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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
永久《トワ》の安らぎ永遠の音色
28/30

傍観の行く末

7/15(金)

の更新


尚も私は言い募る。


「ああいう感情は、誰もが持っているものだわ。だけど、負の感情は他人やその人本人に悪影響を及ぼすものよ。持つな、とは言わないわ。だけどそれを一人で抱えるのはやめて。」



私は改めて自分が口不調法な事を思い知る。

結局会話の主旨が上手く言えない。



「あはは、」



「な、何よ。」



突然こちらを向いて笑ってくるものなので、つい焦った。


けれどもグレファーはとても楽しそうに笑う。



「ぁは、だってねぇ。……でも、誰もがそんな考えを有しているわけではないのよ。それをモニカは分かってる?」



笑っていた時とは一見、ガラリと雰囲気は打って変わり、何とも言えない顔をしたグレファー。



「それは、この世界に生まれた時点で理解しているつもりよ。」



「そ、う。ならいいけど。……それから―――」



瞳に現れるのは悲しみ。

顔に滲み出るのは悔しさ。


その動きは何処か怠慢で。


彼女はゆっくりと降下して、私に近づいて来た。


そしていつもの通り肩に乗る。





―――ごめんなさい。





声にならない声が聞こえた気がした。

















(眠れない……)



ゴロンと寝返りを幾度となく打った。



それでも眠気が訪れる事はなく、むしろますます目が冴えるばかり。




こういう時はいつもより感覚が研ぎ澄まされている。


よく気配を探ると、何やら下の階が騒がしい事に気づいた。




(何事かしら?)




気になって仕方ないのて、そっとベッドを抜け出す。



まず先にネイラーの部屋に明かりがまだ灯っている事に気付き、そっと近付く。



「――もうそろ…、潮時…、……かしら?」



あまり良くは聞こえないが、ネイラーの声だった。



(潮時?…なにが…、…。)





ガチャ




そのまま一人考え耽ってしまっていたらしい。


私が気付いた時にはすでに遅く、部屋のドアが開く所だった。


隠れようと心みるも、そんな努力など虚しく中から人が現れた。



「立ち聞きするくらいなら、始めから中に顔を出しなさい。」



呆れた風にそんな事を言うのは、勿論ネイラーだ。


一方、私はと言うと。

ばれた事を恥ずかしいと思うも、やはり気配を消していてもネイラーには分かるんだと納得。



促されて室内に足を踏み入れた私は、思わぬものを目にするはめになった。



「………。」



「?どうしたの。」



驚きのあまり声も出ない私。


そんな私に話しかけるネイラーの言葉すら頭には入って来ない。



数秒の沈黙を守った私は、意を決してその真意を確かめるべく言葉を発した。



「……ネイラー、この藁人形はナニ?」




そう、藁人形。


まだ普通の藁人形なら良かった。いや、良くはないが……。


だが、今私の目の前に有るソレは、ご丁寧にもフードを被った上、何体もある。

ざっと両手では足りるほどだが、等身大ほどの大きさの藁人形が何体もあってはますます異様な光景だ。


極めつけは、その全ての格好が違っていると言う所。

リボンを付けているのも有れば、眼鏡を掛けているのまである。



(ちょ、ちょびヒゲ…)



フードから覗く顔を見てから後悔したのは言うまでもない。



その異様な光景に絶句している私は更に驚く事となった。



なんとその藁人形、動いたのだ。


まるで人間のように。



「ね、ネイラー……。」



一歩、また一歩と近付いてくるそれに焦って、私はネイラーに助けを求める。


だが振り返った先のネイラーは緩く笑みを浮かべたままこう言った。



「じゃあ、あなた達の目的は達成したでしょう?満足したなら今まで以上に頑張ってもらうわよ。」



「……御意。デハ、我ラハ行ク。」



機械的な声が何とも言えない。


怖くはないが、その異質な存在に得体の知れ無さが私を警戒させるには十分だった。



私の前に出たネイラーの裾をクイッと引けば、彼女は大丈夫だと言う。





そして嵐は去った。





静寂の満ちる室内。

外からは何の物音もしない。


当然と言えば当然だろう。


今は深夜だ。




今だに、目にしたが非現実的すぎて頭がフリーズしている。



(藁人形が、…服着て、立って、動いて、喋って……、えっ?)



思わず頭を抱えてしまいそうになる。



「ほら、後の事はあの子達に任せて。私達は傍観に徹しましょうか。」



(相変わらず、脈絡の無さが何とも……)


そう思わずにはいられないが、気になる単語を聞いた気がする。



「あの子達?」



聞き捨てならない一言だ。


まるで可愛い子供に言うようなそれに思わず食いつく。



「そうよね。まだ会った事無かったのね。あの子達は私の子よ。」



「ぅえっ!?」



どういう事だと詰め寄れば、少し語弊は含むけど、と陽気な返事。



「藁人形が子供的な存在って……。」



つくづく、私を基準にして考えると、彼女は決定的に何かが違うようだと改めて認識せざるをえない。





しかし、よくよく考えれば藁人形に気を取られて、ネイラーの言った“傍観に徹する”という宣言を聞き逃していた事に私は気付いたのだ。


だが、尋ねはしなかった。


尋ねた所で、思いどうりの返答が合った試しはなく。むしろ何の脈絡もない言葉が返って来るか、答えてくれないかのどれかだ。



彼女の言葉は、ある程度時が経てば見えてくるものばかり。


意味を知りたくば時を待つ必要があるのだった。













あれから3日目―――



「―――変化なし。」



ネイラーは傍観だとか言っていたが、第一傍観するようなモノも無い。



いつも通りの町並みで、これと言った騒ぎもなく、この華影の拠点も至って平和。




何もないじゃない。そう思っている矢先だった。






「王宮から煙りが!!」


誰かがそう叫んだ。



街の活気が揺らぎ、至る所で悲鳴が上がる。


今まで歩いていた人々が立ち止まり王宮を振り仰ぐ。



だれもがその光景に釘付けだった。



短期間宮仕えしていた私には分かる。あれは焼却炉の辺りだ。

赤い髪の少年と出会った場所。

その周辺には林があったはず。



当然そんな所に火の手が回れば大事だ。


ただ救いはこの季節は湿気が多い、と言うこと。

乾燥している冬の季節より、幾分かはましだろう。



「大丈夫、よね……。」



兄は城には居るが、まずこの火事に巻き込まれたとは考えにくい。それに、兄の管轄ではないはずなので安心して大丈夫だろう。


出会った人々面々を思い返してみるが、巻き込まれる心配はないだろうと決めつけた時だった。


一人だけ居た。

正確に、何処に居るのかは分からないが。王宮の何処かに居るであろう彼女―――



「―――ヴィオラっ!!」



私はそう叫ぶと共に走り出していた。









向かうは王宮。


ヴィオラの元。





句切の良いここらで一旦更新。


ネイラーの個性がチラリと垣間見えています。

等身大の藁人形……。

自分で執筆しつつ、チョビひげのある藁人形に少々ドン引きしました。



そして、お気に入り登録、小説評価(ポイントを入れて下さった方)して下さった方、ありがとうございました。


7月15日の更新でした。


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