表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく  作者: かわさきはっく
第三章 戦王の咆哮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/255

第65話 ドワーフの都へ

 ヴァルディス・ノクターンを打倒した後、俺たちは王都ロルディアで一時の平穏を味わっていた。王宮から報酬として金貨と物資が支給されたことで、生活に余裕が生まれたのだ。


 ある朝、宿の食堂で食事をとっていた俺は、パンを口に運びながらふと呟いた。


「この世界の武具って、どんな進化をしてるんだろうな……一度、ちゃんと見てみたいもんだ」


 そう言う俺に、セリスが真面目な顔で問い返す。


「カイン殿、武具のご研究をなさるのですか?」


「うん。王都の鍛冶屋も悪くなかったけどな、やっぱドワーフの技術ってのは気になる。せっかくだし、一度足を運んでみようかと思ってな」


 その言葉に、エルンとルナも賛成した。エルンは「ドワーフの工芸技術には昔から定評がある」と語り、ルナは「おいしいもの、あるかな?」と目を輝かせた。


「それにセリスにもな。ここまで一緒に頑張ってくれたお礼に、いい武具を用意したいと思ってるんだ。俺たちの装備も見直しておきたいしな」


 俺の言葉に、セリスはきょとんとした後、姿勢を正して深く頭を下げた。


「恐れ多いお言葉です、カイン殿。ですが、もしお心遣いをいただけるなら……全力でそれに応える剣となります」


 その真剣な眼差しに、俺は思わず笑みを浮かべた。


 こうして一行は馬車でドワーフの領地――グランハルト砦都市へと向かう。


 旅路は平穏だった。春の陽光に包まれた野山を抜け、岩山に囲まれた峡谷を越える頃には、赤茶けた石造りの城砦が見えてきた。都市の周囲には大小の工房や鍛冶場が立ち並び、鉄と炎の匂いが漂ってくる。


 市場を歩けば、金属製の装飾品、武具、工具が所狭しと並び、商人たちの声が飛び交っていた。


「すごいな……ここ全部、職人の手仕事か」


 感嘆する俺に、セリスは丁寧に頷いた。


「さすがドワーフの都ですね。鍛冶技術の粋が集まっているのが分かります」


 ふと、俺の目は一本の細い路地に吸い寄せられた。賑やかな市場から外れたその先に、煤けた看板と無骨な鉄の扉が見える。


「ちょっと寄ってみようか」


 俺が扉を開けると、鉄と油の匂いが鼻を突いた。工房の奥では、小柄ながら筋骨たくましいドワーフの女性が、大槌で鉄を打っている。手際よく叩かれた金属が、赤熱のまま整形されていく。


「いらっしゃい。冷やかしかい?」


 ドワーフの女性が振り返る。鋭い目をしたその人物が、グレンダ・ブレイズロックだった。


「いや、本気で興味があってね。強い武器や防具って、どんなのがあるのか気になっているんだ」


 そう答える俺を、グレンダはまじまじと見つめた。


「……あんた、その顔。賢者カイランにそっくりだな」


「……知ってるのか、カイランを?」


「ああ。百年ほど前に、うちの親方が一度だけ話したってさ。あの時代に異端の理論で精霊鍛冶を論じた変わり者……でも、天才だったってね」


 俺は少し迷った後、転生の事情を簡単に話した。グレンダは黙って話を聞き、しばらく沈黙した後、口の端を吊り上げた。


「面白いじゃないか。あんた、何か作りたいもんがあるんだろ?」


「そうだな……たとえば、エルフの女性剣士が使うんだが、彼女に合うような武具って、何かおすすめはあるか?」


 その言葉を聞いたグレンダは、俺の背後に立つセリスをちらりと一瞥した。


「なるほど、エルフの戦士か。ふむ、筋力は人間よりも劣るが、しなやかさと反応速度は群を抜いてる。加えて精霊との相性もいい……つまり、力で押す武器よりも、技と速さを活かす設計が求められるわけだ」


 そう語りながら、グレンダは壁際の棚からいくつかの試作品を持ち出してくる。


「たとえばこの細剣は軽くて扱いやすいが、威力がいまひとつ。逆にこっちは威力があるが、重すぎてエルフ向きじゃない。結局な、武器ってのは何を活かして、何を捨てるかの塩梅なんだよ」


 彼女は作業台に剣を並べながら、ぼやくように続けた。


「威力を上げればそのぶん重くなる。切れ味を高めれば、脆くなりやすい。これが難しいんだ。バランスの問題でな」


 少しのあいだ、腕を組んで思案する素振りを見せた後、ぽつりと呟いた。


「もしだ、超硬度の鉱石、ヴァルグリム鉱が加工できればな……切れ味抜群で、しかも衝撃にも強い剣が作れる。軽さはないが、重心設計でなんとかできるかもしれん。問題は、あれを加工できる鍛冶師も魔法使いもほとんどおらんってことだ」


 そう言ってグレンダはじっと俺を見据える。


「……カイラン殿の知恵なら、何とかなったりするのかね?」


 俺は顎に手を当てて少し考え、それからにやりと笑った。


「ヴァルグリム鉱か……水魔法なら、いけるかもしれないな。削るというより、冷却と振動で表層を剥ぐようにすれば、割らずに形を整えられるかもしれない」


 その言葉に、グレンダの目が輝いた。


「……それだよ! いやあ、やっぱ面白いな、アンタ。よし、やってみよう! あの鉱石を扱えるってんなら、エルフの剣士に相応しい一振りを一緒に作ろうじゃないか」


 こうして、異世界の知識とドワーフの技術が交差する瞬間が生まれた。


 一方その頃、魔族領・黒煙の丘では、黒い咆哮が大地を揺るがしていた。


 巨躯の獣魔族――グロム・ザルガスが牙を剥く。


「戦の匂いがする。なら、進むだけだ……」


 その傍らには、フードをかぶったダークエルフ、ネフィラの姿があった。


「賢者がまた動き始めました。今こそ、その力で秩序を示す時です、グロム様」


 グロムが吼える。


「正義も平和もいらん。強きが勝つ。それだけだ!」


 その叫びが、風を裂き、鉄と火の都へと向かう気配となる。


 今、静かな都が、ざわつき始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ