表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詰め合わせ。  作者: ゆきみね
愉快なシューベン家と共に!
2/42

実は私、

「僕のサリアを知りませんか」

 いつ誰がお前のものになった。

 思わずヒクッと上がった口角を無理矢理ただし、私は「見かけてませんね…」と苦し紛れに返した。


 私には特定一部の人間にしか打ち明けていない秘密があった。当然特定一部に含まれない彼には秘密を明かしてはいなかった。が、

「サリアはとっても可愛い子なんです。セミロングの黒髪が歩く度に揺れて、クリアブルーの瞳がとてもきらきらしていて。それはそれは男心をくすぐるっていうか…。兎にも角にも将来有望だから、その辺をふらつかせておくと悪い大人に引っかかってしまうかもしれない。そんなことになったら僕はもう自制がきかないんじゃないかと思っています。だってあの子は13にしてあんなに大人びていて、尚且つまだ子供のあどけなさを残していて、とても愛くるしいったらないんですから。今はペッタンコだけど、それも成長に伴って修正されていくと思っています」

 ここまで来たら、もう暴露させてほしくなる。言わなかった私が悪いかったんです、だからもうやめてください、熱のこもった目で13歳の少女の可愛さを熱弁しないで下さい。13歳でペッタンコなのは仕方ないんです、放っておいてあげてください……。

「だから、見つけたら教えて貰えます? 今どこで何をしているかと思うと気が気じゃないので」

「え? え、えぇ、わかりました…」

 一瞬飛んでいた思考をなんとか引き戻し、私が苦笑いを返すと、愛を語り終えた彼はにっこり笑って石畳の向こうへと去っていった。その男はロイ・シューベン、見た目こそ20代前半だが、正真正銘の32歳独身。


(こんな一面知りたくなかった…)

 私、サリュエナ・ルーは大きくため息を吐いた。私は今、ウェーブのかかった黒髪をハーフアップにし、濃紺のワンピースを身にまとっている。見た目の年齢も20歳くらいで、ぼんきゅっぼんとまではいかないものの、大人の女性らしい体つきをしているという自負はある。だからいくらサリアとの見た目に共通性があっても、自分から彼に秘密を暴露しない限り気付かれないだろうと信じていた。だが、さっきの愛の語りっぷりを見ると、「本当に気づいていない」のか、「気づいていないふりをした羞恥プレイ」なのかわからなくなる。後者ならなんて拷問だ。

(こんな仕打ちを受ける位なら、もういっそ言ってしまいたい…!)

 サリアとサリュエナは同一人物である、と。


 見た目の年齢をいじれる、それがサリュエナの秘密だ。とどのつまり魔女である。魔女とは忌避されるものでは無いが、希少で貴重な存在であるため、多くの魔女が自分が魔女であることを隠しながら生きているのが現状だ。たまに公にしている人達もいるが、その人達はバックに大きな貴族が付いていたりして、身の安全が保障されているからそういうことが出来る。一般の魔女が自分は魔女だなどと宣言したら、次の日から魔女という存在を慕ったり物珍しさで訪れたりする人々に家の周りを埋め尽くされ、外に出ることもままならなくなるだろう。その中には魔女を自分のものにしようという危ない人間もいるので、尚更公言する者は少ない。

 そうやって魔女であることを隠していても、所詮は人間。食い扶持を稼いで生きて行かなくてはいけない。だから大半の魔女は、気の合う魔女同士でコミュニティを形成して情報を交換しながら、個々特有の能力を密かに用いて生活していた。

 私自身もこの秘密を生かし、今までいろんな仕事をこなしてきた。今回はとある商家の方から、息子の学校での身辺警護を依頼された。故に一番手っ取り早い方法として、13歳の娘の姿になり、側に控えることにしたのだ。勿論依頼者と自分の間には仲介人がいるので、依頼者も息子も私の秘密は知らない。せいぜい「13歳にしては強い女の子」くらいの認識だろう。曲がりなりにも軍や傭兵部隊を擁している国なので、魔女と疑うよりも、そっちだと認識した方が現実味がはっきりするものなのだ。


 こうやって魔女はなんとか存在を隠しながら一生懸命生きている。だから簡単に魔女だと公言するつもりは実際無い。

(でもあんなに幼女に期待をかけられたら、魔女どころか、実は20歳だなんて絶対言えない……)

 20歳といえば、まだまだ女も盛りだし、と今までは大した年齢詐欺ではないと思っていた。しかし13の娘に愛を語る男に、実は20歳です!なんて言ったら、とりあえず陽の目を拝めなくなりそうで怖い。

 ぶるりと身を震わして、ロイの姿を思い描く。ロイはサリュエナの仕事の対象である、14歳のティー・シューベンの兄だ。身長は170位、少し長めだがさっぱりとした茶色い髪と茶色い瞳を持つ童顔で美形な男性である。性格も温厚で人当たりがよい。実に好ましい男性だ。更に言うなら依頼者の息子の一人なのだから、それなりに地位のある人間なのだが、一切偉ぶったりしないところも好ましいと思っていた。普段からサリアをティーの護衛兼友人として大事に扱っていてくれたこともあって、自分がひどく懐いて自覚はあった。


(だけどやっぱりロリコン…)

 ロイとティーの歳が離れすぎなのも結構気になるが、それは問題ではない。問題は20歳近く離れた弟と近い年の娘に愛を語ることである。

 サリアで居る時は一切見かなかったロイの一面に、引かずにはいられないサリュエナだった。人間必ず何か隠し事があるものだが、性癖の隠し事ほど怖いものは無い。年齢詐欺だなんてまだまだ優しい方だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ