お向かいさん達は
「こらこら、何してるんだい君は。ごめんね、驚いたでしょう」
訳が分からず混乱していると、奥から更に人が現れたようで、突然抱きついて来た男をベリッと引っ剥がしてくれた。変態から解放され、私は自由になった頭を勢いよく下げてお礼を言う。
「いえ、大丈夫です! ありがとうございます」
「ふふ、悪いのはこいつだから気にしないで」
男性がゆるりと笑った。少し視線を上げると、男性の腰辺りが視界に入る。その服はあまり見かけない独特な服だった。たっぷりとした柔らかな白の1枚布で身を包んでいて、黒の腰帯で布の流れを調整している。
(民族衣装とかなのかな)
そう思いながら更に視線を上にあげる。すると男性の半円状に肌蹴た胸元からは、鎖骨に沿うように描かれた棘の刺青がのぞいていた。
(……やばい!?)
身体に刺青を入れている人など、「その手の人」が大半だ。私は焦りから反射的に顔を上げて、そして硬直した。
危険人物の香りがする男性は、長い黒髪を後ろで結わえ、耳の高さまでのびる前髪を真ん中で分けていた。案の定顔、右頬にも棘の刺青が入っている。しかしそれだけならまだ吃驚して恐がるだけで済んだ。その男性はその手の強面という予想に反して、顔貌の整った、柔和な面持ちの美青年だった。
「どうしたのかな」
「え、あ! すすす、すみませ……!」
固定していた視線を逃げるようにバッと横に逸らして、私はまた固まった。視線の先には、さっき私に抱きついていただろうと思われる変態さん。その変態さんはワイシャツに黒のベストとズボンで、まるで紳士のいでたちをしていた。そして金の短髪に包まれたその顔もまた、乙女を撃ち抜く美形のものだった。
「うえ、え!?」
急に現れた美青年2人に驚いて、思わず後ずさった。すると当然、後ろにあった階段との境目を踏み外し、
「あぶなっ……!」
後ろからボフッと誰かに抱きとめられた。声は男性だった。この家の住人の内の1人かもしれない。
「あ、ありがとうございま……!」
慌てて振り返ると、その人は首元から斜め下へとボタンの付いたの白い上着に、黒いスラックスのようなズボンを履いていた。東国に、こういう服を今でも着る人がいたな…等と思いつつ、その男性の顔に視線をあわせると。
「……またっ!?」
ウェーブのかかった顎までの白髪と、顔の脇の1本だけ長い3つ編みが特徴の、美青年だった。