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詰め合わせ。  作者: ゆきみね
しぇいも!
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とっても簡単、誰でも出来ちゃう、

「わ、私にそっちの趣味はないですっ!」

 ふるふると首を振りながら出来るだけ退くが、もう既にテーブルの下に後退する余地は無い。逃げ場を無くした私を追い詰めるように、リタが笑顔でにじり寄ってくる。

「心配なさらないでシエンさん。そっちの趣味が無くても、開花させることなんて簡単です」

「とっても聞きたくないです……!」

 全力で遠慮するが、リタは「まぁまぁそう言わずに」と勝手に「とっても簡単、誰でも出来ちゃう、そっちの趣味の開花方法!」をつらつらと説明し始めた。

「兄は生粋のドエスです。相手がエムだろうとエスだろうとノーマルだろうと構わず苛めます。そんな生粋のドエスに目を付けられてしまえば、幾らエムっ気の無いノーマルの方でも逃れるのは難しいです。ストレスはたまるしイライラするし、どこかにぶつけたくなってしまいます。ですからそんな時こそ私です、私にその全てをぶつけて下さればいいのですわ。兄は目を付けた相手を苛めることが出来ますし、シエンさんはストレスを発散できますし、私は悦に入れます。この方法、一見シエンさんが兄に対してノーマルのままなので「どこが開花方法?」と思われがちですが、私に対してはドエスとして開花することが出来るんです……! 人間は相手に蔑まれ苛められる事には中々慣れなくても、相手を蔑み苛めることには簡単に慣れちゃうんですもの! そうやって最初の抵抗さえ乗り切れば、ほら簡単、そっちの趣味が開花しました! 誰も損をしないこの方法、はまらない人なんていませんわ!」

「凄い理屈! でも嫌です! まず私とキトルさんの間にリタさんが期待するような事は起きてません……!」

 起きかけたが、それを言うとややこしくなるので「起きていない」とだけ宣言した。するとそれを聞いたリタがとても残念そうに「えぇ~?」と零した。あぁ、そうやって気の抜けた声を零すとなんとも年下らしくて可愛らしい。ドエム属性の危ない子だという事を忘れかけられる。だが視界に入る受信機が私を現実に引き戻す。うん、やっぱり変態さんだ。そんなリタはまだ納得していないような顔をしたままだが、渋々机の下からスイッと身を出した。私を追い詰めていた彼女が居なくなったことで、机の下に幾分かの余裕が生まれた。私はその余裕分前へお尻で移動し、机の外で膝をつくリタを見上げる。リタは頬に手をあて「うーん」と呻っている。

「本当に何とも思っていませんの……? 私的には兄だったら嬉しかったんですけど……」

「えぇっと、残念ながら……」

「うぅん、でしたらあとはファソンさんしか残っていませんよね? あぁ、ファソンさんですか……」

 自らファソンの名前を出した途端、晴れない表情で考え込むリタ。私はその様子を見て、生まれた疑問をそのまま口にした。

「リタはどうしても私と誰かとくっつけたいんですね……?」

「そんなところで何してるの?」

 突然の第三者の声に、私はガタッと身を震わした。そしてバコンッと頭を打ち付けた。あぁ、忘れてた。ここテーブルの下でした。とてもいい音がした。

「ちょっ、大丈夫シエンちゃん!?」

「っう……だ、大丈夫です……ところでパスタは無事ですか……」

 余りの打ち付け方に、私はテーブルの上に乗っていたパスタの安否を確認する。零れてたらどうしよう。するとリタがスッと立ち上がり、テーブルの上を確認してくれる。

「パスタは大丈夫です。にしても、自分の心配よりパスタの心配をするシエンさん……エムの仲間い、」

「リタうるさいよ」

 うふふ、と笑い出しそうになったリタの言葉を、私が頭を打ち付けた原因である第三者であり、話題に出ていたファソンがぴしゃりと切った。ファソンは眉間に皺を寄せている。

「リタはいいからパスタをリビングに運んでおいで。シエンちゃんはそこから出てきて? 一応頭を確認しないとね」

「……そうですね。ではシエンさんをよろしくお願いしますファソンさん」

 リタは不満げに少し頬を膨らませ、パスタを一気に3つ抱えて台所から出て行った。よくあの細腕で3つも同時に皿を抱えられるものだ。私はリタを見送った後、ファソンの手招きに従ってよいしょ、とテーブルから身を出した。すると滑らかな生地をまとったファソンの腕がスルッと腰を抱いた。

「わっ」

 驚く間もなく、そのまま持ち上げられ、テーブルの上に座らされる。

「えっえっ」

「はい大人しくして。怪我が無いから確認するから」

 そう言ってファソンは私の足の間に割り込み、真上から私の頭部に顔を寄せた。「あぁ、怪我の有無の確認をするんだよね」と自覚すると同時に、私はある事に気が付いた。近い。

(近い! これは近い! ど、どうして真正面に陣取って真上から覗き込むの!? ずれて横からでもよくない?! ち、近い……!)

 幾らなんでもこの距離は照れずにはいられない。だがファソンは私のグルグルとした混乱など知る由もなく、優しい手つきで丁寧に怪我を確認してくれている。申し訳なさでいっぱいだ。

「うん、特に腫れては無いね。凄いいい音がしたから吃驚したけど」

 怪我の確認を終えたファソンが身を離し、にっこり笑む。私はファソンの身が離れたことにホッとし、ぺこりと頭を下げ、心配をかけた事を謝ろうとした。が、

「そういえばさっき、私の名前が呼ばれた気がしたんだけど?」

 リタとの話は聞かれていないものだと思っていたのに、突然の本人による話題復活に、これでもかというほど目が丸くなった。下げていた頭をガバッと上げ全力で否定する。

「よよよ、呼んでません! 呼んでません!」

「どうしたのシエンちゃん、顔赤いよ?」

「いえ、大丈夫です! ご飯、ご飯食べに行きましょう! 冷めちゃいます!」

 私はファソンを押しのけテーブルから飛び降り、彼を待たずに慌ただしく台所から出る。

(ど、どこから聞かれてたんだろう……!)

 熱くなった頬を冷やすように両手ではさみ、私は羞恥にまみれながらリビングへと早足で向かった。


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