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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
始まりの言葉
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襲撃

 


 塗装のされていない砂利道。そこを通る馬車に乗っている私、は前後左右に揺られながらも窓から覗く風景を楽しんでいた。

 肉眼で確認できる建物はほとんど皆無。時たま民家の屋根を確認できるくらいに遠く離れている。

 これはこれでゆとりがあって良いと、私はそれらを見ながらそんなことをぼんやりと思った。



 「モニカ、少しは疲れたんじゃないか?着くまで時間はある。寝ていてもいいぞ。」



 ぼんやりと外に向けていた視線を戻せば、兄は予想通りの顔をしていた。 眉は眉間により、渋面を作っている。



「兄様そんな顔をしてたら女性が逃げますよ。」



 軽く冗談でそんなことを言えば、兄に小突かれた。



 「そんなことを考える暇があったら、自分の心配をしろ。ただでさえお前は―――」



 「―――それはこっちの台詞です。昨夜も遅くに帰ってきたにもかかわらず、今日のこのこと付いて来たのはどこの誰ですか。兄様こそしっかり寝てくださいよ。」


 長くなりそうな説教へと変わり行く兄の言葉を強制的に遮り、私は切り返す。伊達に今まで兄妹をしてきていない。その分のスキルはばっちしだ。



 「俺は良いんだよ。問題はお前だ。いいかモニカ良く聞け、そんな言葉で俺を誤魔化すな。聞いたぞ、この前屋敷で倒れたんだってな。」



 いったい誰が告げ口したんだか。兄にはいつの間にか情報が行き渡っている。

 私は内心舌打ちをしたい勢いだ。



 「ちゃんと寝てるわ。」



 「―――だれも不眠症で倒れたとはいってないがな。」



 してやったりとニヤリと笑う兄は性格が捻くれていると思う。



 「寝ようと思っても寝れないお前のことだ、ここ最近不眠続きだろう。伊達に十七年間一緒に育ってきたわけじゃない。このぐらいはお見通しだ。」



 確かに四才も年上の兄は頼りになり、昔は眠れないと良く兄の部屋へと行っていた。



 「でもこのごろは―――」



 「でも、じゃないだろう。そう言って倒れたのは最近なんだからな。」



 それにはうっ、と詰まる。

 弁解の余地はない。



 「クッションも有るし、膝もある。使ってもいいから寝ろ。」



 いや、膝はちょっと……。などとおもいつつもクッションを受け取れば、気持ちよくて顔を埋めてしまう。



 「大丈夫なのに……」



 そう言ったのはせめてもの抵抗のつもり。



 (―――苦しい)



 心配してほしい訳ではないのに、素直にそれが伝えることができない。

 それを兄に伝えることの出来ない歯痒さを感じながらも、私は襲ってきた睡魔に勝つことは出来なくて、眠りについた。




――――――――――



「――ニカ、モニカ。」


「――ん〜?」


「起きろ、早く。寝ぼけてる時間なんてないぞ!」


焦ったような兄の声。


「……兄様?どうしたの?」

ムクリと起き上がると兄がこちらを厳しい目で見ていた。


「ちゃんと目は覚めたか!?外の気配を探ってみてみろ。」


訳が分からない。だが言われた通りにすると、背後で馬を駆けてくる気配が複数ある。


「馬がこちらに向かって複数………けど、なんで………まさか、私達が目的!?」


「だろうなあ。数分もしない内に追いつかれるだろう。」


「そんな……!」


ならどうしろと言うのか、と兄を見ると真剣な目でこちらを見ていた。

「モニカはこの馬車の馬を使い逃げろ。」


言われた言葉に神妙に頷きスカートをまくし立て前に出る扉を開き、座って馬を操っていた兄の従者に訳を話して一頭の綱を受けとった。


「お兄様もみんな一緒よね。」


背後を振り返り兄を見て言った。


馬車を引いている馬は4頭。

馬車に乗っているのはモニカと兄と馬を操っている従者一人だけだ。

残りの人は宿泊先に先に行っている。


なので、この馬車に乗っている三人が馬で脱出し、残りの一頭で遅いけれど馬車を引いて囮にすれば逃げられるはず。


だが、兄は首を縦には振らなかった。

それを見て目を見開く。

言葉の意味。それは一緒には残らないということ。


「兄様は残ると言うの!!なぜ?!」


理由を問うても何も返ってこない。


「……だったら私も残るわ!!」


痺れを切らした私はそう叫んだ。


「それはダメだ。モニカは逃げろ。」


「嫌よ!!私も残るわ。私だって闘える。」


兄ほどではないけれど、強いと自負できる。


幼い頃から兄が習う剣術の稽古をこっそり隠れて見様見真似で覚えてきていたのだ。それはかなり我流ではあるが。


兄がそれに数年前に気づいたので、両親には秘密にしてもらっていた。


「ダメだと言っている。お前は逃げろ。」


「なんで!どうしてよ!!」


泣きじゃくりながら首を振った。


「どうしてもなんだ。……ごめんな―――」


―――トン


首筋に凄く強い衝撃があった。


「ど…うし……て―――」


―――私が意識を保っていられたのはそこまでだった。





気を失った妹を腕に抱き抱えてフィオーラは言った。


「モニカをここに残しとく訳にはいかない。」


聞こえるはずもない彼女にそう呟く。



「ビジィーラ、モニカの馬を頼む。」


ビジィーラと言う自分の従者に馬をこちらまで引き寄せてもらった。


その上にモニカを落ちないように横たえる。


「お前なら落とされるはずがないだろう。――モニカを頼んだぞ。」


前半は聞こえているはずもない妹に、後半はモニカを乗せている馬に向かって言った。

馬はモニカという部分に反応し耳を傾け自分の背中を見た。


そして了解したかのように嘶ないた。


フィオーラはそれを見て安心したようだ。


「いけ」


短く言っただけだが馬は颯爽と駆けて行った。


「よかったんですか?」


それまで黙っていたビジィーラが馬が見えなくなるのを待って、口を挟んだ。


「なんのことを言っているんだ。」


「一緒に行かなくて、と言うことですよ。」


「……ならお前が行けばよかったんだ。」


「嫌ですよ。俺はフィオーラ様の従者ですもん。」


ひょうひょうとビジィーラは自らの主人にそう言ってのける。


「にしても、驚きましたよ。噂は本当だったんですね。」


馬が走って行った方向を見て彼はそう言った。


「なんのことだ。」


「いやですね。惚けても無駄ですよ。噂はかなり広まっていますからね。モニカ様には不思議な力があり、いろんなモノに愛されている、と。」


だがフィオーラは安心した。


このくらいの噂はどうにかなる。

だが、アレがばれてしまったらやばいのだ。


まだ誰も知らない。

家族以外は……


「モニカにそんな不思議なものはない。ただ、馬には懐かれているようだが。」


「そうなんですか。ですが、凄いですね。馬に好かれるなんて。」


「まあな、それより。俺はこのままアイツらをこのまま迎え撃つ。お前はどうする?」


「愚問ですよ。モニカもご一緒します。」


「わかった。」


そして彼等は来るべき者が来るまで待ち続けた。




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