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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

荒廃世界生存日記

作者: 冬樹ヒロ

 世界が崩壊する前、ある組織によって先進諸国に打診があった。それは国家の総力を上げた地下都市の建設だった。しかし、多額の金と資材が掛かり長年戦争を経験しない国は冷ややかであった。それに応じたのは日本と中国ぐらいであった。日本は元々、広島の第二総軍指令所が核爆弾で消滅したのを教訓に戦後も着々と地下壕を建設していた。冷戦の終了と共に計画も凍結したが、何かを理由に建設は再開された。

 そして、2015年。悪化の一行を辿る世界経済。中小国の軍拡。そして核テロリスト。初めは些細な紛争だった。それがいつしか世界を滅ぼす序章となった。核の脅威。生物兵器。化学兵器。これらは世界中に蔓延した。まるで第二次世界大戦のように。そして一発の太陽は世界を焼き尽くす。連鎖反応は凄まじく、人々は己の過ちに嘆いた。


 荒廃した地球。死の灰が太陽の光を遮り、文明は終りを告げた。生き延びた人々は一箇所に集まり、旧世界の遺産を糧に生きながらえていく。そんな中、ある組織の計画を受諾した日本と中国は最先端の技術を確保したまま、国家体制の維持に成功していた。ただし、地表の建造物は崩壊していた。東京湾に浮かぶ人工島。各大都市に造られた地下都市。そして地下に張り巡らされた連絡網とフェリーが可能としていた。


 


 僕は東京の大都市で生まれ、数年をそこで暮らした。幼い時、父に連れられ三重の祖父母のとこにきた。前から周りの大人たちがそわそわして落ち着きがないのは幼いながらも感じていた。ただ、幼かった僕には遠い事であり、久しぶりに祖父母に会った感激で喜んでいた。だが、一つのサイレンが僕の日常を壊した。五月蝿く鳴り響くサイレンに僕は父に手を引かれながら、大きなエレベーターに乗った。直後だった遠くで轟音がしたと思ったらキノコのような雲ができたていた。

  それが僕が見た地上の最後の風景だった。


 あれから十数年。僕は19歳になり、兵士だ。外の状況はわからないが、大人の大半は出たらなかった。一部の勇敢な大人が外に赴いた。ただ、皆いつの日か地上に戻れると願っていた。学校の授業で習ったが、どうやら日本人はマシらしい。なぜなら、旧世界の技術を失うことなくこの安全な地下都市で生活ができている。生産プラントや人工石油などが、生きる為の糧を生成できるおかげで不自由なく生活ができる。ただ、必要な資源は地上に求めなければならなかった。

 僕は石波シンジ。三重の地下都市〈津〉の住人だ。今日の儀式が終ったら、一兵士として地上の探索に赴くことになっている。地上では核戦争時代に地下都市に逃げ込めなった人々が暮らしているらしい。その生活の援助と脅威の排除が任務だった。脅威には色々ある。核によって突然変異した生物は数多あり、野盗、巨大化し凶暴になった生物。なによりも恐ろしいのは核による空気汚染だった。

 初心者の兵士に配布される制服を身に纏って僕は儀式のある中央広場に行った。

 中央広場についた僕は最初に指定されていた場所に向かった。そこで一人の軍曹にあった。

 「おぅ、シンジ。そうか今日はお前も儀式を受けるのか」

 「はい、叔父さん」

 この人は俺の叔父さん。旧世界の日本の自衛隊に所属していた。世界が崩壊し、自衛隊もそれぞれ都市防衛軍と名前を変えていた。ちなみに僕の所属はBrother of troth(兄弟の契り)である。これは地上での任務に特化した部隊をさす。

 「ちょっと待て、お前の装備を取ってくる」

 そう言うと叔父の軍曹はテントに入っていった。

 シンジは周りを見渡すと何人か既に装備を受け取っているメンバーがいた。その中の一人に見覚えのある後姿を認めたシンジは声をかけた。

 「紗枝さえ!」

 紗枝と呼ばれた少女が振り向く。その顔には驚きと困憊の表情がしていた。少女はシンジの傍に来た。

 「ねぇ、なんであなたがここにいるの?」

 「なんでって、今日は儀式の日だろ?」

 「じゃああなたも受けるの?」

 「そうだよ?」

 シンジは何をというように言った。

 「やめろと言ったでしょ?だってあなたは」

 「何を争ってるんだ?」

 叔父の軍曹がシンジの装備を持ってやってきた。

 紗枝は軍曹に気付くとバツが悪そうな顔して去っていった。

 「彼女はどうしたんだ?」

 「わからないよ。ただ、嫌われているみたいで」

 シンジは肩を浮かしてみせ、装備を受け取る。

 「せっかくの美人と知り合いなんだ。チャンスを逃すなよ」

 叔父の冗談を軽く無視して待機所に向かった。

 待機所で空いているロッカーを探し、荷物を放り込む。迷彩服・戦闘防弾チョッキ・88式鉄帽・戦闘靴、個人と野営装備一式。それと化学装備に武器。着替えが終り、シンジは外に出た。


 支給された武器

 ・89式5.56mm小銃

 ・9mm拳銃

 ・M26破片手榴弾

 ・銃剣・コンバットナイフ


 儀式。名前だけは盛大だが式自体は質素なものだった。陸幕長とBrother of troth代表の挨拶と訓示を聞き、隊員章を受け取り終了した。

儀式が終ったシンジのところに叔父がやってきた。

 「どうだ?」

 叔父が聞いてるのはもちろん儀式のことだ。

 「あっけないね。拍子抜けしちゃったよ」

 「毎回こんなものさ。それより最初の任務だ。気を抜くな」

 「わかってるよ叔父さん」

 「本当だな」  

 あまりにも叔父が真剣になるからシンジは嫌なものを感じた。

 「・・・何かあるの?」

 恐る恐る聞いてみる。

 「いや、別にないよ」

 叔父はそれだけ言い残すと去っていった。

 「なんなんだ」

 結局、叔父の言いたい事はわからずシンジはこの叔父との会話をすぐに忘れてしまった。


 シンジと叔父の会話を影から見ていた紗枝。

 (何をはなしてるのかしら)

 紗枝とシンジは幼馴染である。ただ、小さいうちに離れ離れになった紗枝とシンジ。大きくなって再開したがなんとシンジは忘れていたのだ。その頃にはすっかり強気な性格になっていた紗枝は、プライドを傷つけられた気になり怒りを覚えた。それから何かとシンジに食って掛かるのだが、時には影からシンジを見つめたりするのだが、本人は勿論自覚はない。

 (危ないというのがわからないのかしら。あの隊員もよ!とめなさいよね、まったく。・・・あいつはどこの配属になるのかしら)

 いつの間にか考えに耽ていた紗枝はシンジが近づいてくるのに気付かなかった。

 「紗枝?」

 「!?」

 突然声をかけられ紗枝は心臓が跳ね上がった。

 「こんなとこで何してるの?」

 「べ、別になんでも・・・いいでしょ!」

 「何を怒ってるのさ」

 「怒ってないわよ!」

 「怒ってるじゃないか」

 「うるさいわね、関係ないでしょ」

 紗枝は会話を無理やり打ち切り、憤然としながら去っていった。

 シンジは訳がわからないといった感じで立ち尽くしていた。

 

 


 陸上への昇降エレベーターの前に集まった新人の兄弟たちは整列して待っていた。しばらくして、Brother of troth の上級者専用のアーマースーツを着た兄がやってきた。

 「兄弟たちよ。新しい我が弟よ。今日から君たちは私のそしてBrother of troth隊員達の新しい義兄弟だ。たしかに私たちは血のつながりはない。しかし、このBrother of trothの一員となったものは前歴に関係なく皆が兄弟だ。そのことを肝に銘じて欲しい。諸兄はこれから地上に出で、地上で果敢にも生き残り、生活している同胞を助けてもらう。地上は危険だ。もはや21世紀初頭の平和な風景はどこにもない!しかし、我々人類はいつの日か必ず!地上に戻り、再び地上の覇者として振舞う日が必ずくる!諸兄にはその尖兵として自らの命を懸けてもらいたい」

 そこまで話し、一旦話を止めBrothere of trothの隊長は皆を見渡した。微動だにしているものはいない。満足したのか隊長は再び話し始める。

 「清聴感謝する。遅くなったが私が諸弟たちの保護者(責任者)の合田実ごうだみのるである。階級は武士サムライにあたる。諸弟たちは今の隊列が分隊となり、私を小隊長に隊を組む。左から一分隊、二分隊となる」

 シンジは三分隊だ。ちなみに紗枝は一分隊。

 「諸隊の任務は最初に配っている連絡文書に記載しているが、私から簡単に説明をする。一分隊は小隊本部としてこのG1エレベーターを本部に警備を行う二分隊は生活必需品に困っている現地民に届ける輸送隊の警備に就く。四分隊は市街地に赴き、現地の兄弟達と協力して脅威の排除の任務に就く。五分隊は政府の商人隊キャラバンの護衛である」

 三分隊の任務が読み上げられなかったことに当事者以外の隊からもどよめきがあがる。

 「静かに。三分隊を外して話したのには訳がある」

 一人が手をあげる。実隊長が促す。

 「訳とはなんでしょうか」

 「それを今から話す。毎回必ず無条件に無選別で一つの分隊が選ばれる。今回は三分隊に矢が立った。三分隊の任務は最も過酷で危険で死亡率が四割を超える」

 四割。言葉で聞けば対してなんとも思わない数である。ただし、これを数字に置き換えて計算すると大変な事になる。普通の軍隊でも損耗率が30%を超えると壊滅と判断される。ただし、この損耗率には負傷兵が含まれるが、死亡率は必ず死ぬのだ。10名のうち4名は必ず死ぬ。20名なら8名死ぬ。

 しかもこの分隊5名なのだ。一度の戦闘で二人。二度で残りが一人か二人。しかも無傷とは限らない。

 「諸弟の思うところはよくわかる。しかし、この任務も必要不可欠でこの任務で生じる損害を我々上層部は必要損害として、認識している」

 実隊長の言葉は新人の隊員たちには厳しかった。

 

 

 

 

   

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