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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
戸惑う心と揺れる水面
12/30

触れ合い

サブキャラ数人登場‥‥です。


あれから10日経ち。

一ヶ月がたった。


今私は王宮の一角にある室内で支度をしていた。

一般人には少し豪華で、金持ちには少し物足りない、そんな部屋だ。


(別にこんなに綺麗な部屋を使わなくてもよかったのに)


思い出しただけでもため息が出る。

自分の兄の強引さには。



そう。

私は王宮に行く宣言をした後、すぐにベルシアを起った。


しかし王宮されど王宮。

入り込むには身分証明がいるし、使用人となりたければそれなりの身分もいる。



それを、兄はツテで私を王宮に招き入れてしまったのだ。

まったく、これじゃあ頭を抱えてしまう。



ため息をまた一つ。

なんだか近頃頭を悩ませることが多い。


どれもこれも兄様のせいだわ、と責任転嫁をしつつも身支度を終えた私は余裕を持って部屋を出た。


私の王宮内ここでの仕事は侍女だ。


侍女とは自分の働く場所が自分の位のようなものだ。

例えば厨房と洗濯。

どちらの仕事が上かというと厨房での仕事の方が上だ。

もちろん厨房には専用のコックがいる。だがそこに立ち入ることができるのはコックとその料理人、そしてそれ専用の侍女だ。

料理とは宿舎泊りの兵士から貴族、王族が口にるるも。だからこそ信用されている者にしか携わることができないということなのだ。

掃除にもいろいろある。

公共の場では下の位、すなわち()の侍女が使われ、貴族の(たむろ)す場には中の侍女。

そしてその上にあるのが(じょう)の侍女。だがそれはごくわずか限られた者にしかなれない。なぜなら王族付きの侍女ということになるのだから。


私は中の侍女。だがこれにはまだ細かく分割された身分があるのだ。

それは正侍女と民家侍女。

正確にいえばこれを口に出す者はほとんどいない。いや、いるが、これを口に出す者は、分別が付かない馬鹿共だと私は思っている。

正侍女とは家柄が良いか、貴族でないとなれないのだ。それと比べ民家侍女とは、その名の通り一般の者がなる侍女のことだ。よっぽどの賄賂や大層な功績を残さない限り、正侍女になることは難しい。


(生まれで、自分の将来が決まってたまるかってのよ。


……あ〜嫌なこと考えた。)


とそこで廊下の向こう側からやって来る人影が見えた。


「あ〜っ!モニカさん、今から仕事ですか?」


そう気さくに声を掛けてきてくれたのは第3王子付きの侍女マルーシャだった。


「え、ええ、そうです。マルーシャさんも一仕事終えて、移動中ですか?」


もしよければお手伝いします、そう言ったのだが、大丈夫よ、とやんわり断られた。


彼女は一応、上の侍女になるのだが、出が一般家庭なので正侍女にはなれず民家侍女のままなのだと。

だが上の侍女のなかでは親しみやすく、気さくに話しかけてきてくれる。

私は中の侍女なのだが正侍女なので後輩、先輩、同僚共に特別視されていた。

なので彼女のような態度はとても嬉しかったのだ。


「そうですか。また何かあれば何でも言ってくださいね。そう言えば、……王子は、いえ、王子様は寝起きが大変だとお聞きしますが大丈夫ですか?」


このことは王宮に遣えるようになり、初めて聞いた話しだ。


「始めは大変だったのだけどね、段々慣れてきてしまったようだわ。」そう言い、苦笑するマルーシャさんはどことなく懐かしそうだ。

彼女もいろいろ苦労していたのだろう。


その後、彼女は次の仕事があるから、と洗濯物を持ち慌てて駆けて行った。


(私も次の仕事しなきゃね。)


「―――うわあ!」


そう思い振り替えたとたん、声と共に衝撃があった。

なんとか持ちこたえ転倒しなかったものの、瞬時に何があったのかはわからなかった。

衝撃に反射的に閉じていた目を開ける。

だが私の目の前には、これといった物が無かった。

それに驚き目を見開くが、目線の下に何かうずくまっていた。


「……えっ?」


その何かは小さな男の子だということはすぐにわかった。


「―――……っ!!」


「ごめんなさい。大丈夫……ではなさそうね。」


ちょっと待ってね、そう言い手に持っていた物を通路の脇に除けた。


「なにをするんだ!」


「あら、開口一番にそれはだめよ。そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうわ。」


「何でお前にそんな心配されなきゃならない。」


(確かにその通りなんだけど)


「いいの?逃げなくて?」


こちらに向かってくる気配が複数あることに気付いた私は、彼にそう言った。


途端に彼の顔はポカンとなる。


それもそうだろう。

突然ぶつかった相手に、いきなり女の子に嫌われるどうこう言われた挙げ句。自分が何かから逃げていることを示唆されたのだから。


「ほら、早くしないと追いつかれちゃうわよ。はい、立って。ここに入ってるといいわ。オネーサンがなんとかしてあげるから。」


そう言って私が指したのは、使われてない一つの部屋だった。



――――――――――



「すみません。」


「はい。何でしょう?」


私に声を掛けてきたのはやけに容姿の整った男性2人だった。

一人は紫紺色の長髪を後で一つに括られていており、黒色の瞳をしていた。中性的な顔立ちの男性だろうか。着ている服は文官のような出で立ちだ。

そしてもう一人は、赤髪に緑の瞳だ。緑の瞳をしているせいか、少し親近感が湧いた。

服装はTシャツにパンツという、動きやすさを重視したものだったが、むさ苦しくは無くむしろ気品を感じさせられた。

服の上からでも分かる程よい筋肉は、ここに他の侍女がいたら黄色い悲鳴が飛んだであろうと思われる。



「こちらに、このくらいの小さな男の子は来ませんでしたか?」


ご丁寧に、身丈までもを手で示してくれる。

そんな文官の男性に申し訳ないと思うと同時に、内心舌を出した。


「男の子、ですか?侍女のわたくしにはあまり縁の無いお話ですわね。

ですが、先程見かけましたわ。その先の廊下を右に曲がり、駆けて行きましたけど‥‥。

何やら切羽詰まっていた様子でしたので、少し御容赦して差し上げてくださいな。」


勿論これは出鱈目だ。


「丁寧にありがとう。仕事中引き止めてすまないね。だが助かったよ。

よかったら、名前をお教えてくれない?」


こちらは赤髪の男性の方だ。そんな格好をしているので、騎士だとは思う。

が、荒っぽさを感じさせない身のこなしと言葉遣いをみれば女タラシだと分かる。


「いいえ。

どうってことありませんわ。困った時はお互い様ですもの。

ですが私は一介の侍女ですので御容赦を。」


名前を聞かれては後先後悔しそうだ。

私は無難な方法で切り抜けようとする。


「そうか。それは残念だ。

けど、次に会った時には是非教えてね。」


(しつこいわね。)

割と丁寧な物言いなのだが、なにせしつこいのだ。

少しの間渋ったものの念を押され、仕方無しに頷いた。


それに満足げに微笑むと、文官を引き連れて私の言った右を曲がり、消えて行った。



それをしっかりと目で確かめて、私は一息ついた。


しつこい男は嫌いだ。


仕方ないわね、と口の中で呟き、荷物を持って彼らとは真逆の方向へと進み出した。



――――――――――――



その様子を物陰から伺っていた二人。


私が自分達が元来た方へと歩んでゆくのを見て、彼女を影から覗き見るのを止めた。


「シオン、だから彼女は白だと言っただろう。なんでも疑うのは止めろ。」


自分と同じように彼女を覗き見ていた男、シルガーが口を開いて自分に呆れを含んだ物言いをしてきた。


「‥‥‥まだ白と決まったわけじゃない。

それにしても、俺達は殿下の命を受けて王子の教育係をしているのに、王子は相変わらず脱走するし、困ったものだな。」


「わたし。」


「‥‥‥。」


「ワタシ。」


「‥‥‥。」


「俺、ではなく‘私’です。」


幾度となく言葉遣いを訂正してくるシルガーに渋々口を開いた。


「‥‥‥わたし。」


「そうです。良く出来ました。」


どこか子供に言い聞かせるような口調に嫌気がさした。

昔っからこういうヤツだった。


「そんなことばかり言っていてイイのか。今夜が楽しみだな?」


不適に笑って言ってやった。

が、近くを歩いていた侍女が見てあらぬ疑いをかけられたことは全く本人の知らないところだ。

不適にも見える笑いは、妖艶な艶やかさを感じさせるモノとも見て取れたようだ。


会話でさえ誤解を招くものだったとは本人も気付いていなかった。


たいていシオンがシルガーにこんなことを言ってくる時は、腹いせのためにシルガーの寝室に女を勝手に(はべ)らす時だ。


そのことを長年の付き合いで理解しているあたり、ため息を吐き出したい気分だった。


そんなことをシルガーが考えているとは露ほど知らず、シオンは先程の少女を思い返す。


前髪が邪魔をしてよくは見えなかったが、整った顔立ちだったように思う。


髪の色も綺麗な黒だった。

だが、近くを通り過ぎる瞬間、仄かに薫った匂いを思い返せば眉をしかめる。


あれは髪染め粉の匂いだ。

女性とよく触れ合う機会が、この上なく多いので良く分かる。

娼館に通うと顧客の要望に応えるために、髪を染める女性は多々いるのだ。

安物であれば、1ヶ月以上は普通に匂いが付いてまわる。


だが良質の物は1ヶ月もあれば大分消え、匂いは薄れていくのだ。


彼女のは常人ならば普通に薫らない程度の残り香のような物だった。

だが、近衛の並外れた五感を持っているシオンには分かったのだ。


それに、染めているならば普通はあんなにも綺麗に色が出ることはまずない。

なぜならばこの国、アラインダ国の人間は色素が濃い者が主なのだ。

だが、彼女の髪の色素がもし淡泊なのであれば、綺麗な色彩が出るのも頷ける。


では何故容姿を変える必要があったか……


そこまで考え、シオンは報告をするべきか考えた。主に。

だが、ただでさえ忙しい主の手を煩わせたくはない。


なので独自調査をしてから報告しようと、そう考えシルガーと共に王子を探すべく身を(ひるがえ)した。



皆様お久しぶりです。

次の更新も間が開きそうですが、頑張ります。



初登場のシオン君、意外に腹の中黒いです。

抜け目のない男ですね←


それに比べシルガーさん、ある意味被害者です(笑)

ですが侮れません‥‥‥

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