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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
始まりの言葉
4/30

真実

モニカの過去がチラリと?

―――――――――


薄暗いのにじめじめしていなく、地に落ちた乾燥した葉がこすれあいカサカサと音をたてる。


「たしか、この辺りだったはずなんだけど。」


あれから支度をしてからすぐに出かけた。月華の森へと。

馬車は身動きがとりにくいので馬を使い出かけた。


だが私が4日前に通ったらしき道を見つけたが自信がない。


するとヴィオラが馬からひょいと、飛び降りた。


「う〜ん。あまり馬の後などは残っていないですわね。」


地面を手で少し触り呟いた。


口調も姿もどこかのお姫様を思わせ彼女。

だがそれに似合わず乗馬などが上手かった。


「…この先少し行けば湿地があるはずだ。運が良ければそこに手がかりかあるはず。幸い、雨は降っていないから。」


少し思案する風に言ったのはハーレイだ。


本当に彼等は何者なのだろう。

自分は二人に助けられた身なので余計な詮索はしないようにしているが、やはり気になるものは気になるのだだった。


何かをしていないといろいろ余計なことを考えてしまいそうだ。

私は頭を一振りするとハーレイの言葉に二人で頷いて、先へと進んだ。


この乾いた森にある湿地だ。他の所のと比べてもそれほどぬかるんではいないのだろう。だが、地に後が残るはず。


もしかしたらないのかもしれない。手がかりが。


淡い期待だが、あって欲しい。


そう、私は祈るような思いで先へと馬を進めた。


――――――――――


「――着いた。ここからが湿地だよ。所々ぬかるみがあるから足を取られないように気をつけて。」


先に馬を進めていたハーレイがこちらを振り返り、言う。

まるで小さい子供に、あそこへは行ってはダメよと、言い聞かせてくる母親のようだ。

私にしてみれば、もう一人兄ができたような心境だ。




――兄


私を助けるために逃がした兄さん。

待ってて。必ず探し出して助けてみせるから。


兄さんが強いのは知っている。だが心配だ。

だって家族なのだから。



馬から降りて二人と別行動をしていた。一人暗闇へと進む。その時、何かが光った。


迷わずくさむらへと手を伸ばす。


それは意図も簡単に見つかった。

「これは、兄様の眼鏡……。」

どうしてと、呟く。


ヒビが入り、傷つき、泥が付いていた。フレームは治し用がないくらいに曲がっている。


それは馬の足跡が辺りにたくさん付いている場所に落ちていた。


それを再確認した私の顔からはサーと血の気が引いていく感覚。


「――兄様、嘘でしょう…。」


時が止まったかのように感じた。

まるで世界にただ一人突っ立っているかのような孤独感。


グラリと身体が傾く。


だが、確かに自分の身体…のはずなのに、そうではないようにぼんやりと感じる。


――ああ、私はなんて浅ましいの


――兄すらも失った


―私の近くにあるものが、私のせいで消えてゆく、失ってゆく


目尻から涙が零れた。


途端、私の視界は目まぐるしく変化を遂げた。



頬に当たるのは固くも温かい何か。



「大丈夫、フィオーラは無事だから。大丈夫、心配ないよ。」



頭上から降ってくる優しい声。


「……ハーレイ?」


「うん。」


その優しい声でぼんやりと感じていたのが嘘のように、頭がはっきりしてきた。


自分が今いるのは彼の腕の中。

つまり抱きしめられ、支えられている状況。


おそらく、身体が傾いだ時に抱きしめられたのだろう。


「―――どうして…」


私は目の前の青年を仰ぎ見た。


「?心配だったからこっちに後から向かっただけだけど…。」


「違うわ!どうして兄の名前を知っているの!?」



私は一切兄の名前を口に出していない。



なのに彼の唇が紡いだ名前。

それは偶然などで紡がれることなど絶対にないはずの名前。



いくら助けてくれた人達でも私は名乗らなかった。

家はまあまあ名の知れたものだ。そうやすやすと名乗ったがため、家族や屋敷の者に危険が及ぶ場合があってはこまる。


それに、兄は王子の側近だ。元は騎士団長だった。それだけに、名は知れ渡っているばずだ。


ハーレイとヴィオラに心配され、笑顔を向けられた時には良心を苛まれたが、名は尋ねられなければ名乗らないと決めていた。


だが、結局尋ねられてはいない。

だから知らないはずだった。


なのに……。


そこまで考えてはっとした。


「………なた、貴方、まさか…兄様を襲ったの!?


疑心暗鬼にとらわれていた。


「落ち着いて、落ち着いて、モニカ!!」


彼が両肩に手を置き落ち着かせようと揺さぶる。


「なんで襲ったのよ!兄様を返して!!なんで、……………どうして……また……私から大切な人を奪うのよう!」


髪を振り乱して、絞り出すような声。


最後の方は嗚咽混じりだった。


「モニカ、聞いて。俺はフィオーラの知り合いなんだ。だから眼鏡を見ただけでもわかる。」


地べたに座り込んでしまった私と視線を同じくして言う。


「……嘘よ。そんなの嘘。」


それでも弱々しく首を振り続ける。


「……もし俺が敵だったら、モニカを助けたりしない。」


だから信じて、と言う。


先ほどから身体が熱くなってくる。この感覚には覚えがあった。


だめだ。

このまま力を使っては。


頭ではわかっているはずなのにどうしようもない。


その異変にハーレイも気付いた。


「モニカ?」


風もないのに銀の髪が舞い上がる。


力が暴走しする前触れだ。

このままでは二人を巻き添えにしてしまう。


敵なのに……


そう思いながらも身体は素直だった。口を突いて出た言葉それは――――


「――――に、げて、…お願い、逃げて。」


彼等を心配する言葉だった。


上手く動かない身体で必死に彼を押しのけようとする。


が、ハーレイは一向に動く様子がない。


「―――だめ…っ!」


身体からあふれる力は、全ての者には強すぎる力。


いつもは制御できているのに……私の声や感情の増長によって左右される。



このままじゃあの時みたいに……。


唐突に目の前が真っ暗になった。

唇には温かい物が当たっている。


――な、に


おどろいて瞠目する。


すると、それは唐突にに離れた。


「ほら、大丈夫。」


ね、っと笑いかけてくる。


私の思考回路は一時停止した後、状況を理解した。


「―――な、な……なにすんのよ!!」


顔に朱が走るのがわかる。


「なにって、……収まっただろう?大丈夫。」


そう言われてみれば……


「……収まったわ。」


そこではっとする。


「でも、……!!」


「でもはナシ。」


尚も食い下がる私の唇に人差し指を彼は当てた。


「……っ!」


「それにしても俺のことを疑うなんて酷いなあ。少し、いや、かなり傷ついたよ。」


「…………貴方、本当に違うの?」


優しく微笑みながらも、私に疑われて傷ついたと言う彼。

かなりの優男に見えるのに、していることは目茶苦茶だ。


「ああ。違う。俺はフィオーラの知り合いだ。っていうか親友?」


なぜに疑問形?などとも思ったがあえて口にはしなかった。


「信じていいのね、貴方を。」


再度確認するかのように尋ねる。


「もちろん。」


聞くまでもなく、返ってきた返事は自信満々げだった。


なんだろう。

なにか頭に引っ掛かる。


そうだった。


「ねえ、なんで兄様の名前だけじゃなく私の名前まで知ってるの?」


私の名前はあまり知られていない。というか、伏せられている。


兄も、自分の知り合いにすら教えていないはずだ。


「ん?ああ、それは―――」


「―――何年もの付き合いなのに、フィオーラが私達に貴女のことをいつまでも黙っているから、調べましたのよ。」


ハーレの言葉を遮るように次を言ったのはどこからともなく現れたヴィオラだった。


彼女は少しご立腹のご様子だ。



「やあ、ヴィオラ。ちゃんとそっちは探したのか?」


ハーレイは、ヴィオラが立腹なのを知ってか知らずかなんでもない風に言う。


「私のことをお聞きになる前に貴方はどうなんですの。その前に離れてくださいませ。」


近づいてきならそんなことを言い、そばまで来るとハーレイの腕の中でいた私を取り返すように奪い返す。


「大丈夫です?何もされていません?」


彼女より少し背の低い私に目線を合わせて問い掛けてくる。




「ええと……はい。」



なくは無い、が。言える訳が無かった。

それに、自称チキンハートの私にはそんな度胸もない。


そして、どうしていきなりここに来たのかと思ったが、彼女は難無くそれを口にした。


「心配しましたわ。いきなり雲行きは怪しくなるし、強風が吹いて来るし、ろくでなしは居ませんでしたもの。」


「あっ。」


思わず声を上げてしまった。


辺りを見渡し空を仰ぎ見る。


薄暗い色をした雲は少しずつ遠退いていくものの、風は一向に治まらない。


私のせいだ。


私が我を失って、力を暴走させてしまったから……。


すると指先に何か温かい物が当たり、搦め捕られて握り込まれた。


それは、ヴィオラに分からない程度に近づいたハーレイの手だった。


強すぎず弱すぎず。心地好い温かさ。


彼が一体私の何処まで知っているのかは分からない、が心配し、気遣ってくれていることは分かった。

いくら暴走を止めるためだと分かっていたとしても、キスをされたのは頂けないが……。


覇気のなかった顔に少し朱が走る。


ファーストキスだったのになあ。


それは辛い。


だが、それ以上に嫌悪感を感じない自分に疑問を持つ。


なぜなのだろう?


「………もうそろそろ屋敷に帰ろうか。だんだんと肌寒くなってきたことだし。」


さりげなく自分の着ていた上着を私の肩に羽織らせながら言った。


まだ夏だとはいえ、夕方になると気温が急激に下がる。もう秋と言ってもいいくらいだ。


私は手の中の壊れた眼鏡を大切に抱え、ハーレイの意見に賛同したヴィオラは優しく私の肩を抱いた。当然それはハーレの上着を落とすためで、ペチリと彼に投げ返していた。




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