精霊達の真実
少しは本題にかすってくれたかな……?
「王は権力を求めるがために、見て見ぬふりをしていたわ。自分から望んでなったものもいたけれど、残り半分くらいは無理矢理入れられた、という方が正しいの。」
私は驚きを隠しきれなかった。自分の住んでいる国がそんなもので成り立っているのかと思うと嫌だった。
「王宮は強力な結界が張られていて、人外の者が入ると悪影響を及ぼすの。ひとたび貴女がの奏霊弔者であるとばれたなら王宮に入ることは免れない。私達にとっても奏霊弔者にとっても両者は生きる糧とも等しい存在。そして貴女も例外ではないわ。」
彼女が言うには、このことで世界の秩序は守られるらしい。
妖精達の心遣いは嬉しい。
だが、私は思う。
―――守られたい訳ではないのだ。
それに――――
「――――私が奏霊弔者だということは変えようのない事実だわ。」
前に進まなければ何も変わらない。進むことでの失敗なんて仕方のないことだ。
今大切なのは――――
「――――志を強く持つこと。今の私にできることはそれだけよ。見つかることを恐れてばかりじゃ何もできないわ。だから私はここには残らない。」
私の一言で妖精は驚いた顔をした。
「………忘れていたわ。私達は奏霊弔者を保護する事しか頭になかったわ。………ほんと、クレア様に似てるわね。」
「似ている?私とクレア・バズ・デーランが………?」
クレア・バズ・デーランとは、神の担い手クレアと言われた彼女のあまり知られていない旧姓だ。
「ええ、似ているわ。………仕方ない。私達は貴女の意志を尊重するわ。」
(あれ?………妖精は一人で決定や決断をしないはず。決断するのは―――)
そこに一陣の風が吹いた。
ふわり、と
懐かしい匂いがした。
と、ともに別方向から人の気配がした。
(こんな所に人?)
ここに来てから祖父や兄達以外の人を見かけることはなかった。
少し離れた所に村があるらしいが、こちらにはあまり来る事がないとも聞く。
誰だろう、と思って振り返る。
「…あなたは………。」
そこに立っていたのは――。
「やっと見つけた。」
「――ハーレイ。どうして、ここに………。」
数日前に会ったばかりの彼がいた。
あんな別れ方して顔を合わせづらい。
もう会うことはない、と思っていたのに…。
私に関わると私にとっても、彼にとっても良くない。
どうしたものか、と彼を見る。だが、何か足りない。
「あれ?ヴィオラは?」
そう、いつも一緒にいる感じの彼女の姿が見当たらない。
「ああ、あいつは――――」
「――――人間。どうしてここに来た。」
何かを言いかけたハーレイ。
それを遮った迫力ある声。
女性の声なのだが、明かに威嚇を表した声だ。
えっ?、と振り返る。
と、そこに立っていたのは―――
「―――あなた、さっきの妖精!?」
だが、先ほどまでの小さい妖精の姿ではなかった。
顔立ちは同じなのだが、明らかに今の方が大人びてみえる。
そして周りには始めから一緒になって群がっていた他の妖精達が彼女を守るようにして飛んでいた。
「ええ、そうよ。」
そう答えた彼女から漂ってくる仄かな香。
それがどこか懐かしかった。
「モニカ、あれは?」
ハーレイが指しているあれとは妖精だった彼女のことだろう。
彼女の周りの妖精は、ハーレイが表れた時点で彼には見えないように姿を隠していた。
当然、奏霊弔者である私には見えるのだが……。
だからといって私にその質問が答えられるわけもない。
なぜなら、彼女は今し方まで妖精だったのだ。
だが、今は妖精ではない。
この姿は―――
「人間風情が私の事を指差すな。私は誇り高き精霊よ。」
「―――精霊…」
まさか、精霊が姿を偽って、妖精の姿になっているなんて思いもしなかった。
「お前、ここから私を連れて行くつもり?」
あれ?っと思った。
(私、彼女達に名前を教えてないはずなのに……。)
「……ならどうする。」
なぜかハーレイは精霊を挑発するような言葉を言う。
「ここからは出て行かぬつもりか。」
その問いに彼は頷き返す。
「ならば消えろ。」
瞬時に気温が下がった。
私は瞬時にヤバイと思った。
私には強力な結界を張ることができる。
だが、精霊の魔法壁が私の周りに張り巡らされており手を出せない。
「――っ……逃げてっ!」
精霊から目を外し、ハーレイの方を見る。
彼も身の危険を感じたのだろう。身を強張らせていた。
ああ、だめだ。
彼は精霊の魔力に充てられている。
逃げられない。
精霊から放たれた力の塊はハーレイに向かって一直線に向かっている。
目の前に起こるであろう惨事を予測し、私は反射的に目を閉じてしまった。
だが、想像していた音はしない。
代わりに、何かが弾けて跳ね返す音がした。
「え?」
目を開けば、そこに映った物を見て思わず素っ頓狂な声がでた。
致命的な一撃を受けていると予測していた彼には、なんの外傷もなく。
ただそこに立っていた。
いや、突っ立っていた、という方が正しい。
おそらく、彼も訳が分からないのだろう。
戸惑った顔をしていた。
「何故私の攻撃が効かないの。私の攻撃は同一の力を持つ者、もしくはそれ以上の者でなければ防げないはずなのに!」
精霊が言った言葉にハッとした。
そういえば。
ハーレイとの別れ際、彼に守りの魔法を掛けた。
あれのおかげだったのだろうか?
だが、あれは国守り一人のモノよりは強いが、簡単なモノだ。
そんなモノで精霊の力を防げるとは、私も思っていない。
何故
という疑問が残るが、私は精霊の魔法壁が緩んだ隙にハーレイに駆け寄る。
「ハーレイ」
そう呼べばすぐさま彼はこちらを振り返った。
「モニカ……」
何とも言えない戸惑った表情だった。
いつも優しいが、毅然とした表情をしていた彼からはとても想像できなかったので瞠目した。
「ねえ、どうしてこの人を傷つけるの。さっき、私の意見を尊重すると言ったじゃない。」
元は妖精の姿をしていた精霊。
彼女に向かって言った。
初めと言っていたことが違う。
「そいつは王家の血を引いている。あの虫酸が走る、血をね。」
すると、思ってもいなかった言葉を聞いた。
位は高い高いとは思っていたが、そこまでとは思いもしなかったのだ。
それに、よっぽど不快なのだろうか、精霊は顔を歪めて吐き捨てるように言い放った。
「―――ハーレイが王族……」
それも、直系に近いのだろう。
私の呟いた言葉に反応するかのように、彼の肩はぴくりと揺れた気がした。
「でも、だからと言って彼を攻撃しないで。王族かどうかなんて関係ないわ。ハーレイは私の命の恩人よ。」
微妙に本題にかすりました(苦笑)