ついに、「ロイの場合3」
弟に言われてやっと気づいたことがある。サリュエナ自身に好きですと言って、それからサリアの秘密を知っているといった方が、格段に手っ取り早かったのではないか、と。
「……」
後の祭りとはこういう事を言う。
「だからロイはサリュエナさんに良い顔されないんだよ?」
「……」
「そんな方法でアプローチとか、それってサリアちゃんの事はバレてないと思ってるサリュエナさんにとっては、「この人ロリコン……!?」ってなって当然じゃない?」
「……」
「大体さぁ、なんでそういう風にアプローチしちゃうかなぁ? 普通に考えてみてもさ、好きな子の前で、他の女の人のことをめちゃくちゃ褒めるって、有り得ないでしょ? ロリコン疑惑が生まれたなら尚更近づき難いじゃない。これだからロイはいつまで経っても結婚で、」
「もうその辺でやめてくださいクイット、世界がにじんできました」
そっと目頭を押さえて、自室の机に突っ伏す。机周りには仕事の書類と個人的な書類、そしてサリュエナに関しての調査書が散乱していた。どれもこれも、自分がしばらく外出していた間にクイットがやったものだ。まさかこんなに散らかされた上に、サリュエナの書類を発見されるとは思っていなかった。「前回は見付けらなかったんだけど、やっと今回見付けたんだ」と、満面の笑みで喋るクイットを見て、一見のらりくらりと生きている弟をなめていたことを反省した。
「今からでもきちんと話してみれば? 何もしないでこのままロリコン疑惑を深めていくよりは、いい方向に進むかもよ」
まぁ落ち込まないでよ、とクイットがポンポンッと肩をたたいてくる。
「それにサリュエナさんがダメだったとしても次があるじゃない!」
「サリュエナさんが好きなんです……」
励ましのつもりで掛けられたであろう言葉に、更にがっくりと肩を落とす。お付き合いしている女性が次から次へと変わるクイットにしてみれば、AがダメならB!の思考で全く構わないのだろう。だがクイットと違って恋愛慣れしていない自分は、サリュエナに振られてすぐに次の人を好きになることは出来ない。きっとダラダラとサリュエナへの想いを引きずる。それに直ぐに次へと行動が出来ていれば、この歳まで独身など貫いていない。
「32歳まで独身引きずるとこうなるのか。私も早い内に身を固めた方がいいのかもしれないね」
「クイットは結婚する前に刺されるから心配いりませんよ」
ボソッと呟かれた言葉にボソッと嫌味を返してみるが、クイットは気にせず先ほどの話を再開する。
「ロイの話に戻すけど。取りあえず、1度きちんとサリュエナさんに秘密を知っていることを話した方がいいね」
「そう、ですね……」
「何、そのやる気のない返事。私がサリュエナさんにアタックしに行ってもい、」
「来週の土曜日辺りはどうでしょう、来週の土曜日も午後からお店開くらしいのですが!」
「じゃあ来週」
クイットにだけは手を出されるわけにはいかないと焦って返事をしたせいで、一世一代のプロポーズの日付が、弟の掌の上で決められていた。
こんなまぶしい笑顔を見せられて、次は何をされるのだろうと、気が気ではない休日の夜だった。