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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
永久《トワ》の安らぎ永遠の音色
30/30

二度目痛感

9/17 の更新です。

「じゃぁ、お姉さんはレクイエムじゃないんだね、国守りなの?」


「まぁ……どれでもないわ。」



この子は私が今作業中なのを忘れてないか、と疑問をもつが、きっと忘れているだろうと判断する。



「どれでもない?そんなばかな!だってお姉さん―――」


「―――しぃっ!!だまって。『――汝の名はモニカ。汝の名はモニカ。聞こえし我が守り手よ、今ここに集まりたまえ。』」



魔法陣が一気に膨張するかのように広がり、瞬くような光を発する。

その時私はしっかりと男の子の手を握る。もう一人にさせないように。






――――――――――――






元から集まっていた野次馬が拍車を掛けたように増えたのは、一人の少女が炎の中に飛び込んでからだ。

周りの空気は不安に揺れ、もう助からないだろうと口々に言う者までいる始末。その言葉を耳にした一人が叫ぶ。

それは、中に息子がまだいるんだと泣いていた女性。まだ頬は涙に濡れ、眉は下がっていたが、だが確かに瞳は諦めていないのだと訴える。



「あんたは信じられないのかい。信じて待ってもいないやつがこんな所で嬢ちゃんを待つんじゃないよ!そんなただの野次馬根性丸出しのあんたがこんな所にいたってこっちはちっとも嬉しくないね!今すぐここを出ておいき!―――他にも言ったやつもだよ!」



なまじりは釣り上がり瞳はそこ知れぬ鋭さを感じさせる。

ただの泣いているだけの女性かと思っていた周りの者は驚く。そしてそれに気圧された幾人かは悔しそうに早足に立ち去る。



「そうね、ほかにもいたのじゃなくて?私は他にも言った者を見掛けましたわ。」



ねえ、と言っていた者数人に視線を向ける新たな登場人物。

灰色の髪にシンプルだが上品な装いをしている少女。

それを目にした隊員は目を見開く。



「「「ヴィオラ様!?」」」



幸いなのか不運なのか、ヴィオラに言われ逃げるように立ち去った者はその名を聞くことはなかった。

そして名を呼ばれても肯定も否定もしなかった。だが中には沈黙を肯定と受け取る者もいた。



「中には誰がいるの。」


「私の息子と、助けに入った少女が……。」


「そう……。」



一度も炎から目を離すことなく二人はやり取りを交わす。



「隊員は救急道具を手配してあるわね。」


「はい!ここに用意しております。」



それを聞いたヴィオラは目を閉じる。次に開いた時の瞳は灰色から赤になっていた。

その事に彼女の後ろにいた者は気づかない。だが、それより前に出ていた隊員は気付きギョッと目を見開くも、状況を理解して詰めていた息を吐き出す。



「久方ぶりにネイン様を見たぞ。」


「前に見たのはいつだったか。」


「2ヶ月前じゃね?」


「ばか!半年前だ。」



ヒソヒソと話す彼らの声は丸聞こえ。

しかしそれを敢えて聞こえないふりで通す彼女、ネインもどちらかと言えば生まれ持った性分だ。付け加えるならば自分からはめったと話し掛けない。興味を示すものがなければ基本無視だ。そして気まぐれ。

悪く言えば自分勝手、良く言えば物静か、と言う所。


そんな彼女が誰に言うでも無く、目を開いて言った。



「………来た。」



その瞳が据えられるのは炎の中。だが確かに炎の中の何かを捕らえていた。見えるはずのない何かを。


一瞬、全て者には時間が緩やかに止まったかのように感じた。高く飛んだ物が落下する前に空中で停滞し、落ちてくるあの間のように。

それに動揺しなかったのはネインただ一人。



そして時はまた時間を刻み始める。


ただ、出来事の前と違ったのは、彼女の腕に二人の人間が抱えられていたことだった。






――――――――――――






―――お姉さんはいつ起きる?


―――ん、そうですわね………あなたが幸せそうに笑っていれば目を覚ましますわ。



微かに聞こえるその声を聞けば、そんな事あるか!?と言う様な内容が語られていた。

誰だか知らないが、その“目の覚まさないお姉さん”は責任重大だな、と笑う。

しかし両者とも聞き覚えのある声で、一人は小さい男の子の様な声。もう一人は少女の声だ。

それも独特の。


ぐっと力を入れ、あまり感覚の感じられない自分の身体を起きあがらす。

目の前には案の定見知った顔があった。



「な、な、なんで私にそんなに責任重大な事押し付けるの!」


「あら、目を覚ましましたわね。―――ほら、あなたのおかげでモニカが目を覚ましましたわ。」


「ほんとだ。王女さまも凄いね。なんで分かったの?」



なんて無邪気なんだろう。逆に突っ込む気も失せた。

しかし男の子はそんな様子に気付いた様子もなく真に受けている。

しかし何かを聞き逃した感じがする。スールーしてしまってはいけない何かを……。



「――……はっえっ!王女様!!」


「あら、今さらだわ。」


「ちょっとまって!!今さらも何も、私は今初めて聞いたわ。」


「だって言ってなかったんですもの。」


「いや、そこは言いましょうよ……。」


「モニカを信じて待っていたんですわ。」


「信じる以前の問題だと思うのだけれど……。」



もはや頭をもたげてしまった



「それじゃあヴィオラはハーレイと―――」


「―――兄妹になりますわ。年子になりますの。」


「なんだ………。そうだったの。」



今の今まで勘違いをしていた自分が恥ずかしい。ベルシアの近くの屋敷で侍女に言われた言葉をようやく飲み込む事ができた。仲が良い、と言うのは決して恋人同士でと言う訳ではなく、兄妹としてだったのだろう。

それに翌々考えれば髪の色も瞳の色も全く同じで、似通っている。どうして今まで気づかなかったのかが不思議なくらいだ。



「お姉さん、もう大丈夫?」


「!!あなた……。」


「うん。助けてくれてありがとう、お姉さん。」



男の子に言われる“お姉さん”と言う言葉が何だかむず痒い。

兄妹は二人っきりだし、私より下はいないのでその呼び名は新鮮だ。



「ねえ、その……お姉さんっていうの恥ずかしいから名前で呼ばない?」


「名前で?」


「そうよ。私の名前はモニカ。改めまして宜しくね。」


「うん!!僕の名前はアリス。よろしく。」


「アリス君?」



男の子でアリスと言う名は初めて聞いた。けれど意外に似合うものだとも思う。

彼の目はクルリと大きく、下手をすれば私より大きいかもしれない。そして鼻筋は整っており、綺麗な顔立ちをしている。


可愛い顔ね、なんて言えば気を損ねてしまうかもしれない。


危うくそれを言わない内に口を手で押さえる。二人にはうろん気な視線を向けられたが、笑ってごまかした。



「それよりここは何処なの?見た感じ、何処かのお屋敷って感じがするけど……。」


「あ、ここ僕の家だよ。って言ってもお母さんの家の方なんだ。」


「お母さんは?」


「今はここにはいないよ。」



そう言えば叔母さんには助けると啖呵を切るも、ろくに助けられてない。ああ言った手前、顔が合わせずらいのも事実。



「お母さんとお父さんは一緒には住んでいないんだ。だからここにはお母さんがいないんだ。」


「それってやっぱり、………。」


「仲が悪いって訳でもないんだ。むしろ仲が良いくらい。だけど一緒には住むことができない。」



仲が悪いの?と言う言葉を寸前で飲み込むも言いたい事は伝わったらしい。むしろ私が気を使わせてしまったようだ。

伏し目がちに事の経緯を話すアリスには色々と思う所があるのだろう。眉間に僅かなからシワが寄っている。


それを深く尋ねていいのか分からなくて、私は口ごもった。



「お姉さんもしかして気にしてる?」


「え、いやっ。そんなことは……。」


「大丈夫だよ。何でも聞いてくれても。」



「命の恩人だからっ」そう言って笑う彼が、とても私の目には強く映る。



「すごいのね、アリス君。」



その言葉に「どうして?」と首を傾げる彼に「とても強いから。」と言うと少しはにみ、小さく歯を見せながら笑う。



「でもあの炎から抜け出した時にネイン姉さんが居たことにはビックリしたけど。」


「お姉さん?がいるの?」


「あれ、知らない?そこに居るでしょ?」



そう言って指差す先はヴィオラ。

当の本人はどこ吹く風だ。



「……ヴィオラが。」


「そうだよ。」


「じゃあアリス君は……」


「御察っしの通り、立派じゃないけど第二王子です!」





本当に、人生はそう上手くはいかないのだと思い知らされた。


そしてその後らこれよりさらにそれを身を以って実感する事になるなど思ってもみなかった。




前ね投稿から大分経ちました。

掲載遅れて大変申し訳ありません。次回は春風の更新です。


9月17日の更新でした

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