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精霊達のレクイエム(鎮魂歌)  作者: 真条凛
始まりの言葉
1/30

始まる時

この小説は管理人のサイトで連載している小説を修正・補足をしたものです。

誤字脱字、わかりにくい表現、いろいろあるとは思いますがご了承いただける方のみご覧になってください。

「お嬢様、奥様がお呼びです。」


ノックをして入って来た侍女の言葉に窓辺に立っていたモニカは振り返った。


風に煽られ舞う銀色の髪が、光に当たりキラキラと輝く。


侍女を見る瞳は質素の薄いエメラルド色だ。

淡く見えるのにその瞳は意志が強そうに見える。


「母様が?」


凝った造りをした窓枠に肘をついていたモニカは、あまりよろしくない体勢をさりげなく戻し、問い返した。


「はい。なんでも、今すぐ部屋に来て欲しいそうです。」


「わかった。行くわ。」


モニカの返事を聞いた侍女は入って来た時と同じように一礼すると部屋を出て行った。


部屋に一人になったモニカは一人首を傾げた。



――――――――――



「母様、モニカです。」


そう言って部屋の戸をノックすると、お入りなさい、と母の声がしたので失礼します、とドアノブを回した。


部屋の扉はよく手入れされている証拠に音も無く、スムーズに開いた。


扉を開けると昔とあまり変わらない部屋の風景が見える。


壁にかけられた風景画に感じのよいテーブルや椅子、本棚などが目に入ってきた。部屋一帯はブラウンで整えられており清潔感漂う綺麗な部屋だ。


モニカの部屋とほとんど変わりない景色がレースのカーテンをかけられた窓から見える。


その窓の側に立って後ろを向いていた女性がこちらを向いた。


「モニカ、急に呼び出してごめんなさいね。」

そこに立っていた母エイシャーは、本当に申しわけなさそうな表情をしている。


「大丈夫ですよ、母様。それよりどうしたんですか?」


珍しいですよねと続けた。


部屋の扉を後ろ手で閉めながらモニカは問いかける。


部屋をよく見渡すと部屋には自分と母だけだった。



「貴女に今からお願いがあるの。今から私の故郷に行ってほしいの。」


「今から?それより、母様の故郷はどこなんですか?」


「そう、今からよ。夕食は手頃に食べられるような物を馬車に積んであるわ。荷物も。その馬車でベルシアに行行ってちょうだい。」


もう、荷物が積まれていると聞いて驚いたが聞いたことのない名前が出てきて、首をひねった。




「ベルシア?」


「やっぱり聞いたことないかしら?」


そう言われ首を縦に振る。


「そう、ベルシアは一般には知られていない土地なの。隠された土地とも言うわ。」

「隠された土地?」


「ええ、そうよ。この国に昔魔物達から人々を守った八神将と呼ばれる人達の存在は知っているわね?」


「八神将って本によく出て来るわよね。確か色々な神器を持って立ち向かった勇敢な人達でしょ?」


「そうよ。その神器を隠したとされる場所が隠された土地よ。ベルシアのような世に知らされていない土地はベルシアも足して8つ。土地のことは各国の王族のごくわずかの人しか知らないわ。」



今までそんな場所が存在するなんて予想もしなかった。

しかも、その場所が母の故郷だなんて。


「けれど、モニカが母様の故郷に行かなければならない理由は?」


そう、なぜこんなにも急に出発が決まったのか……


「――隣国のフケート王子やその国の国王陛下が今夜お忍びで屋敷にいらっしゃることになったの。」


母親の発した初めの名前を聞いた瞬間、モニカはビシリ、と固まった。


「母様、それは本当?」


信じたくなくて、母に確認をとる。


嘘だと言って欲しい。


「この期に及んで私がモニカに嘘なんてつくと思う?」


それは思えない。


だが、信じたくなかった。


お隣りの国王陛下はたびたびこの屋敷で聞く不思議な噂を確かめに、その息子フケート王子はモニカに求婚を申込に。


どちらもモニカ絡みなのだ。


母は、娘の意に沿わぬ事を阻止しようと頑張ってくれているのだ。



どちらに転んでもモニカにとっては最悪なことには変わりない。


「父様は何か言っていらしてましたか?」


そう、父デラシーネの了解をとっていないとモニカは屋敷を出れない。


「ええ。許可は私がもぎ取ってきたわよ。大丈夫、心配しないで。モニカを王子達が探しているようだったら言ってやるわ!娘は今別荘で療養中ですってね。」


母のこの強気な性格がモニカは好きだ。


温かくて安心するような、そんな感じ。


けれど、父はモニカを嫌っている。


きっとフローランス家の恥だと思っているに違いない。


このフローランス家は伯爵家だが、公爵家と同じくらい特別視されている。


モニカの兄、フィオーラはしっかりした人で勤勉だ。


だが、女は結婚と服の流行など、そんなことをしていればいいと言われるのだ。


女には勉強など必要ないと言われる。


だが、モニカは例外と言ってもいい。

彼女は勉強が好きなのだ。

知らないことを知りたいと思っている。

「この前いらした時もそう言って帰ってもらったわよね?」


「だってモニカは身体が弱く病弱なことで有名でしょ?嘘なんだけどね。」


そう、世間には病弱なことで有名だが、実際はモニカが、社交界にあんまり出たくないことと、こういう面倒事を避けるための嘘なのだ。



フローランス家は美形ぞろいで有名なのだ。兄、フィオーラなどは引っ切りなしに女性が言い寄ってくる。

そして結婚している母や父にまで…

もちろんモニカも例外ではない。


「だってあんなお世辞ばかりの退屈な社交界なんて嫌よ。楽しくもないし、つまらないもの。」


子供の頃から財産目当てや、容姿目当てだった男が言い寄ってきて、それがモニカは嫌いだった。


「まあ、そうなんだけどね。」


母も同意をしめす。


「けどね、好きな人と出るようになったら楽しいものよ。」


朗らかに笑いながらそんなことを言う母が心底すごいと思った。


一度だけ見たことがある。


もう、結婚もして子供もいる母に男性がわんさか言い寄ってくる人達を、母はやんわり断って離れようとしている所に父が颯爽と現れ、あっという間に辺りの人を蹴散らすという様を……。


あれが母には楽しかったのだろうか?

と疑問を持ったがあえて尋ねなかった。



「いけないわね。話が反れてしまったわ。」


モニカも忘れていた。


「それじゃあ、母様の故郷にモニカは至急、避難すればいいのね。」


早口でまくし立てるモニカに母も同意をしめす。


「フィオーラがついて行くって言ってたからあの子に地図は、もう渡してあるからね。」


「え?、兄様も行くの?」


「ええ。モニカだけで行かすと侍女や従者なんな付けないで行っちゃうでしょ?だから母様もフィオーラの意見に賛成よ。……あれ以来、貴女はなんでもできてしまうから侍女はいらないかもしれないけれど、せめて兄のフィオーラぐらい連れて行きなさい。」


そう言って笑う母にモニカは言った。


「お兄様は今お忙しい時期と聞きました。とてもそのようなこと頼めません。」


兄は実力もあるので第一王子の側近をしている。


王子には会ったことないが、その王子に実力を認められ、信頼されるほどだとも聞く。


そんな、日々多忙な兄を自分のわがままに付き合わす訳にはいかなかった。



そう。

わがままなのだ。

求婚を申し込んでくるフケート王子は仮にも隣国の王子、世継ぎなのだ。


その申し出を自分は突っぱね、家族に迷惑をかけている。


モニカがそれを受け入れれば父にとっても兄にとっても、母にとっても、とても得になる。


それをモニカは棒に振っているのだ。


「でもあの子、王子様から休みをもぎ取ってきたみたいよ?」


「そんな……!!」


「諦めなさい。フィオーラは貴女のこと心配してくれているのよ。」


絶句するモニカに母は彼女を言い聞かせるように言った。


「ほら、もう出発しないと。荷物は全て馬車の中よ。このまま屋敷の入口に向かいなさい。そこにフィオーラが待っているわ。」


そう言ってモニカの肩を押す。


モニカが部屋を出る前に、母はモニカをギュウッと抱きしめた。


「気をつけるのよ?」


「……ええ、わかっているわ。」


母が言った言葉の本当の意味。

それが指す事をモニカは身をもって知っている。


母が心配するのも無理ないが…。


「行って来ます。」


そう言って母から離れた。


「ええ。行ってらっしゃい。」


母の言葉を部屋を出ながら聞いた。





「あっ!!」


玄関に向かおうとしている途中で、モニカはある物がないことに気づいた。


多分馬車に積んだ荷物の中には入れてくれてはいないだろう。


あれだけは置いていく気にはなれない。


モニカは立ち止まり、一瞬そう考えた後、歩いてきていた廊下を走って戻った。





「あった!」


部屋に戻ってドレッサー所に置いてある宝石箱を開け、中に入ってあった小振りなアメジストが先に付いただけのシンプルなネックレスを手に取った。


このネックレスは装飾品にほとんど興味のないモニカの、唯一のお気に入りだ。


普段は毎日と言っていいほど身につけている。


だが、今日はもう部屋着に着替えようと思っていたので、外して置いていたのだ。


その後、着替えようかと思った頃に母から呼びだされたという訳だ。


ネックレスを手に取ったモニカは早々に部屋を後にし、玄関に向かった。

息を切らして玄関先に行くと兄、フィオーラがモニカを待っていた。


「兄様、遅くなってしまってごめんなさい。」


待たせてしまったと思い、駆け寄りなが謝った。


「モニカ、そんなに息を切らしてどうした?」


こちらを振り向いた兄の目に映った妹は息を切らして駆け寄ってきたので驚いたのだろう。


「部屋に忘れ物を取りに戻っていたら遅くなってしまったものだから……」


「それならここに来てから使用人に取りに行かせればよかったのに。」


「それもそうなんだけど、こっちの方が早かったから。」


苦笑しながらそう返事をする。


「それより、早く出発しましょう。」


だが、一刻も早く出たくて兄を急かした。


「そうだな、もう荷物も積めたし急ぐか?」



そう言って大きい手を差し出してくる兄にモニカは安心したのだった。



「モニカ、疲れただろう?着くまで寝ていてもいいぞ。」


ぼんやりと外の風景を見ていたモニカにフィオーラが声をかけてた。


「兄様こそ、ちゃんと寝て下さい。昨夜も遅くに帰ってきたのでしょう?」


昔から一緒にいるんだからそれくらいは知っているんだぞ。」

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