるんですね」

 サリュエナさんの肩がビクンッとはねた。

「こんにちはサリュエナさん、こんなところで会えるなんて奇遇ですね」

「なんで居るんだ、ロイ兄さん」

「なんで居るのかしら、ロイ兄様」

 我らがシューベン家の長男、ロイ兄さんが満面の笑みでサリュエナさんの後ろに立っていた。何故満面の笑み。

「ロ、ロイさん。奇遇です、ね……?」

 語尾に疑問符をつけ、サリュエナさんがやや引きつった顔でロイ兄さんに笑顔を返す。

「えぇ、奇遇ですね。今日明日明後日は三連休で学校もないでしょう?ティーもサリアに会えなくて暇だろうと思って、一緒に街に遊びに来ていたところなんです」

 誰も聞いていないのに、ロイ兄さんが満面の笑みを維持したまま「何故ここに居るのか」を説明する。しかしティーの為と言う割には、ティーの姿がない。

「ロイ兄さん、ティーは?」

「あれ、居ない?」

 はた、と気付いたようにロイ兄さんが辺りを見回す。しかし店内にティーと思しき少年の姿はない。クレアが「え、ロイ兄様、もしかして置いてきたんですか!?」と叫ぶ。「そうかも」とロイ兄さんが暢気に返す。

(この人は一体街に何をしに来たんだろう……)

 ロイ兄さんに代わって慌てるクレアを落ち着かせ、俺は深いため息を吐いて、今頃1人でわたわたしている弟を探すために店を出たのだった。








 ティーはロイが街中を歩きまわる為だけの口実だった事を知っているのは、家で留守番している次男と、ティーを口実に使った長男本人だけだった。


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