知りたくて
7/3(日)
の更新
一般の人は知り得ない事。
むしろ物語に出て来る登場人物、としか思っていないだろう。
だからこそ王族からしか聞き得た事のない存在に、興味を示す事は不思議ではない。
まあ、割と女性の中で花影の名は浸透してはいるが‥‥。
どうやらこの時代。女性の社会進出を目指す人達からの注目が絶えないのだ。
なぜなら花影の頭首は実力行使主義で、代々女性のほうが地位が高かった。
なんでも花影の技術は、力のない女性でも努力しだいで容易に扱えるような物に開発されている。
いわば女性のために出来たような物だ。
花影が引き受けるのは、これが国のためになる。と判断し、自分の正義を貫くためにある。
ネイラーに聞いた事があった。
「どうしてあんなに頑張るの?」と。
「花影は、社会で虐げられた人達ばかりなのよ。」たから頑張るの、と言われた。
ぼんやりと、訓練所での影の訓練を見ていた私は、何度も相手に向かって行く女性に心を打たれた。
戦っている相手は男性だ。特有の腕力で女性を捩じ伏せる。
それでも彼女は諦めない。
自身の素早さと、身軽さを生かして何とか反撃を繰り出す。
そして、それは一瞬の出来事だった。
女性が相手の動きを利用して、地に叩き付けたのだ。自分よりも力のある男を。
私は呆気に取られ、それを見ていた。
心のどこかで、敵うはずないと思っていたから。
だが実際は違った。
力を物ともせず、彼女は相手を倒してしまった。
「す、すごい。」
意図せず口からは感嘆の声が漏れる。
それを横目にネイラーは言った。
「理由なんて、一見単純なのかもしれない。」、と続けて言うネイラーに、私は何も言えなかった。
それは虐げられたから頑張るのが、と言う意味なのか。
私には、そうであって、そうでないように聞こえた。
ただ分かる事は、彼女もその虐げられた内の一人だと言うこと。
いつも自信に満ち溢れ、余裕の表情を見せる事もしばしある彼女の言葉とは思えす、しばし私は口を閉じたのだった。
閉じていた瞳を開けば、目に映る銀色が見える。
風で煽られた私の銀髪。
息を飲んで私と光影のやり取りを見ていたビジィーラ。
なんの同様も無しに私達を傍観する花影。
そして私を王宮へ連れていこうとしる光影。
私はやれやれ、と息を吐き出す。
「悪いけれどお断りさせて頂くわ。」
どうやら彼は、私の返事を聞くまでもなく、その返事を予想していたようだ。
「では、我が主の事とは誰かをご存知で?」
私は何を分かりきった事を、と鼻で笑ってしまった。
「そんなの知らない人の方が珍しいくらいよ。」
「そうですか。では私が半国守りなのはご存知で?」
コイツは何が言いたいんだ。
そう思わずにはいられなかった。
「光影なんて、みんなそんなものでしょ?」
実はこの内容は国家機密だ。
何故そんな機密を、国の何も担っていない私が知っているかと言うと、そんなの簡単だ。
「なぜそれを?」と別段焦ったふうもない彼は、大体予想はしていたと見る。
「それは貴方が想像している通りだと思うけど。」
チラチラと花影の影を目を向ければ、目元しか出ていない装束。そこから覗く一対の瞳。
その瞳が「まだか」と問うてきているのを私は知っている。
そう、わたしの情報網。
それは花影から譲り受けるもの。
当日、ネイラーは言ったものだ。
「これは花影からの恩恵だと思いなさい」と。
悪いけど、私はこれ以上を光影と話す気は無かった。
「ビジィーラ。」
そして花影、光影共に表れてから口を開いていなかった兄の従者に声をかける。
「兄様には大丈夫だと伝えといて。私、今は会えない。‥‥きっと捜してくれてるんでしょう?」
毎度毎度、何かがあった度に過剰に心配する兄の事だ。
きっと従者であるビジィーラに捜索を頼んだろう。
「やっぱりと言うか、何と言うか‥‥。予想はしてたッスけど、帰らないんですね。」
私は頷く。
「なら俺が言う事は何もないですね。ただ、‥‥大丈夫だと、その言葉を本当にフィオーラ様に伝えていいんッスか。」
「‥‥‥心配かけたくない。」
「もう十分してますがね。」
ビジィーラに切り返された言葉に、うっと詰まる。
オブラートに包まれてはいるが暗に、これ以上心配かけようがかけまいが大差はないのだと。そう言われている気がする。
「なら本音を貰った方がフィオーラ様はよっぽど嬉しいと思いますが?きっと大丈夫、だなんて言った所で、それが上辺だけの言葉だと見透かされるとは思いますがね。」
本当にコイツは痛い所をついてくる。
自分に否があるのは分かっているので、全く反撃ができない。
この従者は至上主主義者だ。
主であるフィオーラを悩ます私には、容赦が無かったのは重々承知はしていたはずなのだが。
だが私にも譲れないモノがある。
「それでも、大丈夫だと言って欲しいの。大丈夫にするから私はこの言葉を兄様に届けてもらうの。兄様に宣言したからには“大丈夫”にするしかないじゃない?」
きっと大丈夫じゃないと思った日には、道は断たれる。
だから私は“大丈夫”だと言葉にする。
―――コトバは力となり、原動力となるから。
ついに折れたのはビジィーラだった。
「‥‥‥分かりましたよ。貴女がそう言うのでしたら信じましょう。貴女はあの人に言った事だけは守るんでしょうから。」
その言葉に私は笑った。
本当に私達兄妹を良く見ている。
「でしたら俺はこれにて帰らせて頂きます。」
花影が居ることにも、光影がしゃり出て来た事にも何にも触れずビジィーラは身を翻して去った。
その姿を見送りながら、私は心の中で謝る。
自分勝手な事をして、心配をかけてごめんなさい、兄様、と。
一つ息を吐き出して、クルリと振り向けば、残る二名がそこにいた。
「分かりましたでしょう?私が王宮に行くつもりがないこと。」
「しかし―――」
きつめの言葉で暗に、いい加減帰れと言えば。相手も食い下がってくる。
しかし、遂に業を煮やした私はぴしゃりと言った。
「―――主の名だろうが、何だろうが、私は行かないと言っているの。分かったならさっさと帰りなさい!」
雰囲気が一辺し、纏う雰囲気までもを変えてしまった私に、辺りの妖精が反応する。
―――胸元のペンダントが熱を持って淡く発光しはじめた。
それにいち早く気付いたのは華影。
「―――彼女は我等が必ずお守りすると心に決めたお方。そんなに連れて行きたいのならば、私と一戦を交じわうか。」
光影でさえ怯む威圧を投げかけ、華影ば毅然と前を向く。
深いフードから、ギリギリ口元と鼻が少し覗くくらいに見据える。
もう少しで髪が見えるのかと
言うほどだ。
そうして威圧に耐えられなかったのか、それとも華影の言葉に納得したのかは分からないが、華影は静かに去った。
たが私は固まったまま。未だその場を動けずにいる。
驚いた。その一言に尽きる。
話さないはずの華影が喋った。
それよりもその声に私は驚くしかなかった。
だってあの声は―――
「―――マルーシャさん?」
信じられる訳無かった。
だって彼女のいつもの雰囲気とは、あまりにも掛け離れ過ぎていたから。
「‥‥‥。」
何も答える事のない彼女に、私は悲しくなる。
どうして、と。
それはその事を話してくれなかった事に対してなのか、華影に属している事なのか、それとも王宮の侍女を辞めてしまった事なのか、私には分からなかった。
気が付けば走り出していた。
彼女の手を掴んで。
彼女は抵抗しようと思えは、きっと私なんかをものともせず振り払う事は簡単だろう。
たがそうしないのは、甘んじて受けている他ない。
走って走って走って。
手からは彼女の戸惑いが感じられる。
握り返す力は控え目で、どうしていいのか分からないような思いが感じ取れたから。
漸く屋敷に付けば、私は一気に2階まで駆け上がる。
勿論、手は繋いだまま。
必然的に彼女も階段を駆け上がる嵌めになるわけで。
屋敷内にいた物は胡乱気にそれらを見送るのだった。
バタン
扉をなんの淑やかさもない開け方をして、私は部屋に飛び込んだ。
初めからここまで読んで下さった方で、【モニカ】の名前を呼ぶ言葉が【私】になっていたら連絡を入れて下さると嬉しいです。
文字列入れ替えをしたせいでそのようになってしまいました。
一応は確認したのですが、見逃し等ありましたらよろしくお願いします。
7月3日の更新でした。←癖で6月にしてしまいそうになる管理人