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詰め合わせ。  作者: ゆきみね
しぇいも!
33/42

ファソンは、

 それから私は約束通り3日に1回お向かいさんの家を訪れている。最初はかなり戸惑ったし、嫌々訪れる日々が続いた。しかし街中で沢山の人と付き合うよりは、この3人とだけ付き合えばいいのだと考えたら、幾分か気が軽くなった。当初のお1人様生活から大分予定は狂ってしまったが、淡々と送っている日々のちょっとした刺激だと思えば、なんてことは無い。

(誰とも話さない生活って、思ったより寂しかったしね……)

 その刺激の相手が濃いキャラばかりなのが何とも言えないが。

 そう、あの3人はセクハラ魔のチャーリーだけでなく、全員、全員キャラが濃いのである。


**


「シエンちゃんは、好きな人とか恋人とか、居るのかな?」

 日常と化した食糧配達の帰り際、食用の鳥と戯れていた所に突然降ってわいた声に、私はビクッと身体を震わせた。内容もそうだが、何分その声は、しゃがみこんだ私の頭の真上から降ってきたのだから、驚くのも当然だ。私はギギギッと音が鳴るのではないかと言うほど首を反り返らせ、頭上の人と視線を合わせる。

「と、突然何ですか……っていうか、いつからそこに居たんですか」

 あまりに吃驚して思わず鳥の首を絞めそうになった。危険を察した鳥がすぐさま逃げなければ、今夜の晩御飯は肉料理になる所だった。

「今しがた来たところ。シエンちゃんが窓の外に見えたから挨拶しようと思って。うるさいチャーリーも居ないし、ついでに何か下世話な事聞いてみようと思って」

「どちらも居ませんよ。本当に下世話ですね……」

 私が「そんな人居たらこんなとこ来ませんよ」と付け加えると、ファソンは「確かに」と笑って私の頭上から頭をどけた。そして長い黒髪を頭の動きに合わせてサラリと揺れらしながら、「よいしょ」と私の左横にしゃがみこんだ。今日のファソンの服装も、たっぷりとした柔らかな白の1枚布で出来た、民族衣装のようなものだ。余裕をもって作られたその服はしゃがんだら裾や長い袖が汚れそうだが、ファソンは特に気にした様子は無い。それどころか話を続ける素振りもせず、逃げた鳥を呼び寄せ撫で始めた。なので、私はここぞとばかりにファソンを観察することにした。

 最近やっと慣れたが、やはり右頬と鎖骨に沿うように描かれた棘の刺青が目立つ。裏社会の人間を彷彿とさせるその刺青は、近寄りがたいと思うのが普通だろう。しかしファソンはまとう雰囲気や態度からも柔和な美青年という印象を与え、そこまで警戒心を抱かせない。スイッと視線を移した先にある、後ろで結わえられた黒髪は、艶々しているだけでなく、サラサラともしていた。きっとその手触りは絹のようなのだろう。一度でいいから触ってみたいものだ。

 こうやってまじまじとファソンを見つめていると、ファソンの容姿について色々と質問したい衝動にかられる。ここは無難に髪の美しさについて質問しようと思ったが、せっかくだしと、自分の疑問に素直に従うことにした。

「……ファソンさんの刺青って、趣味ですか?」

 ファソンだってさっき私に無遠慮な事を聞いたのだから、これくらい良いだろう。ファソンは鳥を撫でたまま、「うん?」と返事をする。お互いに暫く沈黙していたから、一瞬何の話か分からなかったようだ。

「あぁ、この刺青? これは、そうだねぇ。趣味と言うか、性癖と言うか」

「……ん?」

 なんか今、ファソンから聞こえるべきではない単語が聞こえた気がした。性癖?性癖って、性癖?

「若気の至りが高じた、刺青依存症?」

「……ん?」

 それってぽろり、と零していい内容だろうか。というか、話題提供の選択肢、間違えた気がする。依存症だなんて暴露されたら「素敵な刺青ですね!」等とは安易に言えない。どう返すべきか迷っていると、ファソンが「あぁ、気にしないで」と苦笑いする。

「幼馴染みに怒られてからはやめたから。これ以上刺青が成長することは無いから大丈夫」

「そ、それは良かったです……。えと、幼馴染みって、チャーリーとかキトルさんですか? 皆さん仲良いですよね」

 ここぞとばかりに話題を転換しにかかる。刺青についてはもう深く聞くまい。実を言うと3人の関係性が気になっていたから、ちょうどいい機会だ。

「私とキトルは確かに幼馴染みだけど、諌めてくれたのは別の幼馴染み。チャーリーは、その別の幼馴染みの家で働いていたんだ。そこで知り合った」

 撫でられることに飽きたのか、鳥がトトトッと向こうに行ってしまい、ファソンは手持無沙汰に掌を握ったり開いたりしている。視線はその掌に向いていて、こちらを向くことは無い。

「え、じゃあチャーリー、こんなとこ居ていいんですか? そっちのお仕事は……」

「私達は本来皆違う仕事をしてるんだ。でも今回はそっちを皆休ませてもらってこっちに来てるから、心配いらないよ」

「……わざわざ本来のお仕事休んでまで、何のおしご、」

「喉乾かない? お茶が冷えてるよ」

 はぐらかされた。あまりに不自然に、だけどばっさりとはぐらかされた。私は小声で「ずるい」と不満をこぼすが、裾の汚れを払い立ち上がるファソンの雰囲気は、それ以上仕事についての話は聞かないと言っている。仕方ないので素直にファソンの後に続いてお宅にお邪魔することにした。先程食糧を届けてお暇したばかりなのだが、喉が渇いていたのは事実だから甘えることにする。

「そういえばすっかり忘れてたんですけど、ファソンさんって、正確には幾つなんですか?」

 自己紹介の時にチャーリーがみんなまとめて20代半ば位と言っていたが、あまりにアバウトすぎる。3人の関係性の話題も途切れたので、この際ファソンのプロフィールを根堀は堀聞きこむことにする。

「私は28だよ。20代半ばというより、後半だね」

「そうなんですか? あまり年上に見えませんでした」

 ファソンと10も離れていることに驚きつつも、私は鳥と豚を囲っている柵を跨ごうとしておもむろに足を上げた。今日はショートパンツを履いているので見える心配もない。すると先に柵の外に出ていたファソンが左手を差し伸べてくれた。私はお礼を言ってその手を取る。支えてくれるのだろうと思ったからだ。だが。

「!」

「シエンちゃんは軽いね。はい、足元気を付けて」

 重ねた手を引っ張りあげるように持ち上げられたかと思うと、空いている手で腰を支えられ、あまりにも軽々と柵の外へと運び出された。

「あ、ありがとうございます……」

 私は自分の頬が少し赤くなるのを感じながら謝意を述べる。「どういたしまして」とほほ笑むファソンは、まるでプレーボーイだ。さらりとやってのけるのだから、何ともスマートである。

「……ファソンさんって、身長も3人の中で1番大きいですよね」

 たった今ひょいっと持ち上げられたことや、こうやって並んで歩き始めても少し見上げなければいけないことから気が付いた。今まであまり気にしていなかったが、結構な体格差である。

「年齢も身長も3人の中で1番なんだ。身の丈は180あるよ」

「180…!? 大きいなとは思ってましたけど、私と20も違うんですね……」

 私が驚いて目を丸くしていると、ファソンがくすりと笑いをこぼした。そして。

「まぁ、一応立派な成人男性だしね。勿論他の部分も、他の2人より大きいけれど?」

 なんだか怪しい発言は聞こえなかったことにしました。なんでこのお向かいさん達は毎回毎回爆弾発言を投下していくんでしょうか。


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