表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
永久《トワ》の安らぎ永遠の音色
25/30

花影と光影Ⅰ

6/21(火)の更新。


前の更新から空けずしてなんとか‥‥

気力が尽きました←




ガヤガヤと五月蝿く感じる事が一般の街の騒音。

けれど私にはそれすらも安らぎに感じる。


しかし肩に乗っているグレファーは違うようだ。

眉間にシワを寄せて、眉を潜めている。


(ああ、もう。せっかくの顔が台なしじゃない。)


見える人はここにはいないけれど、どうしても彼女の整った顔が歪んでいると気にせずにはいられない。


内心苦笑しつつ、質屋で物を見繕っていた私は重たい腰を漸く上げた。


「お邪魔しました〜。」


結局何も買う事なく店を出たが、一応挨拶は忘れない。


むしろ何も買わなかったのに、長時間居座り続けて居たことに罪悪感を持つ。


そんな私をグレファーは不思議そうに見上げる。


「どうして買わなかったの?」


「欲しい物がなかっただけよ。」


にべもなく言い返すが。嘘だ。


それなりに良い物はあったし、買ってもいいと、思うような品はあった。


しかしグレファーは余りそこには居座りたくはなかったようで、気分が悪そうに見えたからだ。

実際あの店の雰囲気がダメだったのだろう。


品もそれなりに良かったし、揃えも悪くなく、店主もいい人だった。

しかし欠点が一つ。

そこに在った物が本物だった、という事だ。



解りやすく言うと、そこに在った品がグレファーには合わなかったのだ。


魔力の篭った品は、力のある神官などが作り出せる。

しかし彼等の数は少なく、それなりの物を作るとなれば時間が取られる。

多忙である彼等の中で、それらを作るのはほんの一握りの人だけ。


そうなれば魔法具が不足する。



そこで何処の誰が思いついたかは知らないが、妖精を遣う事に思い当たった人がいたのだ。


つまりは道具を遣うために妖精を遣う。

それは妖精の殺生をしたと言うことを表す。


正直私が知ったのもつい最近。

それはグレファーに指摘されて気づいた。


グレファーは精霊だ。

同族とも言える妖精を遣われた品々に故意的には近付きたくはないのだろう。



改めて無理をさせてしまったか感が拭えなくて、我ながら至らないばかりだと唇を噛む。



そんな私をグレファーは無遠慮に見た後、ため息を付いてこう言った。


「別に私に気を使わなくていいわよ。それは今に始まった事じゃないもの。」


グレファーのその言葉に、私は目をひん剥いで振り返る。


「なによ。そんなに驚く事?」


軽く聞こえる言葉だが、私には苦痛を我慢しているようにしか見えなかった。


それが悔しくて、私はまた下唇を噛む。


「そんな事言わないで。」


「え?」


「そんな事思っていないのに言わないで!!」


グレファーはハッと息を飲む。


私の大声に街の人々が振り返る。

しかしそれに気づく訳もなく、私は滲み出てきた涙を拭う事なく走り出す。


「―――っ、モニカ!」


グレファーの声がするが、止まれない。


止まりたくない。



今追いつかれたら、思っている事全て吐き出してしまいそうで。

そんなこと言えるわけ無かった。




よく前も見ず走っていたからだろう。


思い切って角を右手に曲がった所で、頭上に影が落ちた。


気付いた所でもう遅い。


ぶつかると思い、足にストップをかけるが。人間そう安々と止まれるわけがない。


案の定、私は出していたスピード分の勢いで相手にぶつかった。



しかし予想していた衝撃とは少々違った。


「えっ?」


相手にぶつかった衝撃で自分の身体は跳ね返るはずだった。


そして相手も、跳ね返りまでせずともよろけるだろうと。



だが私の身体は、地面に投げ出される事なく受け止められたのだ。



「おっと。危ないねえ。モニカお嬢さん。」


見知らぬ人に名を呼ばれた事に驚き、相手の顔を確かめる。


「‥‥ビジィーラ。」


あまりにひょんな出会いだったので、私は呆然と呟く。


いつもなら、彼に会った瞬間に逃亡を謀ったかもしれない。



だが今はそんなことをする気力すらない。



二の次が告げなくて、絶句していると。思いがけずビジィーラから声が掛かった。


「どうしたんっすか。」


こんな所で。と言われて。


私は答えられる訳が無かった。



そんな私を不思議に思ったのだろう。


当然だ。

彼は私よりも身長が遥かに高い。



そして、街に出る際にネアーラに渡された帽子がある。



きっと髪色と容姿で素性がばれないように、との配慮だろう。


しかし兄の従者でもあるビジィーラには、ごまかしは効かなかったようだ。



沈黙を守る私に、困ったようにビジィーラが頬を掻けば、何時もとは違う仕種に私は目を見開く。



普段の彼ならば、私がどんな状況でも気にはしなかっただろう。


ただ気にするのは私の、フローラル家の末娘としての心配。

そして安全だけだ。



それが今はどうだろう。


様子のおかしい私を見て、困っていた。



その時に少し俯け気味だった顔を上げたせいだろう。


きっと顔がはっきりと見えてしまった。



私は先程グレファーから逃げる時に、涙を零した事をすっかり忘れていたのだ。




「どうして泣いてるんですか。」



まだ乾ききっていない涙を見ての言葉。


私は急に気まずくなって顔を逸らす。



さっきと同じ沈黙がまた続くが、雰囲気が軽くなったのは気のせいだと私は思いたい。




すると不意に気配が増えた。


ばっとそちらを振り向けば影花の影だ。



ほっと安心するも、ビジィーラは警戒しているようで。

視線を外すことはない。



敵ではないことを伝えようと、口を開いた、が。


思わぬ邪魔が入った。



――シュン


空を切り裂く音。


キン


何かに当たる金属音。



音の正体は、花影に投げ付けられた飛び道具。


飛び道具は空を切り、花影に向かったが。

花影が目にも止まらぬ早さで手刀を抜き、


それは城の光影。


いわゆる影の存在。



(もしや何かの牽制?)



実際に光影を見たのは初めてだが、気配に城のレクイエムや国守りの気が充満している。


それは清浄な気配。



きっと影華は聡いので気付いてはいるだろうが、敢えてその姿勢を崩す事はない。



どうしようかと、考えあぐねていると。

予想もしない人物が口を開いた



「モニカ・フローランス様ですね。」



(嗚呼、今日はやけに思いもしない人に名前を呼ばれる日だわ。)


「‥‥違いないわ。」



「我が主の命により、王宮まで御同行お願いします。」



彼の言う主、だなんて分かりきっている。


しかし王宮の影。しかも光影が言葉を発するとは思わなかった。



花影の方を気にしつつも、任務を真っ当する彼は凄いと思う。



(そりゃあ気になるでしょう。)



なんて言ったって花影だ。


当たり前だけど、黒で統一した黒衣。それにある左胸の紋様。


銀の刺繍で、棘の付いた蔦と薔薇を象ったものだ。


詳しい人にしか分からないだろうが、その薔薇のモチーフは影花。



きっと光影の人もそれを知り得ていたのだろう。



6月21日の更新でした。


By月鈴

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ