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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第83話 それぞれの想い、導きの兆し

 夜のグラムベルクは静けさに包まれていた。戦いの熱気が引いた今、街はようやく普段の呼吸を取り戻し始めていた。


 カインたちはギルドの一角、特別に用意された部屋に集まり、暖炉の前で火のゆらめきを見つめていた。


「……ふぅ」


 カインは湯気の立つマグを片手に、背もたれへ体を預ける。じわじわと疲労が抜けていく感覚と同時に、ある実感が胸に湧き上がっていた。


「ここ最近、ようやくこの体に馴染んできた気がする。カイランの体を借りてるって感じが……前より、薄れてきた」


 その言葉に、隣で座っていたエルンが、ぱちりと瞬きをして微笑んだ。


「私もそう思います。魔力の流れや反応が、完全に身体に溶け込んでますもの。正直……人間の成長速度を遥かに超えてる気がして、ちょっと驚いてます」


「はは、俺も驚いてるよ。けど、無理をしてる感じはない。不思議だけど……すごく自然なんだ」


 セリスが頷き、真剣な眼差しでカインを見つめた。


「……カイン殿は、この世界の流れと繋がっているのかもしれません。私は、信じています。あなたこそが、エルフの森だけでなく、この世界を導いてくれる光なのだと」


「信仰告白みたいだな……」


 カインが少し気恥ずかしそうに笑うと、セリスも表情を和らげる。


「けれど、本気です。私は、この目で見ましたから」


「うんうん!」


 ルナが尻尾をふわんふわんと振りながら、カインの膝のそばに跳ね寄った。


「カインはすごいんだよ! だって、最初に会ったときから、ただの人間じゃなかったもん。もっと、もっとすごくなるんでしょ? ねっ!」


「期待されてるな……俺」


 カインは小さく笑い、火の揺らぎに目を移した。その視線の先に浮かぶのは、かつてのもうひとつの世界の影だった。


 誰にも期待されなかった日々。

 肩身の狭い職場。繰り返す無意味な作業。孤独な夜。


 そして——異世界で出会った仲間たちの声。命を賭して戦い、支え合ってきた絆。


「……こっちは、怖いこともいっぱいあるけど……でも、毎日がすごく充実してるんだ。現代の俺にはなかったものが、ここにはある」


 カインはマグを置き、ゆっくりと拳を握る。


 ——そのとき、頭の奥に、ふと懐かしいような響きが忍び寄る。


『賢者カイン、いや……英雄カインか。呼び名も板についてきたな』


 かつての賢者、カイランの意識が、再び彼に語りかけていた。


『この短期間で、ここまで己の肉体と精神を一致させてくるとは……お前の成長速度は、目を見張るものがある』


「……見てたのか、カイラン」


『ああ……。基本の魔法を昇華した今、秘術に触れる素養が備わり始めたかもしれん。特に、お前の魂は水だけでなく光の属性にも強い親和性を示している。同じ肉体に二つの魂を持つ所以ゆえんかもしれん』


「秘術……?」


『通常の魔法を積み上げた先、極限の集中と発想でのみ開かれる扉だ。選ばれた者だけが踏み入れる領域。かつての私が秘術を扱えた様に、お前にも、その兆しが見え始めている』


 その言葉に、カインは静かに目を閉じた。


 まだ見ぬ力への期待と、確かな自信。


「……なら、俺はそれを目指してみたい。自分の力で」


「だから、これからは……もっと自分の意思で、積極的に生きてみたい。思うままに、後悔しないように」


 その言葉に、エルンが小さく頷き、セリスは目を閉じて祈るように手を重ねた。ルナは満面の笑みを浮かべて、尻尾でぽふんとカインの腕を軽く叩いた。


「それでこそ、カイン!」


 暖炉の火が、パチリと爆ぜた。静けさのなか、確かな未来の光が芽吹いていた。


 こうして、グロム・ザルガスとの戦いを経たカインたちは、それぞれの想いを胸に刻み、新たな歩みを始めていく。


 その足取りは、確かに未来へと続いていた。


第三章・完

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