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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第四章 双冠の英雄

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第84話 双冠の英雄

 ギルドの大広間が、こんなにも騒がしい場所だったのかと改めて実感する。


 戦いの余波がようやく静まったグラムベルクの街。その冒険者ギルドに俺たちは招かれていた。いや、正確には讃えられるためにここに集められていたのだ。


「カイン殿! よく無事で……お怪我はありませんか?」

「まさか、グロムを退けたって本当なのか?」

「ヴァルディスに続いて、二人の災厄を打ち破った……!」


 言葉が、視線が、拍手が、俺に、俺たちに向けられる。

 ギルドの中でこれほど多くの人間に囲まれるのは初めてだった。武具の音、興奮気味の声、ぶつかりそうな視線……そのどれもが熱を帯びていた。


 俺は一歩引いてその熱気を感じながら、それでも冷静に呼吸を整えた。


 壇上に並んだのは俺を含めた四人。エルン、セリス、ルナ、そして俺。背後にはバルグラス王が堂々とした姿勢で立ち、ギルドマスターのヴェルナーがその隣に控えている。


「よくぞ、このグラムベルクを、そしてこの国境地帯を守り抜いた」


 バルグラス王の声が静かに響いた。抑えられた語気だが、その奥にある誇りは誰の耳にも届いていた。


「貴殿らの力により、ドワーフ領だけでなく、王都ロルディアにまで届こうとした災厄は未然に防がれた。この功はただの武勇にとどまらぬ。国家の誇り、民の希望である」


 バルグラスの言葉に続き、今度はロルディアから派遣された王家の使者が歩み出てきた。蒼銀のマントを揺らしながら彼は一礼し、(うやうや)しく文書を読み上げる。


「ロルディア王国、アドラスト・ロルディア陛下の名において、ここに勲章を授ける。今回の防衛戦には我が国の兵も参じており、貴殿らの活躍は王国にとっても多大な利益をもたらした。影を討ち、獣を退けし者——カイン殿、並びにその一行へ、『双冠(そうかん)の英雄』の称号をもって報いる」


 まるで夢の中にいるようだった。


 首にかけられた銀のメダル。紋章の刻まれたその重みは単なる金属ではなかった。人々の期待、王家の注視、国の評価……そういった見えない鎖が俺の首にそっと巻きつく感覚。


「……ありがとう、ございます」


 そう口にした俺の声は少しかすれていた。

 隣でエルンが柔らかく笑い、ルナが俺の裾をつついてくる。


「ねぇ、カイン。これ、かっこいい?」


「……ああ。すごく、な」


 ルナの胸元にも俺と同じ銀の勲章が揺れていた。


 その後も、いくつもの手が俺たちに差し出され、いくつもの言葉が飛び交った。


 ギルドの職員だけではない。武具屋の親父、宿の女将、駆け出しの冒険者、小さな子どもたちまで——まるで街全体が俺たちに感謝を告げているかのようだった。

 けれども、その熱気のなかで、俺の胸には少しだけ冷えた感覚が残っていた。


(……森は、どうだろうな)


 エルンの故郷でもあり、俺たちが追われたエルフェンリートの森。今のこの称賛をあの森の長老たちはどう見るだろうか。


 いや、きっと——「争いを呼ぶ者」として、変わらぬままだ。

 そんな考えを振り払うように俺は小さく息を吐いた。


 ***


 夜、式典が終わってから、俺たちはギルドの上層部から非公式の面談に招かれた。会議室の奥でヴェルナーが重い声で口を開いた。


「……お前たち、王都から正式な招待状が届いている。第二王子レオンハルト殿下の名でな」


「第二王子……?」


 エルンが俺の隣で小さくつぶやいた。


 ヴェルナーはうなずく。


「先ほどの勲章はあくまで国としての表彰だ。だが殿下は個人的に、お前たちにかなり注目している。『未来を導く者』としてな。是非とも直接会い、言葉を交わしたいとのことだ」


「なるほど……。そういうことですか」


 俺は考える。ギルド所属、王家の後援、名誉ある称号。それらが何をもたらすかは理解していた。

 だが同時に、それらは俺をどこかに属する者に変えてしまう。

 今、俺が望んでいるのは——力を振るう場所ではなく、守るべき居場所だ。


「……ありがたい申し出です。もちろん、お受けします」


 俺の言葉にヴェルナーは深くうなずいた。


「わかった。だが覚えておけ、お前のような男は否応なく時代の渦に巻き込まれる。覚悟はしておけよ、カイン」


「ええ……肝に銘じておきます」


 その夜、ギルドの広間を通りかかると、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえた。


「カインだー! 俺が蒼閃(そうせん)やるから、お前は火の子な!」


 ……俺は、ふと立ち止まり、そっと笑った。

 それは英雄としての誇りを得たからではなかった。元の世界で必要とされなかった俺が、誰かの記憶に残る。

 それだけで、十分すぎるほどの価値があると思えた瞬間だった。

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