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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第72話 牙と風の交錯

 剣戟けんげきの音と獣の咆哮が交錯する戦場。セリスの率いる部隊は、都市南端の峡谷付近で敵の先鋒と激しくぶつかっていた。


「《風哭》……!」


 風を切り裂く音とともに、セリスの斬撃が獣魔族の肩口を裂いた。鋭いその一撃は、重厚な筋肉すら、あっさりと断ち切っていた。


「次っ!」


 彼女はすぐさま反転し、迫ってきたもう一体の獣魔族へ斜めに斬り込む。仲間の援護もあって一時は優勢に見えたが——


「ぐっ……!」


 仲間の一人が腕を負傷し、後退を余儀なくされた。さらに、後方の林から新たな獣魔族たちが姿を現す。ざりざりと土を踏みしめ、血に飢えた目で彼女たちを見据えていた。


「増援……!?」


 セリスはすぐに隊を後退させようと指示を飛ばすが、敵の一部が素早く側面に回り込み、包囲網を形成しようとする。


「まだ、倒れられません……! カイン殿が来てくれると信じて、ここを支えます!」


 その目には、強い覚悟が宿っていた。


「セリスの気配が不安定になってきたな」


 俺は地面に広げた地図を睨みながら呟いた。その傍らでは、ティルが魔力探知を続けている。


「魔力反応、急速に増加中です!これは明らかに……敵の増援が現れました!」


「くっ……!」


 ルナが耳をぴくりと動かし、顔をしかめる。


「変な音がしてる……骨がきしむような、そんな感じ。近くまで来てるよ」


 エルンが杖を握りしめ、俺に問いかける。


「どうします、カイン? このままでは、セリスたちが——」


「援軍を出してもらうようギルドに伝える。俺たちも行くぞ」


 俺に迷いはなかった。剣を抜き、仲間たちとともに前線へと駆け出す。


 戦場へと駆けつけた俺たちの視界に飛び込んできたのは、後退しかけたセリス隊の姿と、それを追い詰めようとする獣魔族の群れだった。


「エルン、前方に光を!」


「了解!」


 エルンが詠唱を終えると、眩い閃光が敵陣を照らす。視界を奪われた獣魔族たちが一瞬ひるむ。


「ルナ、右から回り込んで牽制を!」


「うんっ、いってくる!」


 ルナの素早い動きが敵の注意を引き、セリス隊が再び体勢を整える隙を作った。


「カイン殿!」


 セリスが振り返る。その顔には汗と土が付いていたが、瞳はしっかりと前を見据えていた。


「無理はするな。ここは俺たちが引き受ける。部隊を少し下げて立て直すんだ」


「……はい!」


 セリスは歯を食いしばって頷き、仲間を連れて後方へと下がっていった。


 その背を見送りながら、俺は魔力を集中させる。


「 流転の雫 (アクアオーブ)!」


 水球が炸裂し、敵の足元を濡らす。滑り、よろめいた隙に、俺の剣が一閃する。


「次っ……!」


 その切っ先が、獣魔族の腕を断ち落とした。怒号と共に敵が押し寄せるが、ティルがすかさず補助結界を展開する。


「結界、間に合いました! このまま押し切ってください!」


「いいぞ、ティル! その調子だ!」


 援護と連携が戦場を支え、徐々に敵の勢いが鈍っていく。


――数分後


 俺たちはセリスと再合流し、戦線を一時的に整理した。


「助かりました、カイン殿……私はまだまだですね」


「無茶はするな。セリスの踏ん張りがあったから、持ちこたえられたんだ」


 セリスは小さく息をつき、剣を見つめる。


「次は……もっと、強くなって、支えられるんじゃなく並び立ちたいです」


 その言葉に、俺は頷いた。


「俺もその横に立つ資格を持てるよう、もっと腕を磨かないとな」


 戦場は静まり返ったが、それは嵐の前の凪に過ぎなかった。敵の本隊は、まだ姿を見せていない。


 戦いは、これからが本番だった。

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