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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
戸惑う心と揺れる水面
18/30

始まりの音

どうしても腹の虫がおさまらなくて野外に出た。

すると、どこから来たのかレファーが飛んできた。

一体今まで何処に居たのだろう。あれ以来、夜には私の元に帰ってくるものの、昼間はほとんどと言っていいほど居ないのだ。それは彼女自身が言った社長見学、とやらをしているらしいが、私はあまり信じていなかった。


「モニカ、どうしたの?何かあったわけ?」


第一声から的を射た物言いだ。


そんな顔して、と言われれば条件反射のように今まで以上に顔が歪むのは仕方ないと思う。


「何も。何もないわよ。」


何もない、と言う割にその口調はそこはかとなく苛立っている。

それを聞いて、小さなレファーは私と同等のまで飛び目線を合わせる。


私はと言うと、真っ正面から面と向かって見つめられ、たじろぐ。


「なに、してるの。」


それも間近で。


「―――モニカ、嘘ついてるでしょ。目を見ればわかるんだから!」


突然そう言ったレファーには驚かされた。

間近でガン見されていたのは、こういう訳だったと知り、驚かずにはいられない。


軽く目を見張る私に比べ、対するレファーは少し頬を膨らましている。


「話して、とまでは言わないわよ。だけどごまかすことだけはやめてよね。」


「いい?」と念を押されれば、頷くしかなかった。

しかし驚いた。

「何があったのか話して!」と言われるかもしれない、と何処かで思っていたのは否定できない。

「どうして何も聞かないの?」


気が付いたらそう口にしていた。


「聞かないわよ。話しづらいことなんでしょ。‥‥話してくれるまで待ってる、だなんて大層なことはしないから。だから、吐き出したい時は、誰かに聞いて欲しい時だけ言ってくれたらいいわ。言わない、と貴女が決めた物だけ胸に仕舞っておいて。‥‥‥私が言いたいのはこれくらいよ。」


何故だかレファーの背中が小さく見えた。

強気な発言。なのに、どことなく力無く。


ただ、自分のせいでレファーにそんな顔をさせていることだけは分かった。


「ごめんね。」


これは何に対する謝罪なのか。私には分からなかった。






――――――――――






あれからレファーと会話をしていない。

いや、正確にはいつものような会話をしていない、と言うことだ。

今は単語で話しているようなものだ。


では、どうすれ元の様に戻れるのか。それが私の悩みだった。


そして頭の中にはシオンにされたこと。そしてあの時隣には、赤髪の青年が居たと言う事など微塵も頭には残っていなかった。


「モニカ、手紙が届いているわよ。」


そう言ったのは誰だったか。

なかなか取りに来ない私に渋ったのか、隣に居たマルーシャが代わりに手紙を持ってきてくれた。


「どうしたの?気もそぞろね。」


「はい、これ。」と手紙を差出ながら、マルーシャが口を出した。


「‥‥あっ、ありがとうございます。」


反応もワンテンポ遅れている。


「誰かと喧嘩した?なら、あまり良いアドバイスをしてあげられないわね。」


一か八か、彼女に相談してみる。と言う選択肢が頭には浮かんだが、マルーシャは、確かにアドバイスをしてあげられない、と言った。


何故喧嘩した事が分かったのか。そして相談しようかと悩んでいた事を知っているのか。疑問はかなりある。

その疑問が口を突いて出る前に、マルーシャが口を開いた。


「けどね、疑問をぶつけてみるのもいいわよ。」


「え?」


「貴女は今さっき、私に疑問を持ったでしょう?」


「違う?」と聞かれれば頷くしかない。


「そんな感じに、喧嘩した相手にもぶつけるの。よっぽど不利人な質問でなければ、相手は答てくれるはずよ。」


「疑問を?」


「そう。分からないなら聞けばいいの。聞かないと、人の思いは知ることはできないわ。」


ストンと心にその言葉が入って来た。

一気に自分の視野が広まった感じだ。

「なんだか納得です。」


「でしょう?まあ、これはある人の受け売りなんだけどね。」


普段の仕事熱心な彼女からは、想像もできないような笑みだった。

悪戯が成功した時のようなそれ。例えるならばそうだ。


「それはそうと、もうそろそろ敬語、止めない?」


悪戯っ子のようなそれに、私は思わず笑ってしまった。


「そうね。じゃあ、改めましてこれからも宜しくね、マルーシャ。」


「宜しくね、モニカ。」


私は、清々しい気持ちでその場から駆出す。

目指すはレファーの所。


もう迷いのない私は、振り返ることなくその場をさる。


瞬間、一気に風邪が吹いた。寒い季節の予感を知らせて来るようなそれに、マルーシャはひっそりと笑みを作った。


もうすぐ冬だ。

雪が積もり、この世界を真っ白に塗り替える季節。


「あれから、もうすぐ2年になるかしらね。」


誰も居ない廊下に、彼女の言葉がやけに響いた。

だが、それを耳にする者はいない。

それを冷たい風だけが、言葉を何処かに運んで行った。



さあ冬の始まり。

季節を変え、人を優しく見守っている。


どこかで始まりを知らせる音がした。





もういい加減メインキャラが(そろ)ってきたことなので、そろそろ本題に入ろうかな、と思っております。


第3章からはしっかり頑張ります。

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