自己紹介を
「あぁ、お向かいさんだったんだね」
「え、あ、はい……」
刺青の男性が微笑みながら、「どうぞ」とティーカップを目の前のテーブルに置いた。
あの後、半ば強制的にお向かいさん家のリビングに連れ込まれた。木目を基調とした彼らのリビングには大きめの白いソファが向かい合わせに置いてあった。部屋の奥側のソファ周辺に美形3人が陣取ったので、流れでもう一方のソファに腰掛けてしまった。
そして今、私は視線を泳がせながら、出されたお茶をすすっていた。4人の間に会話は無く、ただ静かにお茶をすすっているだけなのだ。
「え、えと。お名前、うかがっても良いですか?」
段々居たたまれなくなってきたので、何とか話題を提供してみた。すると先ほどの紳士の顔をした変態さんが、恥ずかしそうに口を開いた。彼はいつの間にか私のソファの右横に回っていた。
「なんていう名前だと思いますー?」
「……チャーリー?」
とりあえず何か答えるべきとの場の空気を読んで、適当に答えてみた。白髪の男性が「何故チャーリー」と突っ込むが、チャーリーと呼ばれた変態さんは、「正解!」と嬉し恥ずかしそうに答えた。それに白髪の男性が「嘘言え!」と噛み付く。
「え、いやいや、私だって何となく、で言ったんですよ? え、違いますよね? あの、訂正してくださって全く構いませんので!」
私が慌てふためいていると、向かいのソファに静かに座っていた刺青の男性が「あはは」と笑った。
「なに言ってるんだい、キトル。彼はむかーしむかしからチャーリーだろう? あ、因みに私はファソンだ、よろしくね」
さりげなく自分の自己紹介をして、刺青の男性、ファソンは笑った。(やっぱり柔和な面持ちの美形さんだなぁ)なんてことを考えていると、ファソンの後ろでつまらなそうに佇んでいた男性が口を開いた。
「俺はキトルだ」
そう自己紹介したのが、さっき転びかけた時に助けてくれた白髪の男性。彼は常に眉間に皺がよっていて、少しばかり強面の美形だ。取りあえず彼の方を直視しないようにしながら、覚えた名前を声に出して確認してみる。
「チャーリーさんにファソンさんにキトルさん、ですね」
「間違ってもキルトとか呼ぶんじゃないぞ」
キトルが眉間に皺を寄せたまま微笑む。何故彼は人の考えていることが分かるのだろうと、私は苦笑いした。