交換条件で、
「えぇ、シエン様は刻一刻と、秒刻みで美しくなっていっているんです!!」
ファソンに折るぞと脅されてからどこかに行っていたチャーリーが、満面の笑みを携え、また意味の分からない事を叫びながらリビングに入ってきた。入って来るなりこれなのだから、もう、存在を無視してしまいたい。そもそも出会ってまだ3日だというのに、何故こんな高いテンションと変態性で接してこれるのだろうか。甚だ疑問である。
「チャーリーさ、じゃなくて、チャーリー」
「! はいシエン様!」
ぱぁああっと笑みを輝かせ、チャーリーがキトルの側で膝を折る私に駆け寄る。
「あぁ、もうっ。キトルさん寝てるんですから、そんな大きい声出さないで下さい」
「心がけますね!」
その割にでかい声で返してくるこの人は、一体どうしたらいいんだろう。私はハァ、とため息を吐いて、「それと」と付け加える。
「あんまり近寄らないで下さい、身の危険を感じるので」
私はそそっとチャーリーと距離を取り、そのまま反対側のソファまで移動し、ファソンの横に腰かけた。するとファソンさんが「どうぞ」とお茶を淹れたてティーカップを差し出してくれる。そっと口を近づけると、ふわりと甘い果実の香りがした。なんだかほっとする香りである。ここまで気遣ってくれるなんて、まるで紳士の鑑である。それに比べ、見た目は紳士なのに言動が酷いチャーリーはどうなんだ、とそちらに目をやる。と、チャーリーは見るからに、しょぼん、と落ち込んでいた。その場にへたり込んでうるうるっとした目でこちらを見ている。まるで捨てられるのが確実と決まった子犬のように、物凄く落ち込んでいた。
「そ、そんな目で見ないで下さい。私が悪いみたいじゃないですかっ……」
極力声を抑えて自分の無罪を主張する。セクハラしてきた男に近づくなと主張するのは、決して間違っていないはずだ。だがチャーリーはその潤ませた瞳を逸らすことなく、ジッとこちらを見つめている。
「ど、どうしたら近づいてもいいんですか……?」
必死に。あまりにも必死にチャーリーが尋ねてくる。チャーリーは右手で自分のシャツの胸元をぎゅっと握りしめている。その姿があまりに切ない。私はかられる必要のない罪悪感にかられながら、今や定番となった救いの視線をファソンに投げかけた。が、サラッと無視された。視線は合った。視線は合ったのだが、ファソンは「頑張れ」と言いた気にニコリと笑みをこぼし、そのままお茶を飲む行為に移ってしまった。なんという事だ、見捨てられた。私は仕方なしにチャーリーに視線を戻す。
「セ、セクハラしないで下さい……」
どうにか伝われこの思い、と私は心の中で念じながらチャーリーに要求する。が。
「心がけます!」
さっきと同じ種類の表面だけの返事が返ってきた。これは気のせいでしょうか、いいえ気のせいではありませんね。
「セ、セクハラされる限り嫌ですっ……」
私がティーカップを持つ手に力を入れてそう答えると、チャーリーが「うぅっ」と切なそうに声をあげた。しばらく考え込んだ後、「わ、かりました」となんとか声を振り絞った。
「あまりベタベタしないように、頑張ります……」
いつの間にか膝の上に移動した手にグッと力を込めていたところを見ると、あまり頼りない返事だったが、信用してもいいかもしれない。近づけないよりは仕方ないと、妥協してくれたのだ。
私がホッとして言葉を返そうとしたその矢先。
「でも、僕は、セクハラだなんて思ってなかったんです……」
この人本格的にやばい。




