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50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

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第68話 鍛冶の都、グラムベルク

 ヴァルグリム鉱を鍛えた工房には、もう炎の熱気はなかった。だがその空間には、鍛え上げた三振りの短剣と共に、仲間たちの絆がしっかりと刻まれていた。


「本当に世話になったな、グレンダ」


 俺が短く礼を述べると、グレンダはふんと鼻を鳴らして、腕を組んだ。


「礼なんていいさ。あんたたちのおかげで、いい仕事ができたよ。武具がいる時はまたおいで」


「……ああ、また頼らせてもらうよ」


 ルナがぴょんと一歩前に出て、笑顔で手を振る。


「グレンダ、また一緒に鍛えてねっ!」


「はいはい、お嬢ちゃんは元気でな。くれぐれも、その刃でイタズラするんじゃないよ」


 ドワーフらしい飾らない別れだった。だがそこには、確かな信頼があった。


 こうして、俺たちはグレンダの工房を後にした。だが、すぐに旅立つのではなく、彼らはしばらくこのドワーフの都市に滞在することに決めていた。


「せっかく来たんだ。この国の文化や技術、見ておきたいと思ってな」


 俺の目は少年のように輝いていた。


 ドワーフの都市——正式には『グラムベルク』と呼ばれるこの地は、巨大な岩盤をくり抜いて築かれた山中都市であり、屈強な職人たちが暮らす「鍛冶と鉱石の都」として名高い。


 市内を歩けば、通りのあちこちに鍛冶工房が並び、鉄を打つ音がリズムのように響いている。道行く人々は皆、無骨で逞しく、それぞれが何かしらの技術を身につけた者ばかりだ。


「わぁ……これ、全部武器なの?」


 ルナが武具展示市場の前で目を輝かせて立ち止まった。壁一面に陳列された斧やハンマー、槍の数々。それらはどれも芸術品のように装飾されており、実用性と美しさを兼ね備えていた。


「単なる装飾じゃないな。重心、素材、細工……どれも緻密だ」


 俺は食い入るように見つめながら、小さな手帳にスケッチを書きとめていた。


 エルンは道中の市場で、風の精霊に呼応する石を見つけ、興味深げに店主と会話を交わしている。セリスは皮細工の店で、動きやすい新しい装備を吟味していた。


 それぞれが、束の間の休息を楽しんでいた。


 その日の夜。宿のテラスで、ルナと俺は並んで星を眺めていた。


「ねえ、カイン。こんなふうに、みんなで旅できるのって、なんかいいね」


 ルナがぽつりと呟いた。


「そうだな。……こんな静かな夜が、ずっと続いてくれるとありがたいんだけどな」


 俺が笑いながら答えると、ルナはふふっと小さく笑って頷いた。


 だが、その目はどこか遠くを見つめていた。夜空に星がまたたく中、ルナは微かに眉を寄せた。


「……なんかね、ほんの少しだけ、胸がざわざわするの」


「ん? どうかしたか?」


「ううん。気のせい、だと思う」


 そう言って笑ったが、俺はその表情をしっかりと覚えていた。


 一方その頃、遠く離れた魔族領、黒煙の丘では——。


 巨大な影が、山中の広場を歩いていた。


 グロム・ザルガス。全身を毛皮と鋼で包み、野獣のごとき気迫を漂わせる獣魔族の実力者。


「よくぞ集まった。我らの狩りの時が来た」


 岩肌に響くような咆哮が、配下の戦士たちの胸を震わせた。


 その傍らには、黒いローブを纏ったダークエルフ、ネフィラが静かに立っていた。


「進軍先はロルディア。そこに、賢者と呼ばれる男がいる。ヴァルディス・ノクターンを討った者、カイン……次の標的よ」


 ネフィラがグロムに耳打ちする。


「強い奴が現れたのなら狩りに行く。理屈など不要だ」


 グロムは口角を吊り上げると、地を踏み鳴らした。


 まだ出陣の号令はかかっていない。しかし戦の鼓動は、確かに高鳴り始めていた——。


 ネフィラはグロムの背中を見送りながら、ゆっくりと目を細めた。


「……やはり、力で動く者は扱いやすい。ヴィンドール様のお考え通り、ことは運んでおります」


 彼女の指先がローブの内側で何かをなぞる。小さな魔具に刻まれたヴィンドールの紋章が淡く光った。


「カイン、そしてあのエルフたち——秩序を乱す希望など、すべて消してあげますわ」


 彼女の瞳には、忠誠と狂信が静かに揺らめいていた。



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